「レジ袋を食べる虫」を歓迎できないワケ、貴重な資源をドブに捨てている?
ごみ処理問題が解決すると思いきや、別の指摘も
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イギリス・ケンブリッジ大学の研究チームは、学術誌「カレント・バイオロジー」に4月24日発表した論文で、釣り餌として利用されるハチノスツヅリガ(学名:Galleria mellonella)の幼虫「ワックスワーム」が、プラスチックも分解できると発表した。
研究チームは、ワックスワームが世界のプラスチックごみを削減するカギを握っているかもしれない、と述べている。
論文によると、ワックスワームに、 ポリエチレン・プラスチックを体内に取り込む能力があることが判明した。この発見は、世界中の人々が毎年利用している膨大な量のポリ袋を分解する新たな方法を示唆しているという。
この幼虫の独特な食性は、スペインの首都マドリードの研究施設「スペイン国立研究協議会」のスペイン人生物学者フェデリカ・ベルトッチーニ氏が蜂の巣の世話をしている時に、偶然発見したという。
ベルトッチーニ氏は、蜜蝋を食べて蜂の巣に害を与えるワックスワームを蜂の巣から取り除き、プラスチック製のレジ袋に入れておいた。しばらく後で見てみると、袋は穴だらけになっていた。
「後になって、蝋とプラスチックは化学的性質の一部が同じなのだと気付いた」と、ベルトッチーニ氏は語った。
「蝋はポリマー(重合体)です。つまり『自然のプラスチック』のようなもので、化学構造がポリエチレンとそう変わらないのです」
ポリエチレンはよく「自然のプラスチック」と呼ばれるが、それは誤りで、最も分解されにくいプラスチックの一種だ。スペイン国立研究協議会によると、環境への懸念に加えて毎年約8000万キログラムのポリエチレンが生産されており、1人が1年間に使うポリ袋の数は、230枚にのぼるという。
この幼虫の能力を調べるために、研究者たちはおよそ100匹の幼虫にレジ袋を与えた。幼虫たちはレジ袋を齧り、40分以内にかなりの数の穴をあけた。 12時間後、幼虫たちはレジ袋の重さを92ミリグラム減少させた。研究チームによると、これは典型的なポリ袋のおよそ6分の1にあたる重さだという。
「私たちはこの発見を、実用的なプラスチックごみの処理手法に応用するつもりです。海や河川など、あらゆる自然環境を、プラスチックの堆積がもたらす避けがたい影響から守る解決策のために、努力しています」。
幼虫がどのようにしてプラスチックを分解しているのかについては、まだ研究すべきことが多くある、とベルトッチーニ氏は語った。
「この幼虫は化学結合を解く、何らかの物質を作り出しています。恐らくは唾液腺か、消化器内の共生細菌によって生産されるのでしょう」と、ベルトッチーニ氏は語った。「私たちが次に取りかかるのは、分解反応の分子過程を明らかにし、反応を引き起こす酵素を取り出すことができるかどうか確かめることです」
世界的課題となっているプラスチックごみの処理問題は、これで解決するのだろうか? 少なくともある科学者は、そう上手くはいかないと指摘している。
マサシューセッツ州「ウッズホール海洋研究所」の海洋生物学者トレイシー・ミンサー氏は、幼虫に注目するのではなく、プラスチックの生産削減とリサイクルの促進に努力を集中させるべきだ、と強調した。
ミンサー氏は『ナショナル・ジオグラフィック』に、「ポリエチレンはさまざまな形でアップサイクル(付加価値の高いものに作り変えること)ができる高品質樹脂で、1トン当たり500ドルもの値がつきます」と語った。「私の意見では、今回の発見は自然史の驚くべきエピソードであり、素晴らしい学問的成果ではありますが、ポリエチレンの廃棄問題の解決策ではありません。お金をドブに捨てるようなものです」