場合の数、楽しい
とんかつはおいしかったが、とんかつ定食の組み合わせを考えるのも楽しかった。
学生の時に場合の数を楽しいと思ったことはなかったが、今はそれが差し迫って必要のない知識になったので楽しく感じたのだ。
テスト期間に大掃除しちゃうやつである。
学生の時に場合の数を楽しいと思ったことはなかったが、今はそれが差し迫って必要のない知識になったので楽しく感じたのだ。
テスト期間に大掃除しちゃうやつである。
とんかつ定食、5つの要素の全組み合わせ、32種類の定食。
キャベツ、ご飯、みそ汁がおかわり自由のとんかつ定食って、その3つばかり食べていやしないか。
だとしたらもうその3つこそがとんかつ定食である。 そんなことが許されていいのか。 とんかつ定食のとんかつ定食らしさはどこにあるのか。 5つの要素の組み合わせ、全パターンを食べて調べた。 とんかつ定食は不死身この間とんかつ定食を食べた。
贅沢をしたい気分だったのだ。 選んだ定食が運ばれてきてうきうきしていたら、店員さんに「キャベツとご飯とみそ汁はおかわり自由です」と告げられた。 こういう最高のやつ。
そう言えばそうだったな、と思って食べていると、自然とキャベツとご飯とみそ汁ばかりに箸が伸びる。
いつかはなくなってしまうとんかつよりも、無限にあると分かっているものを食べる方が精神的な負担が少ない。 とんかつを大事に大事に食べながら、キャベツご飯みそ汁をかきこんでいた。 とんかつ定食とは、不死鳥のような存在である。 とんかつという命の火を絶やさなければ、とんかつ定食は何度だって復活を遂げ、私たちに輪廻する魂の存在を教えてくれる。 輪廻転生するキャベツご飯みそ汁。
キャベツ、ご飯、みそ汁こそがとんかつ定食なのではないかしかし食べているうちに、キャベツ、ご飯、みそ汁だけでかなりうきうきしている自分がいることに気がついた。
こんな質素な素材に贅沢を感じている。 なんなのだ、この気持ちは。 とんかつ無しでとんかつ定食を感じるなんてことが許されていいのか。 一体何がとんかつ定食なのか。 こういうことか。分からない。図にして、より分かりにくくしてはいやしないか。
全部の組み合わせを食べてみれば分かるはずだこの話を企画会議で出したら、編集長の林さんが不思議な図を書いて見せてくれた。
学生の時に数学でやった、「場合の数」を考える時の図だ。 確かこんな感じだった。
とんかつ定食を構成する要素を分解し、考えられる組み合わせを全て食べてみてみれば、どこにとんかつ定食のとんかつ定食らしさが潜んでいるかが分かるというわけだ。
些細な経験を真面目に考え抜くと、ここまでこじれた話になるのだ。 すごく楽しそうである。 やってみることにした。 人はわけがわからなくなると全部食べるそしてまず作ったのがこちらの図である。
くらくらしますね。
とんかつ定食を構成する要素をとんかつ、ソースとからし、キャベツ、ご飯、みそ汁の5つとして、それぞれが「ある(○)」場合と「ない(×)」場合を組み合わせると、上のように32種類の定食ができる。
写真にするとこんな感じである。 実物は迫力がある。
パラパラ並べるとこう。
きれいに撮りたくて、食べる前にまとめて写真を撮ったのだが、これが大変だった。
食べ物を盛ったお皿と盛ってないお皿を用意し、図を見ながら一つ一つ並べて撮影したのだ。 「ソース、キャベツ、ご飯無し、で次が、ソース、キャベツ、みそ汁無し…、で次が、」 と大きなひとり言が出た。 しゃべらないと頭の整理が追いつかないのだ。 その日は全部撮ったら改めてゆっくり実食するつもりだったのだが、わけがわからなくなって一回全部食べてしまった。 わけがわからなくなり全部食べる、という初めての経験。
食べ終わってお腹いっぱいになり、携帯をいじっていたらいつの間にか寝ていた。
後日準備をし直して、結局、全ての定食を味わうのに3日かかった。 上の写真のようなものをまた並べ、少し食べて感想を書き残してまた並べ直して、の繰り返しである。 ここから、分かったことを3つのポイントに分けて発表していきます。 分かったこと① やはりキャベツだ結論から言うと、キャベツとソースの組み合わせにすごくとんかつ定食を感じた。
「とんかつ」でも「定食」でもないのにだ。 上の図のような要素の足りない定食を少しづつ食べている時に、ソースがかかったキャベツを食べて初めて「あ、とんかつ定食だ」と言う声が出たのだ。 これ。これがとんかつ定食。横のからしも大事。
とんかつ屋さんのソースを買ってきたのがよかったのかもしれない。
シャキシャキの瑞々しい食感のキャベツと甘辛いソース。
からしをたまに舐めると、肉を食べた時の後味を感じてまたキャベツが進む。 この組み合わせにはとんかつ定食が詰まっている。 この不思議な気持ち、組み合わせ別にも見てみよう。 <ソース・からし>×<キャベツ>(食べた時のメモ)
とんかつもご飯もないのに、これぞとんかつ定食、という感じがする。すごい!不思議! とんかつ定食度:65点 <ソース・からし>×<キャベツ>×<ご飯>(食べた時のメモ)
ほぼとんかつ定食。とんかつ定食を最小限に再現している。 とんかつ定食度:70点 肉がないのにとんかつとんかつ言っていて心配になるが、このハッとした気持ちに嘘はつけない。
ちなみに「とんかつ定食度」とは、どれくらいとんかつ定食として完成しているかを測る指標である。 全部揃ったとんかつ定食を100点としている。 分かったこと② とんかつとご飯だけだと「とんかつ弁当」だ最強かと思われたとんかつとご飯の組み合わせだが、「これはどの程度とんかつ定食だろうか」という気持ちで食べるとどうもピンとこない。
ご飯、とんかつ、ご飯、とんかつと繰り返した時のこのもそもそ感、仕事の合間に急いでとんかつ弁当を食べている感覚に近いのだ。 とんかつ定食ととんかつ弁当は似ているようで全然違う。 とんかつ弁当に、とんかつ定食のような贅沢感はない。 やはり大事なのはキャベツなのだ。 組み合わせ別で見てみよう。 <とんかつ>×<ご飯>(食べた時のメモ)
もそもそする。今期一番もそもそする。ソースでなくても、みそ汁でもキャベツでもいいから何かもう一つ欲しい。 とんかつ定食度:42点 <とんかつ>×<ソース・からし>×<ご飯>(食べた時のメモ)
だいたい完璧なはずなのにとんかつ定食と言えるかどうかを考えるとすごく悩む。やっぱりとんかつ弁当って言った方がしっくりくる。 とんかつ定食度:70点 <とんかつ>×<ソース・からし>定食(食べた時のメモ)
カツサンド食べてる気分になった。 とんかつ定食度:33点 ご飯も無くして、とんかつとソースだけにするとカツサンドを食べている気分になる。
おいしいのだが、他の食べ物を連想してしまうほどとんかつ定食度は低くなってしまう。 ちなみに<ご飯>×<ソース・からし>の時は、
ソースをこうして、
ご飯をちょんちょんとやって食べた。寿司を誤解している外国人みたいだなと思った。
分かったこと③ 単品はとんかつ定食ではない「これはとんかつ定食だろうか」と考えることすら難しくなってくるのが、単品のみの場合である。
写真を見ていただきたい。 これはどのくらいとんかつ定食だろうか。
これはどうだろうか。どのくらいとんかつ定食だろうか。
ではこれは?これはどうだろうか。とんかつ定食だろうか。
これ?これがとんかつ定食?
食べてみてわかったのだが、どれもとんかつ定食ではない。
みそ汁はみそ汁、ご飯はご飯、皿は皿である。 皿はとんかつ定食ではない。 食べたときのメモも、「これはキャベツだ」とか「これはみそ汁だ」といった中1英語の訳文みたいな感想が並んだ。 しかし皿がピーターラビットでかわいい。 ソース単品の時は皿に出してみて少し舐めた。これはとんかつ定食だろうか?
まとめこうして食べた32種類の定食のとんかつ定食度と、食べた時の感想をまとめるとこのようになる。
とんかつ定食度順に並べた。細かいので「ああ、やったんだな…」ということだけでもお伝えできればと思います。
キャベツがとんかつ定食だったり、とんかつとご飯の組み合わせは意外にとんかつ定食でないことが分かったりという収穫があったが、やってるうちに「とんかつ定食」を見つける能力がどんどん開花していったようである。
上の表を見直すと、ソースだけ(30番)舐めて「遠くにとんかつを感じる」とか言っている。 そのうちにガラパゴスオオカブトや日米和親条約にも「とんかつ定食」を感じるようになれるかもしれない。 コロッケ定食。これなんかもう余裕でとんかつ定食。
場合の数、楽しい
とんかつはおいしかったが、とんかつ定食の組み合わせを考えるのも楽しかった。
学生の時に場合の数を楽しいと思ったことはなかったが、今はそれが差し迫って必要のない知識になったので楽しく感じたのだ。 テスト期間に大掃除しちゃうやつである。 この画像がとても好きです。
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