「私がやらなきゃ、誰がやる?」介護業界の課題に“ビジネス”で向き合う、後藤奈美の情熱

2012年、株式会社リクルートのHRカンパニーと、株式会社リクルートエージェントの統合によって誕生した、株式会社リクルートキャリア。「人で、世界一になる」ことを目指し、これから創られていくこの場所では、社員一人ひとりが主人公です。今回は、介護業界の人材不足解消をミッションに掲げた「HELPMAN! JAPAN」事業推進ユニットで活躍する、後藤奈美のストーリーをお届けします。
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情熱を向ける先が見つけられないまま、ごく普通の学生生活を送る

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介護業界の変革に挑戦する事業に取り組んでいる
現在「HELPMAN! JAPAN」事業推進ユニットで活躍する後藤奈美。深刻な人材不足に悩む介護業界に画期的な研修プログラムを提案し、着実な成果をあげています。どんな困難にぶつかってもエネルギッシュに活動し、ポジティブなオーラを振りまく後藤。しかしそんな彼女も、学生時代は全力で打ち込めるものを見つけられず、ジレンマを抱えながら不完全燃焼の日々を過ごしていました。

後藤 「私は中学から大学まで女子校で過ごしました。周囲には、いわゆる“いい会社”に入ること、“いい結婚”をすることが当たり前のような空気があって、私は『本当にそうなのかな?』と疑問に思っていたんですよね」


自分の道は、自分で切り拓いていきたい。でもなかなか、情熱を持てるものに出会えない……そんな彼女が唯一、全力で向き合えたのは「仕事」でした。

後藤 「働くことを尊ぶ家庭の影響もあったのかもしれませんが、アルバイトには真剣に取り組んでいました。勉強に関してはほとんど何も口を出さなかった父でしたが、仕事に対しては厳しかったんです。『お金をもらっているからには、責任があるんだ』と常に言われていました」


後藤の父は長年ベンチャー企業で働いており、彼女は幼い頃から、仕事に熱中する父の姿を見て育ってきたといいます。

後藤 「父は、自分で会社を大きくするんだという気概があったのだと思います。家ではいつも仕事や部下の方の話をし、母もそれを真剣に聞いていて。事業が拡大するにつれ、どんどん業績が伸びていく勢いも肌で感じていました。仕事に打ち込む父への憧れが、自分の原点になっていると思います」


ゆくゆくは、父と同じようにベンチャー企業で力を発揮したい。後藤はいつしか、そう考えるようになりました。

後藤 「当時の就職活動ノートを見ると、将来は社会起業家になりたいと書いてあります。父のように事業を自分の手で育て、自分の仕事がダイレクトに社会に影響を与えるような働き方をしたいと、漠然と考えていたんだと思います」


大学卒業時、実際にとあるベンチャー企業に内定が決まった後藤。しかし、ことはそうはスムーズには運びませんでした。

他業種で“圧倒的な”実績を積み、社会を知るため、いざ人材業界へ

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千葉支社時代のメンバーと。
ベンチャー企業に内定したものの、景気悪化による会社の業績後退で、卒業間際に就職活動をやり直しすることに。後藤は急な方針転換を余儀なくされました。

後藤 「そのとき、自分には社会にアピールできるものが何もないことに気づいたんです。成績が良いわけでもないし、在学時に挑戦してきたこともない。ごくごく普通の学生でしかない私が社会で認められるには、まず圧倒的な実績をあげなければと思ったんです」


そこで彼女はとにかく働く場所を求め、保険会社に就職。目の前の仕事に、周囲の誰よりも必死で取り組み、わずか2年で全営業2万人中2位という営業成績を挙げました。

そこで真剣に働いた経験は、彼女の仕事観に変化を及ぼしたようです。

後藤 「営業として幅広い層の方とお話する中で、私はもっと社会について知りたいと思うようになりました。そこであらゆる業種・業界と取引のある人材業界に注目し、なかでもベンチャー精神が根づいているリクルートに入りたいと思ったんです」


転職はみごと成功し、後藤は「リクルートエージェント」に配属されます。千葉エリアの法人営業担当となり、人材採用の支援をすることになったのです。

後藤 「実際に入社して、驚いたのは“顧客目線”が現場で徹底されていたこと。ほんのわずかでも自分や会社側の都合が見え隠れすると、すぐに『それはお客様のためではないよね?』と指摘される。その環境、社風に感動しました」


彼女は新たな環境で、水を得た魚のように仕事に打ち込みはじめます。

後藤 「法人営業でさまざまな会社を見ていくうちに、企業の一番の資源は“人”なんだと確信し、人材に関わる仕事にやりがいを感じるようになりました。リクルートは様々な企業と取引があるので、俯瞰的に業界を見ることができます。毎日の仕事から多くのことを吸収し、日々自分が成長している喜びを感じていましたね」


そんな後藤が次のステージに選んだのは、介護業界の就業人口を増やす社内プロジェクト『HELPMAN! JAPAN』。社内異動制度を利用して、自ら手を挙げた挑戦でした。

「私がやらなければ、いったい誰がやるのか?」ライフワークとの運命の出会い

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講師として介護業界について大学生にプレゼンすることも
高齢化が進む日本では、介護業界の人材不足は深刻です。団塊の世代が介護保険の受給者になる2035年には、40万人を越える介護の担い手が必要になるといわれています。そんな中で、介護人口の確保をミッションにするのが『HELPMAN! JAPAN』事業推進ユニット。7年前にプロジェクトが立ち上がり、2年前に事業化しています。

2015年からこのプロジェクトに参加した後藤。しかし、特に身近な家族の介護を経験したわけでも、ボランティアの経験があったわけでもなかったといいます。そんな彼女が、介護業界の課題に取り組もうと思い立ったのはなぜだったのでしょうか?

後藤 「『HELPMAN! JAPAN』は、講談社の漫画『ヘルプマン!』とのコラボレーション・プロジェクト。私はたまたまこの漫画に出会って介護業界の現状を知り、いても立ってもいられなくなってしまったんです」


このプロジェクトに携わることができるのは、自ら志願し、社内の選考をクリアした人のみ。後藤は1度この選考に落ち、2度目の応募で、ようやくプロジェクトに迎えられました。

後藤 「今思えば勝手な使命感なのですが、この仕事は私しかできない!と思い込むくらい、気持ちが高まっていたんです。だから1度目の選考に落ちたときは『私が採用されないなんて、意味がわからない!』と怒っていたほどでした(笑)」


それほどまでに使命感に燃えていた後藤でしたが、介護業界を取り巻く現状はそれほど甘くはありませんでした。彼女は仕事をはじめて間もなく、大きな挫折を経験します。

後藤 「介護業界の人材不足の一番の原因は、定着率が非常に低いことです。入社3年以内の社員離職率は全産業のなかでワースト1位。その多くの人が他業種に転職してしまいます。定着率を上げなければ、大量に人を採用しても就業人口は増えません。そこで採用の斡旋だけでなく、定着のための研修プログラムも提案したのですが、なかなか受け入れてもらえませんでした」


介護業界では、こうした視点から人材育成・採用のプロジェクトを行った事例があまりなかったため、スムーズに提案が通らないことが多く、後藤は次第に焦りを覚えるようになりました。一時は思い悩み、転職まで考えていたという彼女。しかしそれを思いとどまらせたのは、現場に入ってはじめて知った介護の仕事のやりがいや、働く人の熱意だったといいます。

後藤 「何度も介護の現場でボランティアをしたり、介護に携わっている方々を深く知ったりするうちに、考え方が変わりました。介護は、人の一生に最後まで寄り添う素晴らしい仕事です。でも業界が解決しなければならない課題は、とても大きくて…。半年や一年で変わるほど、甘くはないですよね。だから自分も結果を焦らず、どんな未来を描きたいかをじっくりと考えて、現場と一緒に歩いていこう。自分自身がそう思えるようになってから、少しずつ話を聞いてくれる人が増えていったんです」


現場との協力によって昨年実行した、新入介護職員の定着を支援する研修プログラムの参加者は545人。その方々の1年後の定着率はなんと97%にものぼりました。『HELPMAN! JAPAN』の研修プログラムは業界での評価も高く、今では研修に関する問い合わせが多く寄せられるようになったのです。

後藤 「現場の方に『採用は定着につながらないが、定着は採用につながる』と仰っていただいたのが、うれしかったですね。自分の仕事が、社会を変える一歩につながったことを実感できた瞬間でした」

ビジネスとして継続させることで、社会課題の解決が加速する

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社内にとどまらず課外活動にも積極的に取り組んでいる。
後藤は『HELPMAN! JAPAN』のメンバーとしての活動をきっかけに、自分が心から情熱を傾けられる課題と出会いました。それは彼女が学生時代から渇望していたもので、今後もライフワークとして介護業界をはじめ、高齢者問題などにも広く関わっていくつもりだそうです。

後藤 「介護業界では、どうしても仕事の厳しさや待遇のミスマッチ、問題の起きたごく一部の施設などがニュースなどで取り上げられがちです。そのため世間のみなさんのイメージと、実際の現場にはかなり大きなギャップがあります。私は『HELPMAN! JAPAM』のプロジェクトを通じて、介護の仕事の奥深さと、そのすばらしさを知りました。だからこの先、例えこのプロジェクトから離れることがあっても、生涯のテーマとして追及していきたいです」


後藤がリクルートキャリアに身を置いてこのプロジェクトに邁進し続けるのには、ある理由がありました。

後藤 「実際に介護現場に身を投じるのも一つの選択肢かもしれません。でも今私にできること、介護業界をよくするためにできることは、リクルートキャリアが期待されている仕事に取り組むことだと思っています」


リクルートキャリアが目指すのは、ビジネスで社会問題を解決していくこと。成果が問われる厳しさはありますが、後藤はリクルートキャリアの一員として、介護業界の課題解決に取り組んでいくことに意義を感じているのです。

後藤 「もちろん非営利の立場でしかできない、重要な活動もあります。一方でビジネスとして成立すれば、多くの人が業界に参入し、継続的な問題解決につながる部分もあると思うんですよね。介護に限らず社会を変えるには、息の長い働きかけも、問題の在りかを多くの人に伝えることも必要です。それこそが、これまで社会に対してリクルートが実践してきたことですから」


数々の試練をくぐり抜けて、人生をかけて情熱を傾けられる仕事にたどり着いた後藤。その姿はいつの間にか、かつて憧れていた父親と重なるかのように、熱意あふれるビジネスパーソンへと成長していました。

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