『創世のエル ~英雄の夢の終わりに~』レビュー - お前にクソな世界を救えるか!王道RPGの先にあるもの
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- 2017年05月01日
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- 創世のエル~英雄の夢の終わりに~|
- 評価9|
我々は、多くの巨悪を倒してきた。竜王、バラモス、エクスデスにガノン……多くの戦いを経て、多くの世界を救ってきた。
しかし、本当に巨悪を倒した後の世界は幸せだったのだろうか?
なぜ、世界を救うべきだったのだろうか?
『創世のエル ~英雄の夢の終わりに~』は勇者が無条件で救ってきたもの……世界と向かい合うRPGである。
RPG未経験者がやるべきゲームではない。しかし、もし君がRPGを解いてきたなら、次にやるべきRPGは『創世のエル』だ。
『創世のエル』はスーパーファミコン時代を思い出す見た目の見下ろし型RPGである。
フィールドはFF方式、かと思えば街や塔の配置はドラクエ方式と、過去の名作のオマージュがふんだんに盛り込まれており、細部までレトロRPGへの愛であふれている。
バトルはターン制を採用しており、システムについてはRPG経験者なら苦もなく入り込めるだろう。
だが、本作は懐かしのRPGではない。その世界観はまったくもって新しい。
どこからか現れた幻魔王ドラモスが世界に宣戦布告し、幻魔が世界中で人間を襲うようになった。また、同時に謎の死病が流行り始め、その脅威の前に人類は一致団結した。
ただし、ドラモスを倒せるのは勇者ヒイロのみ。世界中が勇者ヒイロを応援している……これが、表のストーリーだ。
だが、これらの国々は組織として勇者を応援しつつ、ドラモスが討伐後の世界で主導権を握るために水面下では争っている。それを見て、国民たちは「勇者が魔王を倒しても、世界は平和にならない」とどこか諦めている……。
王道の美しい英雄物語が進行しているなかで、裏の物語も進行する二重構造のゲームが『創世のエル』なのだ。もちろん、そのギャップに満ちた裏の世界を見るのがプレイヤーの役どころである。
本作をプレイすると、わざとらしい設定に戸惑う。というのも、本作の国々は実在の国をモデルにしており、その描き方があまりにもステレオタイプだからだ。
主人公の出身国は日本をモデルにした国ラポーニャは、弱腰で優柔不断な王が治めており、国民の意見も一致しない。
アメリカをモデルとした国エメリアは、強大な国力を持つが貧富の差は激しい。人権を重視しておりナヂャで虐げられている人々の救済を唱える。
中国をモデルにした国、ナジャ。絶対的な権力を持つ主席が国内情報を操作し、貧困の責任をラポーニャになすりつけている。
ラポーニャ領土の領有権を主張しており、領土問題でもめている。
あまりにもどこかで見たような世界。不毛なネット世界の縮図のようだ。そして、それはほぼ正しい。
不毛な議論を交わす人々。保身と野心だけが目的の権力者。権力者の意見に踊らされる人々。抵抗を無駄と死って諦めきった人々。
プレイヤーは文字通りクソみたいな世界を見せつけられることだろう。現実がモデルだからこそ、その酷さはより身近に感じられる。
その混沌の中で、ゲームはプレイヤーに「選ぶこと」を強いる。
ネット上の論説をモデルにしているため「右翼思想ゲーム」と言われたり、福島の写真が出てくるために「反原発ゲーム」とか短絡的に言われることもあるが、決してそう言った思想を選ぶのではない。
実際、意見が鼻につくことはあってもプレイヤーが思想を強制されることはない。
むしろ、プレイヤーと主人公の同一性こそが本作の重要なポイントである。
本作において、プレイヤーの考え方に関わることはすべて「はい」「いいえ」で選択でき、それが尊重されるのだ。
▲その選択は細部にわたり、人間関係のことなども選ぶことになる。
「独裁政治で人を弾圧するのは悪いことだと思うよな?」と聞かれても、プレイヤーは「はい」「いいえ」どちらを選んでもいい。
物語上の展開は変わらないが、「はい」を選べば独裁者と積極的に戦ことになり、「いいえ」を選べば独裁を肯定しつつも人間関係の都合で独裁者と戦う主人公と構図になる。
前半こそ上っ面の混沌とした世界に対する選択だが、後半になるほどに選択は難しいものになっていく。
クソみたいな世界で、クソみたいな選択肢を選ばされ続けるのだ。感謝されていたとしても、プレイヤーの内心はイラついていたりもする。
こんなクソな世界は、滅んでしまうがいい……!
そう思ったこともあるが、意地の悪いことにこの世界はクソだけじゃない。7割ぐらいはクソだが、2割は普通で、1割は希望もあるのだ。
それを見てどう思うか、それは当然プレイヤーの選択に委ねられ、最終的に決定的な選択をすることになる。
もちろん、最終的に世界を滅ぼすこともできる。
私はと言うと、最後まで世界の閉塞感に参っていた。
まともなことを言っているように見えて危険思想な奴らもいるし、善良でも愚かな人間もいるし、世界に希望がない。
だが、ゲーム終盤では世界を救う理由ばかり探していた。ただ世界を見捨てることはできなかったのだ。
最終的にはちょっと共感できた人が生きられるようにこの世界を救った。
我がことながら、エンディングを見ながら「自分は思ったよりも善人だったのかも」と笑えてきてしまった。
UIのまずさ(Twitterボタンは押し易すぎる)や、バトルの単調さは気になる物の、本作は夢中になって遊べるRPGだ。
序盤は過ぎるほどの社会風刺でうんざりし、中盤は危うすぎるシナリオの決着をどこに落ち着けるか気になってやめられなくなり、最後に感動で終わらせる。
とても暴力的な描写があり、下品な描写があり、絶望ばかりを描いている本作だが、本作は逆説的に「生きる理由」に目を向けさせ、プレイヤーに選ばせる希望に満ちたゲームであった。
クリア後に本作は『女神転生外伝 新約ラストバイブルIII』の没シナリオを使ったゲームということが示唆されるが、『女神転生』が「カオスとロウ」の生き方を選ぶゲームだったことを考えると、こういった作りにも納得がいく。
▲新約・ラストバイブルIの前日譚ともとれる。女神転生成分は低いので期待しすぎは禁物。
本作は古い王道RPGを土台に、レトロな見た目を使った最新のインディーRPGである。
王道RPGを幾度となく遊んできた方が最大限に楽しめる作りなので、RPGを好んで遊んできた方にぜひ試して欲しい。演出が合わない可能性もあるが、ゲームの半分は無料で試せるのでまずは遊んで、合わなければやめられる。
が、途中まで遊べば先が気になって続けてしまうことは請け合いだ。
ただし、まだ世界を救ったことのないひよっこは、先に何回か世界を救って出直してくるべきだ。
幸い、現代ではスマホがあれば手元いくつも世界が救える。
評価:9(かなり面白い)
課金について
840円(フルシナリオ)
おすすめポイント
気になるポイント
(バージョン1.0.18、ゲームキャストトシ)
アプリリンク:
創世のエル ~英雄の夢の終わりに~ (itunes 体験無料)
古いゲームの皮を被った爆弾って感想だったので、レビューにはだいぶ同意です。