東京が56年ぶりの五輪を迎える2020年、政治や経済、国際関係はどう変化しているのか。スポーツや芸能、メディアや医療の世界には果たしてどんな新潮流が――。各界の慧眼が見抜いた衝撃の「近未来予想図」。
今回は国際政治学者の三浦瑠麗氏が、自民党のプリンス・小泉進次郎の行く末を予測する。
(出典:文藝春秋2016年7月号)
総裁選のキーマンとして、悪魔の選択を迫られる
2020年9月、8年弱に及んだ安倍政権の後継を決める自民党総裁選が行われていた。18年の総選挙で圧勝した安倍総理は、1986年に中曽根政権が「死んだふり解散」での圧勝を理由に総裁任期を1年延長した前例を拡大解釈して、五輪を花道とする総裁任期の2年延長を勝ち取っていた。とはいえ、ここ数年は「五輪までもたせる」を合言葉に政権運営がされてきたのが現実だった。2度の先送りを経て消費増税はとうにお蔵入りとなり、景気対策の名の下に従来型の公共投資が続けられて財政は火の車、五輪後の市場は大混乱に陥っている。
そんな中、総裁選のキーマン・小泉進次郎は選択を迫られていた。一方には、安倍総理の後継として史上最年少の39歳で総理の座を射止めるという道がある。だがその場合、安倍総理が戦後最強の宰相として院政を敷くことは目に見えている。もう1つの道は、総裁選への出馬を見送るという判断だ。その場合、一大勢力を築きつつある橋下徹率いる新生「維新」が政権の座に就く可能性がある。自民の既得権益を維持して個人の栄達を取るか、政策的にはほとんど同調している橋下の軍門に下るか、目の前にあるのは悪魔の選択だった――。
©郡山総一郎/文藝春秋
これが、私が想像する20年9月の光景です。
4年後においても自民党が日本政治の中心に位置している可能性は極めて高いでしょう。民主党政権の失敗で政権交代の機運は完全に無くなりました。各種世論調査や国政選挙の結果から明らかなのは、日本の有権者の7割程度は広い意味での「保守」であるということです。ここでいう保守とは、右翼的思想を持つ急進派からマイルドな構造改革支持層までを含みます。09年の政権交代は、構造改革支持層が自民党を見限って民主党に投票して実現したのですが、後継の民進党はそのことを理解できずにいます。20年に向けての民進党は社会党化しながら分裂を繰り返し、次第に存在感を低下させていくでしょう。
他方で、私が橋下徹という政治家と彼が起こした「維新」という運動に着目するのは、彼が乱世に強いタイプだからです。しかも、有権者の7割が保守であることを前提とすると、日本における二大政党制とはすなわち保守系二大政党制です。「維新」は、保守的なイデオロギーを自民党と共有しながら「反官僚」、「地方重視」の改革政党として対抗軸を示し得る存在です。彼らが地盤とする関西に加え、例えば舛添都政の後継となって関東にも地歩を築いたとすれば、維新の勢いが全国的に高まる可能性があります。
とはいえ、当座は自民党が日本政治の中心にあり続けるという前提で論を進めれば、ものをいうのは自民党内の力学です。それは一言で言えば、清和会の天下ということ。現在の派閥はかつてのそれではないと言われることもありますが、公認権と選挙資金を握る総裁派閥の権力は増しています。
しかも、清和会の天下は1日にしてできたものではありません。過去5回の衆議院選挙のうち自民党が大勝した4回(03年、05年、12年、14年)はすべて清和会の総裁(小泉純一郎氏と安倍氏)の下で戦われました。
20年時点の日本の政権が、事実上の安倍派である清和会の強い影響下にあることは確実です。当然、小泉進次郎の運命を最も大きく左右するのも、安倍総理ということになるでしょう。
父親同様のジレンマ
安倍政権は権力維持の仕組みが実によくできています。ライバルとなりうる同世代の大物には禅譲の淡い期待を抱かせ、閣内で飼い殺しにする。次世代を担いうる政治家は徹底的に干されている。安倍政権の下では4~50代の政治家はほとんど活躍せず、脅威とならない長老や能吏タイプが重用されています。例外が、客寄せ的に使われている何人かの女性閣僚と小泉氏です。
安倍政権での小泉氏は、党青年局長、復興政務官、そして農林部会長を歴任しています。青年局長としての彼は政権奪還前後の自民党の応援団長的存在であり、選挙の顔として全国を駆け回って父親譲りの演説を行うという役割を忠実に果たしました。復興政務官としての彼の最大の役割は、自民党が復興を「頑張っている」というアピールでした。自治体主導、箱物中心の復興の流れが既にでき上がっている中での任用であり、個々の成功事例はあっても政策の軌道そのものは変化しませんでした。
農林部会長としてはTPP加入を見越した農業対策をまとめました。そもそもTPP参加の是非を党内で議論していた当初から、開放的な経済政策の論陣を張ったことは、国際派の責任を果たしたと言えるでしょう。
©三宅史郎/文藝春秋
直近では、20年を見据えた政策提言に力を入れています。先日も厚生労働省を2つから3つの新省庁に分割する提言書を提出しました。経済が停滞する中で少子高齢化が加速する日本にとっては、新産業の創生や社会保障の抜本改革が急務であるとの発信です。若い世代の代表として、危機感は人一倍強いように見受けられます。今後問われるのは、改革の最大の障壁が自民党の集票マシーンであるという父親同様のジレンマをどのように乗り越えるかです。
待ち受けるは更なる悪魔の選択
舞台を20年の想像の世界に戻しましょう。
悪魔の選択を迫られた小泉進次郎は、迷いに迷った末、自ら権力を握り、自民党を中から「ぶっ壊す」改革の道を選ぶ。しかし、安倍のバックアップを受けて39歳で新総理に就任した後も、大きな改革は何一つ進みそうにない。8年におよんだ安倍政権は改革の目玉を先取りし、できる部分はやってしまっている。新総理へのご祝儀相場の支持率はすぐに低下、無理を重ねてきた経済は息切れし、国際情勢は厳しさを増す一方だ。新総理は、自らが守旧派を代表する存在であり、自らの国民的人気が改革の最大の障害となっていることに、ようやく気付いていた。
かたや橋下維新の鼻息は荒く、国会論戦は激しさを増し、衆議院の任期満了も近づき、近く小泉自民VS橋下維新の、政権の座をかけた選挙が行われる見込みだ。
そんな中、新総理は選挙対策を兼ねて久々に党内の夜の会合に出席。少数の幹部だけが残ったところで、党内融和をはかり任命した守旧派の幹事長から、ある提案が行われる。それは、勢いを増す維新の勢力を削ぐための、退潮著しい民進党との大連立話。老練な幹事長は自社さ政権の先例を引きながら、来る選挙に勝つ道はこれしかないと力説する。
悪魔の選択をして政権についたはずの小泉進次郎に求められたのは、更なる悪魔の選択だった――。
出典:文藝春秋2016年7月号
三浦瑠麗(国際政治学者)
FOLLOW US