4月29日のJ2リーグ第10節、ジェフ千葉対徳島ヴォルティス戦。普段ならコアなサッカーファン以外、結果も知らないようなゲームが、俄に世間の注目を浴びることになっている。
騒動の発端は、前半14分だった。千葉が高いバックラインで攻勢を仕掛けるところに、徳島が左サイドから裏に抜け出し、好機を得る。これに千葉はGKが果敢に飛び出し、タッチラインへボールを出した。
このボールを追っていたのが、徳島のDF馬渡和彰(25歳)だった。馬渡は一刻も早くゲームを再開しようと急ぎ、側にいたボールボーイにボールを預けるように促す。しかし逡巡した少年に苛立って近寄ったところ、ようやく投げ返してきたボールを受け取りながら、その胸を小突いた。これが非紳士的行為として一発退場となっている。
「感情的になってしまった。あってはいけない行為。反省している」
馬渡は少年に謝罪したという。
経過と結果だけを見れば、感情的になってしまった選手の退場処分は避けられなかった。クラブも謝罪した。
しかし、世間はそれ以上の"罰"を要求している空気がある。
では、プレーヤーは社会的責任を一身で負うような行為をしたのだろうか?
ロナウド・ボールボーイ事件は今回の一件とは逆の結末に
馬渡の行為は大人げなかった。それは明らかだろう。
しかし事件が起きる前後数秒に、2人にしか分からない空気があったのは間違いない。
サッカーをやってきた(知っている)人間であれば、あそこで即座にボールを渡すことは、千葉の失点(もしくはピンチ)を意味する。GKはタッチラインまで出ており、走って戻る状況だった。ボールボーイは基本的に、ホームチームが有利にゲームを進められるように教育され、その判断は積極的か消極的か、の違いでしかない。当事者になったボールボーイの少年は、当然のことをしたまでだろう。
やはり、そこで怒り心頭に発した馬渡には落ち度があったということになる。
ただ、起こりえる騒動でもあった。
"ピッチという戦場"にいる選手たちは、人によってかなりの興奮状態にある。闘争心で自らを煽り、全力を尽くしているだけに、気遣う余裕もない。平時ではない精神状態にあるのだ。
そこに自らコミットする場合、子供であろうと、ボランティアであろうと、その立場は関係ない。
そういう考え方もある。
2014年3月、スペインのアトレティコ・マドリーとレアル・マドリーのマドリーダービーでRECOJEPELOTAS(ボールボーイ)の騒動が起きている。
場所はビセンテ・カルデロンだった。アトレティコの本拠地で、必然的にボールボーイもアトレティコの下部組織の選手たちだった。
後半71分、2-1とリードされたマドリーが攻勢に出る中、アトレティコの選手が右タッチラインにボールを蹴り上げる。マドリーはクリスティアーノ・ロナウドが少しでも早くリスタートしようと、ボールボーイにボールを要求する。しかし、ボールボーイたちは知らんぷり。ロナウドが少し離れたボールボーイに近寄ったところで、地面にボールが放り投げられた。
スタジアムのサポーターはこれに対し、大歓声だった。アトレティコのために、ボールボーイが見せた行為だからだ。
しかし後日、この行為は問題視されることになった。
「できるだけ速やかにプレーを促す」
ボールボーイとして、その義務を怠ったことが指摘された。さらに、その少年が笑っている映像も流れ、「不快極まりない」と一斉に批判へ。ボールボーイは名前も大々的に公表されることになった。
「ダービーで起こったことに関して、心から謝罪します。ごめんなさい。僕たちアトレティコのボールボーイは、みんながみんなこのようなことをするわけではありません」
脅迫文まで送りつけられた少年は結局、謝罪文を出すことになった。
「この少年がビセンテ・カルデロンでボールボーイをすることは、今後ありません」
クラブも、その意志を表明せざるを得なかった。
<大人の領域に入るなら、大人も子供もない>
それはそれで、ものの考え方ということか。
どこで線を引くべきか?
徳島の一件と違うのは、ロナウドは憤怒の表情を浮かべていたものの、子供を小突いたりしなかったことにある。馬渡も乱暴と言うほどのことはなかったが、やはり子供に手を出すと、社会の目は厳しい。しかし、子供だけがかわいそう、というのも一方に寛容的過ぎているし、かと言って、子供が謝罪文を出すのも的が外れているような気がする。
なにが正しいのか?どこで線を引くべきか?
様々な見方があるからこそ、このニュースは広がりを見せるのだろう。閉塞感の強い時代、論調に流されずに個人が受け止め、判断すべき部分もあるかもしれない。とくに、こうした騒動については、冷静な見方が必要になる。それこそ、大人として。例えば判定を不服とした徳島のサポーターが、ボールボーイに液体をかける(アルコールという話しもある)などという行為があったが、これは情状酌量の余地がない。厳正に処分されるべきだろう。
しかし、選手はこれ以上、裁かれるべきなのか?
瞬間だけを切り取れば、選手も、ボールボーイも、ピッチという限定された場所で自らの正義を貫いただけなのではないか。選手側に非があるのは明らかとしても。出発点において、彼は全力でプレーを続けようとしていただけだ。どこかに友好的な着地点はないのか――。
Jリーグ規律委員会の処分が確定するまで、クラブは選手を謹慎処分としている。
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