うちのヲタなブラザー(以下:ヲタB)が都内某所でSEをしていた時の話。
ヲタBと私は水と油。ヲタBは、論理的な思考と会話ができない超文系な私をどこか馬鹿にしているような節がある。
話口調もヲタ独特で、話の中に横文字があまりにも多く並ぶ。
「いっそのこと英語で話したらどお?」と嫌みの一言でも言いたくなるような奴だ。
ヲタBはヲタっぽい髪型をしている。ヘアカットへ行く機会をとうに逃したであろう長めの髪には寝癖がついたまま、眉毛もよく整えられていない。
ナメられなくないとのことで筋トレを習慣にしているそうだけど、光に当たらないので肌が白い。また、暗闇で遭遇したら、ギョロリと光る眼にギクリとなりそうな大きな目をしている。
あまりにも女っ気がないので、親が「あの子はやっぱり男の子が好きなのか?」と心配していたことがあったが、単にモテないだけなので心配しなくて良いという話をしたことがあった。勝手な想像だけど、二次元女子とかが好きそうな感じだから。
たぶん彼、S(趣味は)E(エロゲー)なんだと思う。
(一般的なSEさんがどうなのかは知らないので、怒らないでね♡ あくまでうちのヲタBの話です)
そんなヲタBがなぜ韓国に来ることになったのかというと、当時私が韓国に住んでいたからだ。自分の意志とは裏腹に、夫(当時は彼氏)の国で嫌々生活していた時期があった。韓国を好きな人が世の中に存在することは知ってはいるけど、私にはどうしても肌の合わない国だった。
で、ヲタBは辛い食べ物が好きらしく、私が韓国滞在中だと知ると食い倒れ目当てでやってくることになった。私も1年以上会っていなかったので、「別に良いよ」と返答した。
こんな感じのヲタBなのだけど、彼が韓国に着くとすぐに違和感を感じた。
何か女子たちがこっちを見て噂してる?
私?じゃなくて、ヲタBのことだよね?
だって、「カッコイイ」とかって言ってるもんね。
って、カッコイイ?!
コンタクトレンズか眼鏡を忘れたのか?韓国女子たち???
いやいや、嘘でしょう。
奇特な人もたまにはいるもんだわねぇと思っていたけど、あの違和感は本物だった。
ヲタBは韓国語がわからないし普段日本で全くモテないので、状況を一切理解していなかったけど、すぐに本人でも理解できるようなことが起こり始めた。
トイレに行って戻ってきたら、なんと、ヲタBがオバチャンたちに囲まれていた。
地図を持って周りを見渡していたら、いつの間にかこうなっていたらしい。
親切なオバチャンたち(しかも赤の他人同士)×3人が寄ってきて、「どこにいきたいの学生君?」「連れって行ってあげるわ」「イケメンだわねぇ」などと言われている。
「連れて行ってあげる」と言ったオバチャンはヲタBの腕を引っ張っている。
さらに少し離れたところから、ちがうオバチャン2人が話の行方を見つめている。
(イラストの様なお姉さんではない。韓国のザ・オバチャンたちだった)
面白いのでしばらく放置してみた。
ヲタBは韓国語がわからない。強い言葉のトーンに怒られていると思ったようで、私を見つけて助けを求めてきた。見つかっちゃったか。
実は私も韓国語はできない。簡単なことならある程度はわかるけれど、話すことはほぼできない(というかしない)ので基本は英語で通している。
オバチャンたちは私を見かけると女連れだと思ったようで、私が韓国語を発するまでもなく、蜘蛛の子を散らすようにサーーっと去っていった。
私のことを睨みながら。
そのうちの1人は舌打ちをしながら。
わ、わたくし、何かしましたでしょうか?
シスターですけど・・・
顔が似ていないため、オバチャン勢にはわからないようだったけど、弁解するのも不毛なのでやめておいた。
観光で街歩きをしていても、ちょくちょく女子らの視線を感じる。彼女たちの視線の先は、どうも本当にこのヲタであり、ヲタBを見て噂しているようだった。
そして、おまけに必ず私へも視線がくる。嫉妬による睨み攻撃ビームであり、どこに行っても容赦なくそんな視線が降り注がれた。ビームを受けすぎて身体が溶けそうだった。
いや、落ち着け韓国女子どもよ。
ただの日本のキモヲタだぞ、君たち。
ヲタBは家族からすれば、どっからどうみてもただのオタクでしかないのだけど、どうも韓国アイドル(?)の何かに似ていると言われているようだった。勘違いかもしれないけれど。
うちのヲタBは整形顔ということか。
疲れたのでカフェに入ると、少し調子に乗ってきたヲタBが「注文をしてみたい」と仰せになる。
クダサイは「ジュセヨ」だという言葉を伝えただけで、気の大きくなったヲタBは注文に出かけて行った。
(正確には、無声音で前の単語が終われば「チュセヨ」になるが、明らかに話せない観光客なので別にいいだろうと思い言わなかった)
家族として一応心配で流れを見つめていたのだけど、店員の目が輝いていることにすぐに気づいた。店員の女の子がとびきりの笑顔でヲタBへ接客し、支払いが終わった後は少し奥の同僚のところへ行ってキャーキャー騒いでいた。
マジか。
ヲタBにもモテマーケットがあったか。
ヲタBは、人生で初めて味わう気持ちの良い反応に幸せそうだった。
カフェはファストフード店のようになっていて、出来上がったら呼ばれるので取りに行くという形だった。飲み物の名前と頼んだデザート名を言われるだけだけど、ヲタBがわかっていなかったので私が取りに行った。
すると、想像するに易し。なかなか酷い扱いをされた。
韓国の方々は、異性に対しては優しいけれど、同性に対しては明らかな敵意を持って接するのだ。
店員の女の子は噂のイケメンが来ると思って期待していたらしい。しかし、想像に反して、大嫌いなザ・日本女がやってきたのでいたくご立腹の様子であった。
店員は、飲み物と食べ物の載ったプレートを「ガンッ!」と音を立ててカウンターに置き、その衝撃で飲み物が2つとも吹きこぼれた。
当然「お待たせしました」だとか「ありがとうございました」などという言葉がかけられるわけがなかった。
私、ただのヲタBの、ただのシスターなんスけど・・・。
似ていないということで彼女かなんかだと思われたようだけど、ヲタBの彼女になるなんて生まれ変わっても無理である。それならば、一生フリーでいいと思うのが一般的な日本女子の意見なのではないかと思うけれど、韓国ではヲタBは確かに需要がありそうだった。
ヲタBが途中で気づき近くへやってきて、「かむさはむにだー」と母音だらけの超日本人発音でお礼を言うと、韓国女子スタッフ2人がキャーキャー喜んだ。
「日本人かなぁーめっちゃ可愛い!」
「かむさはむにだー(真似)だってー♡ やばーーい!可愛い❤」
ケッ。
ヲタBはここで初めて、男からの視線を感じた様子であった。カフェの男性スタッフらが面白くなさそうにヲタBを見ていたからだ。オタク街道まっしぐらを歩んできた正真正銘のヲタBには、人生で初めての体験であるようだ。
蔑みではない 嫉妬の視線を浴びたから 今日はモテB記念日 である。
韓国は色々とおかしい。
しかし、オタクにもマーケットはあることに気付けたのが今回の学びか。
韓国に行けて良かったね、ヲタB。
他にもエピソードはあるのだけど、3,000字を超えて手が疲れてきたので、とりあえず今回はここまでにしよーっと。ではでは。