UXの先にあるものは?UXデザイナーが考えるべき4つのポイント
- 酒井 涼
- 2017年5月2日
- ニュース
- 730
ライター・コラムニスト。デザインやテクノロジー、マーケティングやライフハック系の記事が得意。2016年からferretでも記事の執筆を開始。Twitterでも面白いWebサービスなどを紹介しています。よろしければそちらもチェックしてみてください。
>> 執筆記事一覧はこちら
言葉の定義やキャッチアップすべきトレンド、仕事のやり方や周りの環境に至るまで、テック業界ではさまざまなものが急激に変化しています。
例えば、Webデザインという言葉の定義は、10年前とは大きく変わったのではないでしょうか。
以前はブラウザの白紙のページにいかに美しくレイアウトするかに重きを置いていましたが、今は美しいだけでなく「結果」の出るデザインが求められています。
「UX」という言葉についても同様です。
UXはもはやコンバージョンを上げるための単なるツールではありません。
適切にオンボーディングして利用頻度を上げたり、VRやチャットボットなどの新しいテクノロジーを通じて没入感を与えたりと、網羅する範囲は限りなく広がっています。
定義が大きく広がった今、まさにUXデザイナーは「UX」をどのように捉えるべきなのでしょうか。
今回は、 UXデザイナーが考えるべき4つのポイントをご紹介します。
1. モバイルフレンドリーの次を見据える
2011年頃、「レスポンシブデザイン」が話題となりました。
当時は、通常のブラウザによるユーザーエージェントの判別で「デスクトップ用サイト」「モバイル用サイト」を切り替えるのが一般的でした。
しかし、レスポンシブデザインの登場により、単一のHTML・単一のCSSで、メディアクエリの設定をするだけでブラウザ幅に応じた(複数のスクリーンサイズに対応した)デザインを行うことができるようになったのです。
しかし、「レスポンシブデザイン」の注目度は2013年にピークを迎え、それ以降はだんだんと下火に向かっています。
▲ 出典:Google Trend (検索キーワード:Responsive Design)
もはやインターネットブラウジングの4分の3がモバイルであるとも言われているので、最近ではモバイル対応していないホームページを探すほうが難しいのではないでしょうか。
「レスポンシブデザイン」という言葉の検索トレンドを確認していきましたが、他にも時勢に乗ったもののもはやその言葉を語るには遅すぎるという言葉もいくつかあります。
例えば、「アバブザフォールド」(avobe the fold)「ビロウザフォールド」(below the fold)という言葉もそれらの言葉のひとつです。
「フォールド」とは折り目のことで、「アバブザフォールド」はスクロールせずに表示されるページのファーストビューの部分を指します。
今日では、スクリーンサイズが多様化しすぎて、ほとんどのWebサイトがスクロールするのを前提に考えられているため、「フォールド」という言葉自体に古臭い印象があると感じているUXデザイナーも多いようです。
また、「ヒューマンセンタード」(human-centered)なデザインも同様です。
この言葉には、UIに人間的な動きを取り入れることでUXを向上させようとするデザイン手法ですが、今日のUXでは「トレンド」というよりも「ベーシック」(基礎・基本)であると考えられています。
もう一つ、面白い例があります。
2014年から2016年にかけて、Googleが「モバイルファースト」「モバイルフレンドリー」を推進してきました。
2015年の時点でスマートフォン対応のサイトには「スマホ対応」というラベルが貼られており、どのサイトがスマートフォンに対応しているかが一目瞭然でした。
しかし、現在ではGoogleの検索エンジンはデスクトップ版とモバイル版の検索結果を分けており、モバイルファーストインデックスの導入により、モバイル版ではモバイル対応前提の検索結果を表示するようになりました。
モバイル版の「スマホ対応」という表示も外され、今ではAMPに対応している記事にのみ「AMP対応」というラベルが貼られているだけです。
つまり、基本的に自社のホームページを「モバイルフレンドリー」にすることはもはや当たり前のことだと考えておいたほうがよいでしょう。
2. 2次元を超えたアプローチ手法を追求する
UXデザインとは、当初はホームページにおけるコンバージョンアップのための考え方であり、またスマートフォンアプリにおいて長く利用してもらうためのアプローチ手法とも考えられています。
ただ、スマートフォンのスクリーンサイズは限られています。
スクリーン上でどのように素晴らしい体験をしてもらうかという考え方は、2次元的なアプローチでもあり、表現方法も数えるくらいなので、UXデザイナーの仕事内容も必然的に狭まってきます。
しかし、IoTが普及したり、AIやチャットボットの可能性が広がってきたりした今、UXデザインは次なる局面を迎えています。
例えば、AmazonのAlexaやIBMのWatsonのように、APIを経由して誰もがVUI(音声を使ったインターフェイス操作)を使ったアプリケーションを製作できるようになったので、スクリーンで指を滑らせる以上にまでUXを考える幅が広がってきました。
また、英語のように広く使われている言語に対応するとなれば、イントネーションや文化、年齢や訛りもUXデザイナーとして考慮する必要が出てくるでしょう。
また、VR(Virtual Reality)についても同じことが言えます。
深い没入感を得るためにはアプリの操作性や手の使い方などももちろん考えるべきですが、同時に国や地域によって異なるボディランゲージや年齢などを考慮してUXに取り組む必要が出てきます。
その意味で言えば、UXデザインはもはや2次元的なデザインと捉えては時代遅れなのかもしれません。
スマートウォッチが普及したり、Amazon Echoのようなデバイスが普及するのであれば、ユビキタスな(場所を問わない)ユーザー体験を考慮する必要があるでしょう。
3. 仕事を「UXデザイナー」という枠組みに限定しない
いつの時代でもそうですが、「この仕事はこうあるべき」という「べき論」が議論されることはよくあります。
デザイナーで言えば、よく出てくる質問として「デザイナーはコーディングもするべきか?」「デザイナーはコピーを書くべきか?」というものがあります。
しかし、時代によって肩書きと職務内容は変化してきますし、その中で「べき論」を考えること自体が見当はずれだったりすることがあります。
UXデザイナーを例に考えてみましょう。
面白いことに、この仕事をしている人のほとんどが、最初からUXデザイナーとしてキャリアを進めているわけではありません。
そもそもUXデザイナーという役割がこの5年くらいの間で確立されたということももちろんありますが、現在UXデザイナーとして活躍されている方の多くは、ビジュアルデザイナーやライター、あるいはマーケターなどでキャリアをスタートしています。
そして実際に、UXデザイナーは、デザインはもちろん調査や戦略の立案、データ分析などにも責任を持ちます。
その意味では、UXデザインはデザインの「スペシャリスト」というよりはUXに関する「ゼネラリスト」として考えたほうがよいでしょう。
4. デザインもコミュニケーションも自動化される
AIによってさまざまなものが自動化されていきますが、「デザイン・オートメーション」(Design Automation, DA)も進むと考えているUXデザイナーも多くいます。
実際、IllustratorやSketchのようなツールにもアドオンが多く配布されており、InVisionやAdobe Xdなどのシームレスなプロトタイピングツールの操作も非常に簡単です。
デザイナーが数年かけて学んでいたことを、今では素人でも最低限の知識を押さえておけば簡単にデザインできる時代です。
すべてが全自動になっているわけではありませんが、小さなワークフローの自動化ツールがいくつも揃っているので、アイデアさえあればあっという間にデザインできるようになっています。
また、UXとはデザインというよりコミュニケーションに近いと考えているUXデザイナーもいますが、コミュニケーションの分野でさえ自動化が始まっています。
Slackbotを使えば簡単にカスタマーとのやりとりを行うことができ、IntercomやZendeckのようなWebサービスを使えばホームページにもチャットボットを設置することができます。
また、PocketやIFTTTのようなツールを使って自動化することもできます。
しかし、こうした変化を転機と捉えるUXデザイナーもいます。
これまで時間を使っていたものが自動化されれば、他の重要なことに時間が割けるからです。
UXデザイナーは、そもそもどういう仕組みで自動化するかの全体像を、CADデザイナーが建物を設計するかのようにデザインしたり、調査や改善に時間を使うことができるのです。
まとめ
4つの考え方に共通しているのは、「UXデザインは従来とは異なる次のフェーズを迎えている」ということです。
UXデザイナーと一緒に仕事をしたり、UXデザイナーとして転身したい場合には、こうした考え方も参考にしてみるとよいでしょう。