その昔、クラミドモナスの繊毛からエクトソームと呼ばれる謎小胞が放出されることを示した論文の話をブログに書きました。このエクトソームは細胞外でシグナルとして働き得るため近年注目を集めています。
先日Journal of Cell Biologyに出た論文で、エクトソームの放出を抑えることが視細胞の複雑な形づくりに必要であることが新たに示されました。それについて少しだけ詳しく書きます。
視細胞の細胞内構造
我々の目が物を見られるのは、網膜に存在する視細胞が光に応答するからです。視細胞は複雑に凹凸した円盤膜 (disc) と呼ばれる構造を持ち、この構造が光への応答性を高めるために必要であることが古くから知られています。
円盤膜が正しく作られるワケ
Peripherin2というタンパク質を欠損した動物では視細胞の円盤膜が見られなくなり、代わりに細胞の破片のようなものが見られます。筆者らが電子顕微鏡を使ってperipherin2欠損動物の網膜を詳細に解析したところ、今までは細胞の破片だと思われていたものが実はエクトソームであることが新たにわかりました。
・Peripherin diverts ciliary ectosome release to photoreceptor disc morphogenesis (JCB, 2017)
Peripherin2欠損動物で見られるエクトソームの中には光を感知するタンパク質であるロドプシンが入っていました。これらの観察結果から、peripherin2はエクトソームの放出を抑えることで円盤膜を作り、視細胞の正しい働きに寄与していると筆者らは考えています。
終わりに
網膜色素変性症の原因遺伝子の一つとしてこのperipherin2が知られており (難病情報センター )、今回の論文は病態メカニズムの一因を解き明かしたと言えそうです。
元々は単細胞生物であるクラミドモナスから見つかったエクトソームが、われわれの視覚に必須であると言うのは非常に面白い発見ですよね。エクトソームが他の細胞・臓器の機能性にも関わっているのか、今後の研究の進展が楽しみです。
PS. Peripherin2は4回膜貫通型の糖タンパク質であり、オリゴマーを作ることで細胞膜を曲げることが知られている (Peripherin 2 – Wikipedia)。ドメインスワップ変異体の戻し実験から、テトラスパニンコアが膜を曲げる機能を担い、またC末端ドメインがエクトソームの放出を抑制することが本論文で示唆された。Peripherin2について詳しく知りたい人は以下の総説を御参考あれ。