「実は3月に妊娠していることが分かりまして…」
就職や転職、採用は縁とタイミングです。いま働いている会社や職種が当初の希望とは違っていたとしても、そこには縁があり、タイミングが合ったのです。
「いま働いている会社からしか内定をもらえなかったので仕方なく」と思っている方もいると思いますが、それも縁なのではないかと私は思っています。
昨年末から弊社の雑誌編集部で編集者を1名、募集しています。ただ、編集長が妥協できない性格なので、良い人材がなかなか見つかりません。
欠員が出るまでの人数でやっていた業務をいまは1名減った状態でこなしているため、ほかのスタッフに相当の負担がかかっています。
そもそも欠員が出る前の状態でもギリギリでやっていたので、スタッフの業務量は完全に容量オーバーでいつ爆発してもおかしくない状態です。
「誰か良い方、知り合いにいたら紹介してください」と昨年末に編集長に頼まれていましたが、そのときは応募もちらほらあったのでそれほど真剣に考えていませんでした。
ただ、最新号が校了を迎えた先々週、スタッフの疲労と不満がピークに達し、良い人材がいないか、編集長が本気で私に相談してきました。
この業界は口コミが仕事につながります。私が外注するのはカバーデザインやDTPが基本ですが、手一杯のときは編集を外部に委託することもよくあります。
そのようなときデザイナーに「誰か良い方、いません?」と相談し、デザイナーの知り合いの編集者に委託してきました。
その繰り返しで、いつの間にか人脈が拡がりました。出版業界は広いようで実はとても狭いのです。初対面でも「○○社の△△さん、知ってますよ」ということが多々あります。
昨年末に編集長に相談されたとき、実は1名、ピンとくる人材がいました。私が何度か仕事をお願いしたことがある編プロの編集者です。
編集プロダクション、略して編プロとは何?という方はこちらをどうぞ。
wakabkx.hatenadiary.jpその方は女性で、仕事は丁寧、厳しい納期にも対応してくれて、これまで何度も助けられてきました。私にとって貴重な存在で、対価を多めに払うことはもちろん、仕事を進めやすいよう、気を遣ってきました。
「版元に移りたいんです。ずずずさんのお知り合いがいたら紹介していただけませんか」― 彼女から相談されたのは特に厳しい案件が終わった約1年前でした。
編プロとは、要は版元(出版社)の下請けです。自身で企画して書籍を刊行することも、奥付やまえがきに名前が載ることもまずありません。
版元に言われたとおりに作業するだけで、とにかくいろいろな書籍を制作することが好きという人にとってはよいですが、それだけにとどまりたくない人がほとんどです。
出版社は人気があるため狭き門です。そこに入れなかった人の受け皿として編集に携われる編プロが存在していますが、版元と編プロの間には高い壁があります。
編プロでの業務を数年間こなしてきた彼女が版元に移りたいという気持ちはよく分かります。また、彼女であれば自信をもって紹介できるので、私もあちこちに声をかけていました。
ただ、決して好況ではない業界です。他社の出版記念パーティーなどで顔を合わせるたびに知り合いに聞いていましたが、なかなか欠員が出ませんでした。
ようやく欠員が出たと思ったら自社でした。いくら困っているとはいえ、取引先からの引き抜きは御法度です。彼女に言えば大喜びだったと思いますが、声をかけられませんでした。
しかし、編集長やスタッフが本当に困っている、そして彼女は版元に移りたがっているわけで、悩みに悩んだ挙げ句、彼女に声をかけました。
そして、冒頭の妊娠しているという回答を得たわけです…。
昨年末にすぐ声をかけてい“たら”、余計な気を遣っていなけ“れば”、誰にとっても良い結果になっていたかもしれません。
“タラレバ”を後悔したところでどうなるものでもありません。縁がなく、タイミングが合わなかったということなのかもしれませんが、自分の優柔不断ぶりに呆れました。
何が正解だったのか、ずっと悩んでいます。これまでの短くないサラリーマン生活、悩むことばかりです。「成長しねぇなぁ…」と痛感しています。
あと何回こんな悩みを乗り越えていかなければならないのか、“サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ”と言ったのはいったい誰だ。
サラリーマンは決して気楽ではないのです。