血圧をどこまで下げると効果的? 正常血圧の人でも降圧でリスク低下
2016.01.06
高血圧の治療ガイドラインを改訂し目標となる血圧値を下げれば、「数百万人の高血圧患者の命を救える」と専門家が指摘している。血圧が130mmHg以下の「正常血圧」の人でも、血圧を下げることで心臓病のリスクが低下するという。
最高血圧を10mmHg下げると心血管病や脳卒中のリスクが低下
「正常値」でも血圧値を下げると心臓病のリスクが低下
糖尿病や腎臓病、心臓病などを合併している患者では、高圧治療のもたらす便益は明らかだが、興味深いことに、最高血圧が130mmHg以下の「正常血圧」の人でも血圧を下げることで心臓病のリスクが低下することが明らかになった。
「われわれの研究結果から、血圧コントロールの目標を現在推奨されている値よりも低い値にすることで、心血管疾患の発症を大きく減らせる可能性があることが明らかになった。コントロール目標をより厳しくすることで数百人の命を救える可能性がある」と、ラヒミ教授は指摘している。
高血圧の治療薬は5種類があり、いずれも効果的だが、カルシウム拮抗薬は脳卒中のリスクを下げ、利尿剤は心臓障害のリスクを下げる効果が特に高く、β遮断薬は心血管疾患、脳卒中、腎臓病のリスクを下げる効果が比較的低いことが示された。
「重要なことは、高圧治療によるリスクの減少は、さまざまな高リスク患者でほぼ共通してみられたことだ。降圧薬による治療は進歩している。最高血圧の目標を130mmHg未満にすることで心臓病や脳卒中のリスクを低下できることは明らかだ」と、ラヒミ教授は言う。
最高血圧を120mmHg未満に下げると心血管病が3分1減少
降圧目標をより厳しくすることで心血管疾患のリスクを低下できることは、米国立衛生研究所(NIH)が実施している「収縮期血圧介入試験」(SPRINT研究)の予備解析でも示されている。
SPRINT研究は心血管系のリスクが高い50歳以上の高血圧患者9,361人が参加して行われている試験。最高血圧の目標を120mmHg未満とした群と140mmHg未満とした群で、心血管疾患の発症などへの影響を比較した。
その結果、120mmHg未満群の方が140mmHg未満群と比較して、心血管病の発症がほぼ3分1減少、死亡がほぼ4分の1減少するという結果になった。これを受けて試験は2018年12月まで続けられる予定だったが途中で終了した。
かかりつけ医に相談しながら高血圧を積極的に治療することが重要
日本の治療ガイドラインでは、高血圧の降圧目標は最高血圧が140mmHg未満、最低血圧は90mmHg未満とされている。糖尿病や蛋白尿を伴う慢性腎臓病の人では目標130/80mmHg未満、75歳以上の高齢者では150/90mmHg未満(可能であれば140/90mmHg未満を目指す)となっており、高血圧の降圧目標は患者によって異なる。
SPRINT研究の発表を受けて、日本高血圧学会は「この試験は、糖尿病合併者や脳卒中既往者を除いた50歳以上の高血圧患者に対して、120mmHg未満を目指すことの妥当性を示しているが、より厳格に降圧する際には、脳・心・腎への有害事象(低血圧、失神、電解質異常、急性腎障害など)について十分に注意する必要がある」と見解を発表。
日本糖尿病協会は「予備解析の結果が出た段階で、十分な解析は行われていない。正式な結果発表を待つ必要がある」と説明。あくまでかかりつけ医に相談しながら、現行のガイドラインにもとづく積極的な高血圧治療が重要と述べている。
Changing blood pressure-lowering guidelines 'could save millions of lives', say experts(オックスフォード大学 2015年12月24日)Changing blood pressure-lowering guidelines 'could save millions of lives'(ジョージ グローバルヘルス研究所 2015年12月24日)
Blood pressure lowering for prevention of cardiovascular disease and death: a systematic review and meta-analysis(Lancet 2015年12月23日)
SPRINTの結果発表を受けて:厳格な降圧治療の有用性と有害事象への注意(日本高血圧学会 2015年11月13日)
(Terahata)
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