昔懐かしいレトロな鉄道風景に出会う、肥薩線&くま川鉄道の旅/古谷あつみの鉄道旅Vol.14
何があるわけではないけれど、なんだかずっと眺めていたくなる、また見たくなる風景。日本に残る、そんな懐かしい香りがする車窓に会いに、九州は熊本へ行ってきました。
今回のみどころはここ!
2.心温まる、ほっこりくま川鉄道の旅
3.ここはどこ?寝台列車の旅!?
4.ループ線ってなぁに?おもしろ路線へ行ってきました
1.王道!SL列車の旅
懐かしの鉄道風景に会いに行く旅!はじまりはここ、八代駅です。
「懐かしい」と言えば、SLを思い浮かべる方も多いんじゃないでしょうか?
と、いうわけでそんな王道懐かし旅のスタートは「SL人吉」から!
「SL人吉」を牽引するのは「ハチロク」の愛称で親しまれる、8620形の58654号機。1922(大正11)年に製造された蒸気機関車です。
SLの魅力って何?と聞かれることがあるのですが、なんといってもこの煙でしょう!カッコイイじゃありませんか。
しかも、独特の「香り」も味わえます(石炭が燃える匂いですね)。電車にはない引っ張られているような感覚の乗り心地は、実際に乗ってみないとわかりません。
そして、「SL人吉」ならではの魅力と言えば、なんといっても球磨川の風景でしょう!
でも、ごめんなさい。取材日は台風通過直後だったため、本来の姿を写真に収めることはできませんでした…。
けれども、何度も撮影に訪れている助川カメラマンは「晴れた日には川がエメラルドグリーンに輝くんです!」と力説。それを見たかったなあ。しかし、濁っていても壮大な景色です。
球磨川は列車の右側に現れたり、左側に現れたり!
どちら側の座席からでも車窓は楽しめ、鉄橋などの見どころの前では案内アナウンスも入って、テンションは最高潮に達します。
「SL人吉」では、途中の停車駅である一勝地駅にて、停車時間を長めに設けています。
ここは縁起が良い駅名として有名で、勝利を願うスポーツ選手や受験生などがお守りに入場券を求めにくるほどなんです。
JR九州「SL人吉」
4~11月の金・土・日・月曜、祝日に、熊本~人吉間に1日1往復運転。乗車区間の乗車券の他に大人820円、小児410円の座席指定券が必要。座席指定券は、全国のJR駅の「みどりの窓口」で、乗車日の1ヵ月前から購入できる。
050-3786-1717(JR九州案内センター・8:00〜20:00/年中無休)
さてさて、人吉駅に到着しましたよ!
SL旅の締めくくりは、人気の駅弁を食べること。その駅弁とはいったい…!?
まずは、見た目にも面白い、栗の形をした人吉駅の駅弁「栗めし」。古くから鉄道ファンから愛され、親しまれ続けています。
その誕生は、なんと1965(昭和40)年。人吉地方の名物の栗をはじめ、野菜の煮物など懐かしい味のお総菜がぎっしり。
そして、もうひとつ。肥薩線沿線で人気なのが、八代駅前で三代続く鮎家「より藤」の人気駅弁「鮎屋三代」(1,250円)!
JR九州が実施した「九州駅弁ランキング」で、第1回から第3回まで、3年連続1位を獲得したほどの人気駅弁です。
2004年3月13日の九州新幹線新八代~鹿児島中央間開業に合わせて売り出されました。
それにしてもインパクトのある見た目!
球磨川で獲れる天然の鮎の出汁でふっくらと炊き上げられたご飯の上に、秘伝のタレで骨までやわらかく煮込まれた鮎の甘露煮が、どーんとまるごと一匹乗せられています。
でも私は魚が食べられない…そこで今回も、土屋さんに食べていただきました。
古谷「土屋さん、どうですかぁ?」
土屋「川魚の甘露煮は、ちょっとクセがあるけど好きな人は大好きで、僕もそう(笑)。個性的で、『通好み』の味というところかな?都会ではあまり食べる機会がないし、昔、田舎のおばあちゃんが作ってくれたとか、そういう懐かしさが感じられるね…」
なるほど~!懐かし味のする駅弁をぜひ味わってみて下さいね!
より藤(頼藤商店)
熊本県八代市萩原町2-1-6
[営業時間]9:00~19:00(駅弁は売り切れの場合があります。)
[定休日]1~5月の日曜
0965-33-1145
2.心温まる、ほっこりくま川鉄道の旅
出発は、JR人吉駅の隣りにある、くま川鉄道人吉温泉駅。
くま川鉄道はここと湯前(ゆのまえ)駅の間、24.8kmを結ぶ鉄道です。
私の隣りは土屋さん…ではなく(笑)
なんと、私が福岡市内で講師をしていた学校の卒業生、椎葉悠太(しいばゆうた)さんです!鉄道員になる夢を叶え、くま川鉄道で整備のお仕事をしています。
懐かしの旅で、懐かしの人に出会っちゃいました!(笑)
椎葉さん「古谷先生、お久しぶりです~!」
古谷「わ~!久しぶり!ちょっと、取材に来たと!」
椎葉さん「それは嬉しいです。僕たちが整備した車両も自慢ですけど、車窓もゆっくり楽しんで行って下さいね。そうだ、沿線に面白い宿があるので、今日はそこへ泊まってくださいよ!」
土屋「実は、そこに泊まることになってるよ~。」
古谷「え~!面白い宿ってなんですか!?気になる!」
椎葉さん「行けばわかります。」
くま川鉄道では観光列車「田園シンフォニー」に乗車します。
これは、さまざまな観光列車のデザインを手がける水戸岡鋭治さんがデザインしたディーゼルカー。全部で5両あり、それぞれに季節を現す「春」「夏」「秋」「冬」「白(白秋)」とデザインのテーマが与えられており、このうちの2~3両の組み合わせで運行されます。
車内は、各車両共通のテーマとして、木の温もりが感じられるデザインになっています。
球磨地方産のヒノキを贅沢に使用し、懐かしさと近代的な香りが隣り合わせになったような不思議な空間です。
なお、「田園シンフォニー」は、乗車券のほか、座席指定料金300円のみで乗車可能なんです。ビューポイントでは徐行運転をするなど、通常よりも約20分ほど列車の旅を長く楽しめるほか、停車駅では「おもてなし」(内容はその都度変わる)が楽しめるので、この料金は良心的です!
くま川鉄道「田園シンフォニー」
月・金・土・日曜、祝日に人吉温泉発湯前行きの片道1本運転。乗車には、乗車券の他に300円の座席指定券が必要。予約はくま川鉄道で受け付ける他、JR九州の「みどりの窓口」、主要旅行代理店でも購入できる。
0966-24-8977(くま川鉄道予約センター・10:00~17:00/土・日曜、祝日休み)
観光列車の運行日や、時間が合わない!という方もご安心ください。
実はくま川鉄道の普通列車は、すべて「田園シンフォニー」と同じ車両での運転。
徐行運転や「おもてなし」こそありませんが、乗車券だけでこんな素敵な車両に乗ってもいいのでしょうか?
良心的すぎます!
球磨川もこんなにど~ん!と大きく見えますよ。
この日は台風の影響で濁っていましたが、ふだんは美しく、おだやかな球磨川を望むことができます。
さて、この列車「田園シンフォニー」と名前がついていますが、その名前の由来がすぐにわかりました。
美しい田園風景が車窓いっぱいに広がるのです!
車内では、ベートーベンの有名な交響曲(シンフォニー)第6番「田園」が絶え間なく流れ、美しい音楽と車窓のハーモニーが楽しめます。
田園風景を見ると、どこか懐かしい故郷に帰って来たような優しい気持ちになります。
特になにかあるってわけでもない、ただ田園が続く。逆にそんな風景が、とても魅力的なんです。
運転台の横に張り付くと、こんな綺麗な景色が!「癒される~!」このひと言に尽きます。
時々垣間見られる沿線の人々の生活も、どこか懐かしくって、ほっこりします。
木上駅は待合室とホームが、国の有形文化財に登録されています。
くま川鉄道の前身である国鉄湯前線は1924(大正13)年の開業。当時の建造物が多く残っていることから、駅舎や橋梁など、他にも合わせて19件もの建造物が有形文化財に登録されているのです。
人吉盆地(球磨盆地)は広く、シャッターチャンスもたくさん。美しい緑が広がる写真が撮れますよ。
湯前駅へ到着。くま川鉄道完乗です!
3.ここはどこ?寝台列車の旅!?
土屋「寝台列車さ。最寄りは多良木(たらぎ)駅。」
古谷「多良木駅から寝台列車!?そんなの走っていましたっけ?」
くま川鉄道多良木駅の駅舎は不思議な形。しかし、この駅から寝台列車に乗れるとは!?どういうことなんでしょうか?
土屋さんに案内され、着いた場所には驚き!
そこには、2009年3月に惜しまれながら廃止された寝台特急「はやぶさ」が堂々と佇んでいたのです!
今や、姿を消したブルートレイン。テンションが上がります。
ここ、実は「ブルートレインたらぎ」という簡易宿泊施設。「はやぶさ」に使われていた寝台車3両を改造し、多良木駅のすぐそばで営業しているのです。
今夜は懐かしのブルートレインの雰囲気を味わおうということだったのです。土屋さん、さすが!
実は私、ブルートレインは初体験…
私の部屋は、元個室B寝台「ソロ」。
上段と下段があり、ここは上段!窓からは外の景色がよく見えます!
室内のコントロールパネルや照明は使えませんが、内装は現役時代のまま。本当に寝台列車に乗っている気分です。
宿泊施設として使いやすいよう、コンセントなどは取り付けられているので安心!
携帯の充電もできますし、ヘアアイロンだって使えます。
お手洗いや洗面所などは別棟にあって、綺麗で使いやすく、女性も安心。
宿泊料金には、すぐ近くにある天然温泉「えびすの湯」の入浴券も含まれるので、お風呂の心配もありません。
せっかくなので、他のお部屋も覗いてみましょう!こちらは「ソロ」の下段。
上段より天井が高く、広々とした印象です。好みが別れると思いますが、私は上段派!
こちらは、廊下との仕切りがない開放型のB寝台車。
友達や家族で楽しい夜を過ごしたい方は、こちらがおすすめです。
こうして見ると走っている寝台列車そのものに見えませんか!?
かつて「はやぶさ」で旅した乗客たちは、この窓からどんな景色を見たのでしょう?なんだかワクワクする夜です。
3両のうち真ん中の車両は多目的スペース兼受付。
食事の持ち込みは自由で、沿線の駅弁を楽しむのも良し、地酒を楽しむのも良しです!
そうでした!ここの宿泊料金はビックリしますよ!?
なんと、大人1泊が1年中、個室、開放型とも3,080円なんです!本当に驚きました。懐かしいブルートレインの旅が格安で楽しめます。
ブルートレインたらぎ
熊本県球磨郡多良木町大字多良木1534-2
[営業時間]チェックイン14:00~21:00/チェックアウト7:00~12:00
[定休日]なし
[宿泊料金]大人3,080円/小児2,050円
0966-42-1120
4.ループ線ってなぁに?おもしろ路線へ行ってきました
古谷「どうしても行きたい所があって。ここへ行かなきゃ帰れません!」
土屋「また始まったよ…。」
私が行きたかったのは、JR肥薩線の人吉~矢岳(やたけ)間。
熊本・宮崎県境の国見山地を越える険しい道のりで、途中の大畑駅には、全国で唯一のループ線の途中にあるスイッチバックを見ることができるのです。
ループ線とは、らせん状に線路を設け急勾配を緩和する手法のこと。
スイッチバックは急勾配の途中に駅を設けるため、行きつ戻りつするようジグザグに敷かれた路線のことです。肥薩線はこの両方が組み合わされた、なんだか面白い区間なんです。
肥薩線列車はたまたま貸切状態!これはラッキーです。車窓を独り占め!
列車は夕陽でキラキラと光る急勾配の山道を登り、車窓には癒される風景が続きます。人吉駅から少し離れただけなのに、どんどん山深くなるのです。
さて、いよいよスイッチバックがやってきました!大畑ではまず駅に停車して、バックで発車。さらに勾配を登ります。
人吉~吉松間の開業は、1909(明治42)年。
現代の鉄道は急勾配でも簡単に上り下りできるようになりましたが、100年前には、こうした色々な工夫を凝らして、山を越えていた時代があったんですね。
どんどん勾配を登ります。しばらくして振り返ってみると、もうこんなに高いところまで来ていました。
どれだけ急な坂なのかがよくわかります。
ループ線とはいえ、そこまでカーブになっている体感はありません。
車窓に夢中になっているうちに、あっという間に次の矢岳駅が見えてきました。
さて、こちらも懐かしい雰囲気の駅舎です。ここでも面白い発見があるのでしょうか?
早速見つけました。なんだかわかりますか?
これは湧水盆と呼ばれるもの。蒸気機関車が走っていた頃、ススで真っ黒になってしまった乗客や機関士の顔や手を洗うためのものだったんです。面白い!
駅前には人吉市SL展示館があり、肥薩線で活躍していたD51形蒸気機関車が保存されています。
「SL人吉」の58654号機も、いったん引退してからは、ここに置かれていました。しかし管理が行き届いていて状態が良かったので、復活できたのです!
こちらは待合室。大きく開放的に作られていて、ゆったり落ち着きます。
日も落ち、灯りが点りました…
さっきまでとは一転。タイムスリップしたかのようなレトロな雰囲気に様変わりです。時間の流れがゆっくりになったような感じがして、不思議です。
今回の鉄道旅はここで終了です。たくさんの「懐かしの鉄道風景」に触れることができ、気分もリフレッシュ!短い時間で濃厚な旅が出来ました!
みなさんもぜひ、懐かしの鉄道風景に会いに行ってみてくださいね。
さて、古谷あつみの鉄道旅!次はどんな鉄道風景に会えるのでしょうか?
次回、古谷あつみの鉄道旅 Vol.15は、島根県の「一畑電車」へ!
※記事内の価格表記は全て税込です
土屋武之(鉄道ライター)
鉄道を専門分野として執筆活動を行っている、フリーランスのライター・ジャーナリスト。硬派の鉄道雑誌「鉄道ジャーナル」メイン記事を毎号担当する一方で、幅広い知識に基づく、初心者向けのわかりやすい解説記事にも定評がある。
2004年12月29日に広島電鉄の広島港駅で、日本の私鉄のすべてに乗車するという「全線完乗」を達成。2011年8月9日にはJR北海道の富良野駅にてJRも完乗し、日本の全鉄道路線に乗車したという記録を持つ、「鉄道旅行」の第一人者でもある。
著書は「鉄道のしくみ・基礎篇/新技術篇」(ネコ・パブリッシング)、「鉄道の未来予想図」(実業之日本社)、「きっぷのルール ハンドブック」(実業之日本社)、「鉄道員になるには」(ぺりかん社)など。
古谷あつみ(鉄道タレント・松竹芸能所属)
小学生の頃、社会見学で近くにある車両基地へ行き、特急電車の運転台に上げてもらったことがきっかけで、根っからの鉄道好きとなる。 学校卒業後は新幹線の車内販売員、JR西日本の駅員として働く。その経験から、きっぷのルールや窓口業務には精通している。 現在はタレント活動のほか、鉄道関係の専門学校や公立高校で講師をしている。2015年には、「東洋経済オンライン」でライター・デビューし、鉄道模型雑誌「N」等で執筆活動中。
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