懐かしさと美味しさを求めて港町ヨコハマへ。老舗ハイカラ洋食屋3店巡り

2016.08.29

文明開化の時代から西洋料理がいち早く入った港町ヨコハマ。町のあちこちには、長く愛される洋食屋さんがあり、今も昔も変わらぬ美味しさで訪れる人を迎えてくれます。今回は、扉を開いた瞬間、昭和の時代へタイムスリップするような老舗洋食屋さん3店をご紹介。懐かしの洋食の代表格「ハンバーグ」、「ナポリタン」、「オムライス」などをいただきます~♪

1938(昭和13)年創業/洋食キムラ 野毛店
~ハンバーグ編~

▲野毛本通りに面した「洋食キムラ 野毛店」。初代店主が描いた河童のロゴが目印
「洋食キムラ」の前身となる「ランチカウンター」が関内の常盤町に誕生したのは、1938(昭和13)年のこと。 その後1949(昭和24)年、野毛に「洋食キムラ」という名で移転。以来、親子3代にわたってこだわりの味を変えることなく提供してくれる老舗洋食店です。1994(平成6)年には、桜木町駅から歩いて6分の野毛本通りに、現在の5階建ての店舗をオープン。2016年で67年目となる、長い間変わらない秘伝の味を求めて訪れてみました。
▲穏やかな時を刻む店内。テーブル席は1階から3階まで
お目当ては、創業以来ファンを魅了し続ける「ハンバーグ」。早速オーダーし、おいしさの秘密を探りにキッチンへ。今回は特別に拝見させていただきました。
毎日300個作るというハンバーグが厨房にずらり。
あいびき肉を2度挽きして、10種類以上のスパイスや調味料、タマネギのみじん切りとパン粉が練りこまれたハンバーグは、いったん仮焼きすることで風味を閉じ込め、丸一日冷蔵庫で寝かせてから翌日に提供されます。
前日に仮焼きしたハンバーグを5分ほど弱火で焼いた後、白ワインでフランベ。勢いよく炎があがります。
ブラック・ルー、ブイヨン、ブールマニエから手間暇かけつくられるデミグラスソースは、3年ものの梅酒が隠し味。
そのデミグラスソースにハンバーグを浸し少し焼いてから、創業期から長年使っている南部鉄のコキール(貝殻)型の鉄板にイン。そこに卵を割りいれ、さらにフライパンに残ったソースをかけて完成です。卵の黄身が大粒の真珠を思わせますね。
▲ハンバーグセット(サラダとパンorライス付き・税込1,320円)

鉄板あつあつ、デミグラスソースぐつぐつの状態でテーブルへ。貝殻型の鉄板に乗って登場したハンバーグをいよいよ実食します。
ハンバーグは、ナイフがするりと入る柔らかさ。キムラオリジナルのデミグラスソースとよくからみます。一口ほおばったとたん、ホロリととろけていきました。

「うちのデミグラスソースはほんの少しだけど酸味が感じられるでしょ。卵とからめるとすごくまろやかになるよ」とは、2代目店主・貴邑(きむら)さんの言葉。

実際に半熟卵をほぐしてソースに交ぜて味わえば、本当に口当たりがさらに優しくまろやかに。ふわふわのハンバーグと、ここだけでしか味わえないデミグラスソースの味は、一度食べたら忘れられないほどでした。

セットの自家製ドレッシングがかかったサラダの程よい酸味も絶妙。オリジナルの三日月型のパンにハンバーグを挟んで食べる常連さんも多いとか。

もう一品頼むなら、カニの身たっぷりのカニクリームコロッケがいち押し!

▲カニクリームコロッケ(税込1,790円)。自家製マヨネーズとケチャップ添え
この日、もう一品お願いしたのは「カニクリームコロッケ」。ズワイガニのほぐし身がたっぷり入ったホワイトソースの味に深みをもたらしているのは、なんと“カニミソ”。しっかりと味わい深いので、そのまま食べても十分なおいしさ。
さらに、さくさくの衣にレモン汁、自家製のマヨネーズやケチャップなどで変化をつけ、おいしくいただきました。
初代、2代目、3代目と、長年伝統の味をつないでいる「洋食キムラ」。初代から家族経営で守られつづける味に再会しに、通いたくなるお店でした。
新横浜の駅ビル・キュービックプラザ新横浜内にもお店があるので、そちらも気軽に立ち寄れそうです。

1946(昭和21)年創業/洋食 センターグリル
~ナポリタン編~

▲個性的な個人経営の店が今も多く残る、野毛の町の一角に佇む「センターグリル」
「洋食キムラ」から一本裏の道・野毛商店街の端に位置する洋食屋さんが「センターグリル」です。ここは、1946(昭和21)年創業のレトロな洋食レストラン。看板に“米国風”とあるのも、戦後の懐かしい雰囲気のままで、ちょっといい感じ。

横浜が発祥といわれる「ナポリタン」を、庶民価格で提供してきた老舗として、ボリューム満点、コスパ良しで、幅広い年代のファンの心をわしづかみにしています。
▲「2階にお上がりください」という札に導かれ階段を上がると、すっかりタイムスリップ。BGMには古き時代のアメリカン・ポップスが流れています  
お目当てのナポリタンをまずは注文!許可を得て厨房に潜入します。
▲1階にあるキッチンでつくられるナポリタン。鍋が勢いよくふられ、ケチャップ投入!手際よくあっという間に昔ながらの一皿が完成
▲懐かしいステンレスのオーバル皿に盛られ、粉チーズがふりかけられた名物「スパゲッティーナポリタン」(税込720円)。脇を固めるのは、しゃきしゃきの千切りキャベツと自家製ポテトサラダ
ケチャップがよくからんだ麺は、2.2mm幅と極太タイプ。もちもちと何とも言えない噛みごたえが後を引く理由は、麺をゆでてから一晩寝かせてもっちり感を引き出しているからだとか。やっぱりナポリタンの美味しさは、麺の太さにあるのだなとなんだか納得。
具はロースハム、ピーマン、玉葱、マッシュルーム。子どもの頃から親しんできたケチャップ味とあいまって、食べても食べても飽きないおいしさです。  

もう一つの看板メニュー「浜ランチ」も豪快!

▲オムライスにどーんとチキンカツとサラダが一皿に盛られた豪快「浜ランチ」(税込1,050円※プラス200円でオムライスの中身が白ごはんからチキンライスに変更可)
ランチタイムでなくとも、一日中注文できる「浜ランチ」。お客さんの要望でどんどん盛りが良くなり、チキンカツまでプラスされた現在の姿になったのだとか。1週間かけてつくられるデミグラスソースがとろりとかかったオムライスには、卵が3個使用されています。
「センターグリール」と、昔のロゴが入った食器もレトロ感満載。テーブルには麦茶のポットが置かれて、自分で注いで自由に飲める点もまったり気分。
カウンターの脇で見つけたのが、日本初のパスタメーカー「ボルカノ」とのコラボ商品「センターグリルの横濱ナポリタンスパゲッチ」(税込300円)。なかなか見かけない極太感なので、お土産に購入するのも◎。袋にはセンターグリル流ナポリタンの作り方も記載されていて、自宅で味の再現に挑戦できそうです。

1954(昭和29)年創業/レストラン グリル・エス
~オムライス編~

▲異国情緒あふれるエリア・馬車道で、創業時のままの姿で迎えてくれる老舗レストラン
3店目は、馬車道の名店に向かいます。こぢんまりとしていながらも構えに品格が漂う店の名は「レストラン グリル・エス」。木の梁や重厚な椅子などにクラシックな趣が薫る店内にも、歴史と温もりが感じられます。
▲一歩入れば別世界。時が止まったようなノスタルジックな店内

60年以上にわたり受け継がれているのは、日本の西洋料理の流れをくむ王道の洋食。2週間かけてつくられるデミグラスソースをはじめ自慢のメニューを味わいに、ランチタイムも、夜も、人々が笑顔で集う人気店です。  
まずは、創業当時の面影を留めるオムライスをオーダー。卵4個を使用する特大サイズで人気のメニューがつくられるところを、お店の奥にあるキッチンで拝見!
▲大きめにカットされたハム、エビ、マッシュルームなどの具材を炒めて、ご飯とケチャップを投入します
使用する釜炊きのご飯は300g、卵は4個とかなりボリューミー。卵をふわふわに焼いたあと、少し置いてからライスと卵を一体化し、成型して完成です 。
▲卵の上にケチャップがとろり。これぞオムライスという感じで堂々と登場(税別1,200円)
卵の下には、ケチャップライスがたっぷり。スプーン山盛りでほおばれば、ケチャップライス×オムレツ×ケチャップが奏でる、ほのかな甘みや酸味、塩味が口の中で溶け合います。いつ食べてもおいしく、懐かしさを感じさせる絶品メニューです。

看板にも掲げられたステーキは一番人気。
A5ランクのサーロインもぜひ味わって

表の看板にも「ステーキ」とあるように、ここ「グリル・エス」の看板メニューは、とびきりおいしいステーキ!国産黒毛和牛の最高級ランクA5のみを扱い、比較的手頃な価格で提供してくれることで、横浜の名士や有名人たちをも長年虜にし続けています。実は一番出るメニューも、柔らかい極上のテンダーロインステーキ(税別8,000円~)なのだそう。
▲今回オーダーしたのは、霜降具合もほど良いサーロイン200g。フライパンを回しながら均一に火を入れて行きます
付け合わせは、ベイクドポテトとブロッコリー、人参のグラッセ、クレソン、レモンの上にはメンテルバター。さらに、デミグラスソースと醤油ソース、2種のソースがたっぷり添えられた熱々のサーロインステーキ(税別5,000円)が、えもいわれぬいい香りを漂わせて登場。
「最初は何もつけないで食べてみて」という店主のすすめのままに一口。程よくレアな焼きかげんも絶妙なA5ランクの牛肉は絶品。口中いっぱいに広がるおいしさに思わずテンションがあがります。
続いて、メンテルバター、醤油ソース、そしてデミグラスソースとともに味わえば、多彩な味のバリエーションに五感が躍ります。とくにデミグラスソースとの相性はやっぱり抜群。サーロインの旨みをさらに引きたたせ、舌がとろけるような至福のときへすっかり誘われました。 
今回取り上げた以外にも、横浜で長年親しまれ愛されてきた洋食の世界は奥深く、絶品メニューがまだまだたくさん。少しおしゃれして、ハイカラな横浜の洋食屋さんへ、ぜひお出掛けしてみませんか。時が熟成させた温もりと、懐かしい味わいが待っています。
ゴトウヤスコ

ゴトウヤスコ

ホテル、レストラン、神社、婚礼、旅、食、暦&歳時記、ものづくりなどの広告コピー、雑誌記事、インタビュー記事などを多数執筆し、言葉で人と人をつなぎ、心に響くものごとを伝える。旅は、基本一人旅好き。温泉、パワースポット、絶景、おいしいものがあるところなら、好奇心がおもむくままどこへでも。得意技は、手土産&グルメハンティング。最近は伝統.芸能、日本刀、蓄音機など和文化への興味を深堀中。読書会なども開催。(制作会社CLINK:クリンク)

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