Nikon Imaging
Japan
At the heart of the image.

ザ・ワークス Vol.25 AF-S DX Zoom Nikkor ED 12-24mm F4G (IF)

非球面レンズ3枚、EDレンズ2枚を搭載 ニッコールならではの技術を集結!

“DXニッコール”に使われている非球面レンズ。3枚の非
球面レンズを使用し、広角系レンズの宿命ともいえる
ディストーションのコントロールをする。その他にEDレン
ズを2枚使用し、焦点のずれによる色のにじみを適正に
補正する。

デジタル専用ということ以外で、このレンズ最大の特長はなんですか?

「なんといっても、注目していただきたいのは、ディストーション(※3)の少なさですね。広角ズームレンズでもっとも不満を感じるのって、ディストーションですよね。私もよく建物などを撮るのですが、柱とか桟とか歪曲するのはとくに嫌いなんです。ズームレンズは昔から、“ディストーションは出てあたりまえ”といわれていました。広角ズームレンズならなおさらです。それだったら、今回のDX超広角ズームレンズでは可能な限りディストーションを克服してやろうじゃないかと(笑)」

ディストーションを最大限におさえたレンズ、ということですか?

「はい。通常の撮影範囲内、たとえば風景写真などを撮られる場合には、気になるようなディストーションは出ないでしょう。一般的なカメラレンズは、撮影距離によってディストーションが変化します。その点はこのレンズも同じですが、皆さんがよく撮られる様な一般的な撮影シーンでは、このレンズのディストーションは気にならないでしょう。もちろんワイド端の超至近近望においては出現しますが、この“DXニッコール”を使用することで、超広角ならではの特徴を生かした、ダイナミックな撮影を楽しんでいただけると、私達は確信しています」

ディストーションをなくすために、どのような工夫をされたのでしょうか?

「はい。いろいろ設計的な試行錯誤をしながらも、新開発の非球面レンズ(※4)をうまく使うことで、ディストーションの軽減を達成できたと思います。 ここまで大型のモールド(※5)非球面レンズの開発は1、2年でできるものではなく、15年、20年かけて達成した、技術の結晶なんです。いくら完璧な設計をしたとしても、それを実現する技術がないと、設計は単に“絵にかいた餅”になってしまう。もちろんニコンには、非球面レンズにおいてながい開発努力の蓄積があり、高度な量産技術をもっているという自信があります。新開発の非球面レンズを搭載できたのは、長年積み重ねた非球面技術の結実だと思います」

設計だけではない、現場の力ですね。

「もちろんそうです。非球面の製造誤差に関しても、現場は非常に厳しい基準でやっていますよ。また現場の方も、ニッコールの一部を作っているという自負をもっていますからね。もう、美術品を作っているようなこだわりと厳しさです(笑)」

  • ※3ディストーション:レンズの歪曲収差のこと。画面の周囲が樽型、あるいは糸巻き型などに歪曲する現象。画面の端に写っている人が太って見えるのも歪曲収差が原因。どんなレンズでもわずかながら起こることだが、とくにズームレンズで顕著に見られる。魚眼レンズは、作画効果としてわざと画面を歪曲させているもので、ディストーションとは呼ばない。
  • ※4非球面レンズ:レンズは球面状に作られているため、球面収差などの収差を完全にのぞくことはできない。これを取りのぞくために、球面以外の形状に作ったレンズをいう。
  • ※5モールド:「mold」(溶かした材料を入れて形を造る)型。型押しで作るレンズとして、ガラスモールドレンズや非球面モールドレンズなどがある。

お客様の期待を裏切らないレンズを作る心構え 「ぜひいろんな意地悪テストをしてみてください」



「やはりレンズのよさというのは、撮り比べてみること
で実感していただけると思います。いろいろな撮影シーン
で試してください」と佐藤。

レンズの設計をするとき、佐藤さんは、どんなことに気を使っていましたか?

「そうですね。これは、今回のレンズに限ったことではないのですが……。私たちは、それぞれの撮影シーンに応じて、お客様に不満の残らないレンズを設計したいと心掛けています。自らがユーザーになったとき、“こんな機能が無いとだめだなぁ・・・。”とか、“こういう性能レベルじゃないと満足できないなぁ・・・。”という気持ちになりますよね。そういう心理状態で設計すれば、いい商品が開発できると思うのです。まさに、“かゆいところに手が届くレンズ”を提供したいんです(笑)」

撮り比べですか?

「ほら、よくカメラの雑誌で、いろいろ被写体や撮影条件を変えてレンズ性能を試すテストがあるでしょう。中には相当、意地悪なテストもあって、至近距離で机の上の新聞紙とかを撮影して、“ディストーションが大きい!”と言われてしまったり(笑)」

とにかく、たくさん撮ってみてほしいということですね。

「はい。何度も撮って、噛み砕いてみて、レンズをとことん試していただきたいです。レンズの本質的な性能を妥協しない。ほどほどのところで光学性能をおさえて、手を抜くことは絶対にしない。ニッコールはそういう意識で開発しています。もっと言うなら、表面的なメリットや、お客様がカタログや店頭で簡単に比較できる部分にのみこだわるのではなく、表面的にはあらわれない“光学性能”、これが“ニッコール・ブランド”の最大の特徴なのです。我々は、表面的なメリットにつられ、後でがっかりするような商品は開発したくないんです。ニコンのレンズをお買い上げいただく方は、プロのカメラマンの方や、本当にカメラや撮影を愛される方だと思うのです。これからも、そんな皆様に愛されるレンズを追求していきたいです」

一つのレンズに辿り着くまでは、試行錯誤の繰り返し! 設計を実現するのは製造の高い技術力

製造技術の進歩は設計者にとって
非常に大きい。非球面を何枚も使用
するなど、設計者のアイディアを
より高レベルで実現可能にした。

ところで、光学系の設計のアイディアというのは、どんなところから生まれるんですか?

「アイディアですか? ……うーん。最初に思いつくのは、業務中じゃないことは確かですね(笑)。やっぱり、実際に写真を撮っているときにアイディアは生まれやすいかな。たとえば撮影中、どんなにいい道具を使っていたとしても、“これはもっとこう撮りたいな、どうしてできないんだろう”と、不満が生まれることがありますよね。そんなとき、“こういうレンズを作ればいいぞ”というアイディアが生まれるんですね。そこで何かに書き留めておいたり、パソコンをいじってみたりして、そのアイディアを形にしてみる。しかし、賢い方ならそこからスイスイ物事が進むかもしれませんが、私は失敗したり、諦めたり、何度も試行錯誤して、仮説をたて直したりして、アイディアを構築していきます。一度ではなかなか形になりません(笑)。このレンズに使った非球面ガラスも、そんなふうに、何度も何度も考えた末に生まれたんですよ」

一つのレンズを作るまでに、いくつも設計案をたてるんですか?

「それこそ、ものすごくたくさんの設計案を出します。シミュレーションしては検討のくり返しですね。光学系の設計は、数学的に一度で答えがでるようなものではなくて、半分は、トライアンドエラーの世界ですから。また、開発とは別に、“絶対こんなレンズは作れないだろうなぁ”という設計案も書いたりしますね。これは本当に、趣味の領域で」

その趣味の領域のレンズって、すごいレンズなんですか?

「そりゃぁもう、すごいレンズですよ(笑)。かなり昔の事ですが、試みに、ある設計案を当時の上司に見せたところ、“こんなレンズ作って誰が買える? おまえ買えるか?”って言われた事もありますよ(笑)。確かに、当時だったらすごく高価になってしまい、私の給料では買えませんでしたね(笑)。でも、時代も変わりましたね。非球面レンズを実現できたばかりの時代には、非球面を実際の製品に採用するのが難しくて、おいそれとは使えなかったんです。その時代から考えると夢のようですね。なにしろ、その非球面を3枚も使って設計できるんですから(笑)」

それは、技術がそれだけ進歩してきたということですか?

「はい。もうこれは、製造技術の進歩なくしてはできないことですね。それだけ非球面の技術が円熟して、量産に耐えうる精度を保てるようになったということです。複合型非球面レンズやガラスモールドの非球面レンズが、まだできるようになったばかりの時代から我々は製造技術や現場の方々と、頻繁に定例会をもっていたんですよ。もちろんその関係は、今も継続しています」

定例会ですか?

「はい。そこで、設計サイドが、技術サイド、製造サイドに向けて、あつーく将来の夢を語るんです。プレゼンテーションという形式を借りてね(笑)。“非球面レンズをこれからどんどん使っていきたい。この非球面が安いコストで、大量に作れるようになると、こんないいレンズが作れる”、“次にもってくる設計案はすごく高度だから、それを作れるような受け入れ体制をぜひととのえてほしい”と、とにかく、非球面の夢をどんどん語っていきました。製造の技術があってこそ、さらなる高性能なレンズを作ることができるんだ、と技術、製造の方を説得したんですね。そうすると、みんな目を輝かせて、その気持ちにどんどん応えてきてくれたんです。その積み重ねがあったからこそ、現在の技術力があるわけです」

技術、製造の方の熱い思いも、レンズの開発にはなくてはならないものなんですね。

新レンズもどんどん登場予定! 「これからも“DXニッコール”にご期待ください」



「これからもお客様の立場にたって
“かゆいところに手が届くレンズ”を
設計していきます。今後の“DXニッ
コール”のラインアップにご期待ください
」と力強く語ってくれた佐藤。

さて、今回のレンズに話が戻りますが、設計者としては、どんな方に、どんな時に使ってもらいたいと思いますか?

「うーん。勝手な言い方をしますと、お客様には本当に自由に使っていただきたいですね。“こう使わなくちゃ”というのは、まったくないです。でも、あえて申しあげるなら、今までの超広角ズームレンズに不満を持っていた方(たとえばディストーションなど)、今までは諦めてしまっていた方に、ぜひ試していただきたいレンズですね。」

最後に、お客様にメッセージをどうぞ。

「“DXニッコール”は、まだ最初の1本目ですが、これからもどんどん出していく予定です。今までデジタルを体感されていない方も、ぜひ撮影領域を広げて、写真の新たな道を開いていただきたいです。デジタルは、本当に簡単で便利です。撮影だけでなく、画像処理も楽しめて、銀塩とはまた違ったおもしろさがあると思います。ぜひ、今後の“DXニッコール”のラインアップにもご期待ください」

シリーズ新作の登場も、楽しみに待っています。