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ネットで高額売買 医学的根拠なし

メルカリで販売されていた「妊娠菌つき」の白米と手書きの絵。商品説明で米の分量は「1合」だったが、右側の袋には半分以下しか入っていなかったという

 「女性が妊娠しやすくなる『妊娠菌』がついている」と称した白米がインターネットで売買されていることが分かった。「妊娠米」と名付けられて1合当たり最高1500円で出回るが、毎日新聞の取材で、出品者に妊娠経験がなかったり、購入者にサプリメントのカタログが送られたりする事例が確認された。「妊娠菌感染」に医学的根拠はなく、専門家は「不妊に悩む女性を冒とくする詐欺行為だ」と憤っている。【鳴海崇】

 「妊娠菌」付き商品が売買されているのは、フリーマーケットサイト「メルカリ」。白米のほか、サプリメントや手描きの絵、アクセサリーも並ぶ。商品の販売ページで、妊娠菌は「女性が妊娠時や出産前後に触れたものにうつり、それを譲り受けて妊娠する人が続出している」と紹介されているが、日本生殖医学会は「過去に研究されたことはなく文献も存在しない」と、菌の存在を否定する。母子手帳や陽性反応が出た妊娠検査薬の画像を添付して効果を信じさせようとする出品者が多く、「6人の子どもがいるので強烈菌」とアピールしたものもあった。

 妊娠米の具体的な使い方として、少量を袋に入れてお守りとして持ち歩いたり、炊いてからおにぎりにして食べたりすることが勧められている。しかし品質や衛生状態は保証されておらず、安全性は無視されたまま出品されている。価格は1合500円前後が相場で、「友達が妊娠米をもらって8人妊婦なう」といった説明が添付される。関係者によると「2013年以降、数百件の取引が成立した」という。

 そもそも妊娠米と普通の米を見分ける方法はない。今年3~4月には「子宝祈願で有名な福岡県の神社に夫と30キロ持ち込んでお清めしてもらった」と称する妊娠米が1合1500円で3件販売された。「30キロをどうやって運んだのか」「領収書で証明できるか」と真偽に関する問い合わせが殺到すると、出品は取り下げられた。

 実際に妊娠米を1合500円で数回販売した関東地方の20代女性は、取材に「ずっと独身で妊娠経験はない」と証言。しかし、販売ページには「私も妊娠米のおかげで子供を授かりました」とうそを書いていた。「友人から『簡単な小遣い稼ぎになる。妊娠していなくても平気』と聞いてまねをした。あくまで験担ぎ。買えば前向きに妊活に取り組めるのでは」と話した。

 1回購入したことがある東京都の30代女性は「不妊治療を4年間続けて身も心も耐えられなくなり、最後の賭けで何でも試してみようと考えた。1合のはずが、3分の1しか入っていなかった」と怒りをあらわにする。商品が届いた1カ月後に「妊娠しやすくなる」とうたうサプリメントのカタログが自宅に届いたため、不審に思い送付した業者に問い合わせたが「営業リストの作成経緯は明かせない」と回答されたという。

悪質な商売、許せない

 吉村泰典・慶応大名誉教授(元日本産科婦人科学会理事長)の話 妊娠菌に科学的、医学的な効果があるはずもないし、少額でも詐欺と言っていいほど悪質な商売だ。不妊症や不育症に悩む女性は、わらをもつかむ思いで「妊娠や出産に良いことなら何でもやりたい」と考えがちだが、そうした人の弱みにつけ込む行為で絶対に許せない。崇高な妊娠について「菌が感染する」という表現をすること自体が非常に不謹慎。妊娠米は不衛生に扱われた恐れがあり、絶対口にすべきではない。

 【ことば】メルカリ

 会員制で、出品者は商品の写真や説明を販売ページに載せて価格を設定する。購入希望者は値下げ交渉が可能で、売買が成立すると事務局経由で代金を支払った後、出品者に直接商品を送ってもらう。簡単な取引で人気を博し、アプリのダウンロード数は昨年末現在で日本4000万件、米国2000万件。現行紙幣が額面以上の価格で売買されていたことでも話題になった。

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