右メニューへスキップ  メインコンテンツへスキップ(スクリーンリーダーをご利用の方、キーボード操作の方のアクセシビリティ向上のため設置)



メニューを飛ばす


裁判所トップページ > 裁判所について > トピックス > 憲法記念日を迎えるに当たって


憲法記念日を迎えるに当たって

平成29年5月

憲法記念日を迎えるに当たって

最高裁判所長官   寺田逸郎

 日本国憲法施行から70周年を迎えました。憲法に沿って新たに制定され,同時に施行された裁判所法の下で発足した戦後の裁判所も70年を迎えたことになります。裁判所は,今日に至るまで,憲法の下で負託された司法権の行使として,社会に生起する紛争の解決を通じて経済の発展,社会の安定に寄与するべく努めてきました。その間,我が国社会も,それを取りまく環境も,いくつかの節目を経て変化してきましたが,今世紀に入り,その変化はさらに動きを速めているように見えます。今や,情報技術の目覚ましい発展を背景に,経済や金融など多くの事象が国境を超えて相互に作用し合う複雑な状況を呈していて,その反面で,既存の枠組みや秩序への疑念が,様々な場面で顕在化しつつあります。これに加え,近年,東日本大震災に代表される大規模な自然災害が国民生活に深刻な影響を及ぼしていることも我が国社会が抱える大きな課題です。こうした中,国民の権利を救済し,適正な法的紛争解決を通じて「法の支配」を実現することを不変の使命とする裁判所の役割はますます重みを増していると受け止めています。前世紀末から,国民の司法制度に対する期待に応えるため,司法制度改革に伴う各種の制度改正や様々な基盤の整備等が進められてきましたが,裁判所が,このような改革の成果を生かしつつ,これまで以上に,社会の多様でスピーディーな変化に対応できる柔軟性を備え,その法的ニーズに的確に応えていかなければならないという認識は,裁判所内で共通のものとなっていると考えています。
   具体的な課題としては,まず刑事裁判について,刑事訴訟法が改正され,多彩な制度が新たに導入されることとなったことから,その適切な運用が求められていることがあげられます。これから施行される証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度は,我が国にはこれまでになかった全く新しい制度ですので,どのような運用がなされるのかについて,関係者の動きを注視しつつ,柔軟な発想で,裁判官同士で議論をするなどして,施行に備える必要がありますし,取調べの録音録画制度の裁判員裁判への影響等についても検討を深めていくことが望まれます。
  近年,民事事件を中心に,社会経済や国民生活に大きな影響を与える事件が司法に持ち込まれ,裁判所の示す判断に対する社会の関心が高まりを見せていることや,家族のありようが大きく変化し,これを受けて,家庭をめぐる解決が困難な紛争が増加するとともに,その内容も深刻の度を増していることは,再三申し上げているとおりです。裁判所の審理判断の質の水準は個々の裁判官の自覚や研修などの工夫を通じて高まっていると思う一方,国民から信頼される裁判所であり続けるために,裁判の質の向上に向けて更に不断の努力を積み重ねていかなければならないことを痛感します。そのために,紛争の実体を的確に把握し,法的な視点から検討を加え,合理的な期間内に妥当な結論を導くという,司法本来の役割である紛争解決機能をより一層高めるための取組を継続的に進めて参ります。
  日本国憲法の基本理念である「法の支配」の実現は,国際的な課題でもあります。そのため,国際会議などの司法交流の場を通じて,法の支配の理念の浸透に向けた司法の役割について意見交換を重ねていくことが重要と考えています。この秋には,東京でアジア太平洋地域を中心とした高位法曹が集う,法の支配を基本理念とした国際会議が予定されています。そして,その後には,同じく東京で知的財産関係訴訟に関する国際シンポジウムが開催される予定です。このような国際的な意見交換の場を重視し,問題意識を持って関わることは,意義のあることであり,このような機会に「法の支配」の浸透が国際的にも一層の広がりを見せることを期待しているところです。
  憲法記念日を迎えるに当たり,「法の支配」の理念の重要性と裁判所に期待される役割の重さを改めて自覚し,裁判所が国民の信頼に応え続けるため力を尽くす所存です。