旅館やホテル、雇用環境改善図る 京都、深刻な人手不足で
観光業界で人手不足が深刻化する中、旅館やホテルの雇用環境を改善する取り組みが京都の官民で進んでいる。京都市は昨年、宿泊業界の雇用実態を把握する調査を初めて実施。京都府も本年度、正規雇用を後押しする補助事業を始める。宿泊施設でも、正社員を増やして生産性向上に結びつけるケースが出てきている。
宿泊施設は長年、生産性の低さが指摘されてきた。市はその背景に雇用形態や就業環境があると考え、昨夏に初めて市内の旅館とホテルにアンケートを実施。74施設(回収率23・7%)の経営者と従業員1047人(同16・8%)から回答を得た。
従業員にこの1年間に取得した有給休暇日数を尋ねたところ、ゼロが46・6%と過半数に近く、3~5日と6~10日がいずれも約10%だった。育児(介護)休業をこの1年間に取得した女性は25・0%にとどまり、平均年収も295万円と全業種平均(15年国税庁民間給与実態調査)より3割ほど低かった。
経営者の回答でも、外国人観光客の増加で約7割の宿泊施設が収益を増やした一方、半数の施設は正規従業員が不足している実情が浮かび上がった。正規従業員の採用や非正規従業員の正社員化を実施(予定含む)する施設が6割に上った。
市は「宿泊業界の労働環境の厳しさが浮き彫りになったが、環境改善も進みつつある」と現状を分析する。
行政による支援策も動き始めている。府と京都産業21は本年度、旅館やホテルの正規雇用を促す助成制度を創設した。社員寮の開設や駐車場の整備など、従業員が働きやすくなる取り組みを進め、正社員を増やした宿泊施設に対し、経費の15%以内(上限150万円以内)を補助する。6月7日まで申請を受け付けている。
また、府は旅館やホテル、飲食店などの観光産業の正規雇用化をサポートする新拠点を京都市南区の京都ジョブパークに設置した。「人材確保コーディネーター」を配置し、企業訪問やセミナー開催を通じて支援制度などを紹介している。
正社員化に積極的な宿泊施設も現れている。星野リゾート(長野県)が嵐山で手掛ける旅館「星のや京都」(西京区)は、2009年の開業当初に35人だった正社員を従業員全体の8割に当たる約70人にまで増やした。
外国人客の増加などで客室稼働率は80~90%に高まっているといい、酒井俊之総支配人は「正社員化を進めたことで社員が積極的に新規事業やコスト削減を提案するようになり、生産性が向上した」と手応えを語る。
【 2017年05月03日 12時20分 】