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「ドンキホーテの告発」

 その本を読み終えた後、しばらくは立ち上がれなかった。それほどの衝撃だった。書名は『原子力ドンキホーテ』(ぜんにち出版)。「原発の検査データ改ざん命令に背いた男」という副題がある。

 ▼著者はみなべ町北道出身の藤原節男さん(64)。大阪大学工学部原子力工学科を卒業して、現在の三菱重工に入社。その後、日本原子力研究所を経て原子力安全基盤機構に勤務していた生粋の原発技術者である。

 ▼藤原さんは2009年春、北海道電力泊原子力発電所3号機の使用前検査を担当。その際、組織的なデータ改ざんが行われたことを、法律に基づいて「公益通報」したことで翌年、解雇された。

 ▼本では検査記録の改ざん命令から始まり「原子力ムラ」と呼ばれる電力業界とメーカー、官僚組織、研究者、マスコミが一体となった原子力行政の暗部を、当事者の実名をあげて告発している。

 ▼驚いたのは福島原発事故の3日前、経産省記者クラブの記者たちに「この公益通報が無視されたままの状態が続けば、明日にでもチェルノブイリ級の大事故が生じる可能性があります」とメールで発信していること。そして、予告通りに大事故が起きた。3号機の爆発は政府、東京電力のいう水素爆発ではなく、核爆発だったという。

 ▼自らの立場を脱原発派であり、原子力研究推進派と位置付けたうえで「まずは原子力ムラを解体すること」と、繰り返し説く著者の主張には説得力がある。 (石)



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