なぜ『けものフレンズ』はヒットしたのか? 現役CGアニメ監督にその要因を聞いた

2017/5/1 19:01 ネタりかコンテンツ部

アニメ『けものフレンズ』、流行ってますよね。

 

http://kemono-friends.jp/

作品は観たことがなくても、「すごーい!」「たーのしー!」「きみは◯◯なフレンズなんだね!」という言葉を使ったことがあるという人も多いのでは。

 

もはや社会現象と化した感すらある『けものフレンズ』ですが、そのヒットの要因はどこにあったのか。知り合いの現役CGアニメ監督の人に聞いてみることにしました。

 

(※以下ネタばれ等は一切無いので、まだ観てないよという方も安心してお読みください)

 

 

話を聞いた人:石ダテコー太郎

元お笑い芸人、その後放送作家を経てアニメ監督・脚本家に。代表作は『てさぐれ!部活もの』シリーズ、『キュートランスフォーマー』シリーズ、『gdgd妖精s』など。『てさぐれ!部活もの』シリーズでは『けものフレンズ』チームと一緒に仕事をしている。

 

ヒットの最大の要因は、「緩急の使い分け」の巧みさ

 

ーー 今日はよろしくお願いします! 監督は『けものフレンズ』と同じCGアニメを専門にされているということで、ぜひプロの視点からいろいろ教えてください!

うん、まぁそうなんですけどね……。にしても、よりによって僕に聞きます? 意地悪だなぁ(笑)

 

ーー 最初にずばりお聞きしたいんですが、『けものフレンズ』がヒットした最大の要因ってなんだと思いますか?

もちろん複数の要因が重なった結果ではあるのですが、多くの人に刺さったのは「ギャップ」でしょうね。あの作品は少人数で作る低予算CGアニメなので、いわゆる手描きアニメと比べると雰囲気はどうしてもチープ。キャラクター同士の会話も全体的にシンプルで中身のない内容にあえて徹しています。何ならセリフも少し棒読み気味。

 

だから観る人は油断してしまうというか、最初は「できの悪い子供向けアニメ」というつもりで観てしまう。でも世界観やバックボーンといったものは、実は物凄く深い。このギャップがヒットの最大の要因だと思いますね。

 

気持ち的にはすごくダラっと油断した状態で観ている中で、いきなりズバッと重要な情報が飛んでくる。だからハッとなる。そして、いろいろ気になってしまうんですよ。

 

ーー ネットでは「観ているだけでIQの下がるアニメ」なんて声もありましたが

一見アタマの悪そうな雰囲気とやりとりの中に、謎の多い世界の「ヒント」がちょこちょこ散りばめられています。

野球でいえば「緩急の使い分け」が本当に巧いんですよ。球速120kmぐらいのピッチャーでも、丁寧なコントロールと凄い変化球があれば勝てますよね。

『けものフレンズ』は、たとえるならフォークやスライダーが超一級の技巧派ピッチャーなんです。脚本家さんの構成の作り方がとても上手だと感じました。

 

ーー そういう「狙い」って、すぐにわかりましたか?

「なにを楽しませたいか」は第一話を観ればわかりますよ。だってドラマでもアニメでも、視聴者はまず最初に「この作品はどういう世界観なんだろう」「この主人公は今どういう状況なんだろう」というところを理解したいと思うじゃないですか。

その期待値に対し、『けものフレンズ』は一見子供向けという“最初から全部教えてくれそうなフォーマット”なのに、小出しにしかヒントをくれない。作品世界も主人公も、全く説明無いまま始まりますからね。

 

だから普通のアニメというより、ゲームのように少しずつ新しい情報を出していくことでユーザーの気持ちを満たしてあげる設計というか。最初は“ながら”で観ていても、「お? お!」と思ってるうちに引き込まれてしまう構成になっているな、と思いました。

 

CGアニメの常識を超えた“絵”に対するこだわり

 

ーー 技術的な面で、『けものフレンズ』はここがすごい! というポイントを教えてください

少人数で作る低予算CGアニメで毎週30分やるっていうのは、実はそれ自体すごく大変なことなんです。正直、一話目をみたとき「すごいことやるなぁ、最後まで大丈夫かな?」と思いました。

CGって手描きに比べればラクというイメージがあるのですが、それは限られたキャラクターでの動きに関してのみの話で、背景は全部モデリング(※仮想3次元空間上に個々の物体をつくること)しなければならないので、場面転換とかが厳しいという弱点があるんですよ。

 

でも『けものフレンズ』は、展開がすごくスピーディー。背景の美術を手描きでたくさん用意していたんでしょうね。弱点のはずの場面転換をむしろ多用することで、会話の中身がなくともテンポよくストーリーが進行し、視覚的な情報量で補完して視聴者を飽きさせることがありませんでした。このあたりのコントロールもとても見事でした。

美術監督も撮影監督もちゃんとクレジットされていて、そこは普通のアニメ以上にすごくこだわっているんだなと。

 

ーー いまお話にでた「CGアニメ」と「普通のアニメ」は、他にどういう違いがあるんでしょうか

普通のアニメというのは、1枚1枚のセル画を描くいわゆる「手描きアニメ」のことを言っています。

いろいろな情報をディフォルメして描くので、ウソが多い映像になりますね。たとえば、「この角度からは絶対にこうは見えない」というものでも、描きさえすればいくらでも調整ができる。キャラクターの横顔とかは特にそうですが、どんなときでも一番イイ見栄えで見せることができるんです。そのディフォルメ感の気持ち良さがアニメらしさでもあると思います。

もちろん描くことには大量の時間と人手が必要なので、お金はすごくかかります。

 

それに対し、CGアニメは人形劇に近いですね。人形の角度はウソがつきづらいので、CGでやるならCGでやるなりのウソや工夫が必要になります。ただ、手描きのように1枚1枚全部描くという必要がないので、単純に動かすだけならそれほど労力はかからず、少人数でも制作することができます。

ただし、先ほど触れたように背景に対しモデリングが必要になるので、場面転換が本当に大変。登場人物が増えれば増えるほど、場面が変われば変わるほど、お金や時間がかかってしまいます。新しいキャラクターを登場させる場合も同様です。

 

 

ーー 「CGアニメはラクで安い」というのは、誤ったイメージなんですか?

キャラクターと背景が変わらず進行する「密室劇」の場合なら、という条件付きになります。もちろん、それはそれで別の面でいろいろ大変になるんですけどね。
でもディズニーとかの大作をみてもわかるように、CGだから時間もお金も少なくてすむわけでは決してないんです。

ちなみに派手なバトルシーンなんかになると、CGでも手描きでもすごく大変です(笑)。最近のアニメは手描きをベースにCGを併用することが多くなりました。ただ、CGをCGのまま見せてしまうと、まだまだ固いというか人形劇っぽさがどうしても出てしまいます。そのあたり、今まさにそれぞれが工夫して切磋琢磨している部分だろうと思います。

 

『けものフレンズ』のたつき監督は、CGで手描きっぽい美しい絵に見せることに情熱とこだわりを持っていたからこそ、30分のシリーズものに挑戦したんだと思いますし、その結果脚本家さんの仕込んだ見事な「ギャップ」を導き出せたんだろうと思います。「絵をしっかり見せるんだ」という強い意志が無ければ、おそらくああいう形にはなりません。

 

ーー たしかにCGアニメってパッと見だとどこか不気味な感じがありますが、『けものフレンズ』のキャラクターはみんな可愛いですよね

普通はCGアニメって、モデリングの際にキャラクターの余計なパーツを極力排除しようとするんですよ。衣装のヒラヒラ部分とか、それこそ耳とかシッポとか(笑)。そういう揺れたり動いたりするものがいろいろ付いてれば付いてるほど、動かす時にコントロールするのが大変なので、制作スケジュールを圧迫しちゃうんですね。

 

でも『けものフレンズ』はコンセプトデザインを吉崎観音先生(※漫画家。代表作に『ケロロ軍曹』など)が担当されていたため、制作サイドの目線なら間違いなく最初に削られていたであろうプラプラしたものが沢山あった。これは非常に大きかったと思います。

 

だってキャラクター目線でみれば、そのほうが可愛いに決まってますからね。完全オリジナル作品なら削られていたものが、吉崎観音先生のキャラデザインがありきだったおかげで残すしかなかったんでしょう。そこにアニメーターの情熱が加わることで、CGアニメなのにあれだけキャラクターが可愛くなったんだと思います。

 

▲参考:『けものフレンズ』PV

 

悔しい。「最初にどれだけナメられるか」が勝負の低予算CGアニメで王道を往く凄さ

 

ーー 同じクリエイターとして、『けものフレンズ』のヒットをどう思っていますか?

いい意味で悔しいですね、本当に。

 

僕はこれまで「アニメファンであればあるほど、手描きのキレイな絵で観たいと思うはずだ」という考えのもとでCGアニメを制作していました。別にCGを下に見てるわけではなく、「ちゃんとした台本のあるアニメはCGではまだ早い。既存の手描きアニメのほうがいい作品になる。CGアニメをやるなら、CGならではの表現や面白さを追求しよう」という考え方ですね。

だから「プレスコ(※セリフを先に収録し、それにあわせて絵を描く手法)」で、「会話は声優さんのアドリブも盛り込む」というスタイルに、ずっとこだわりを持って作っていました。

 

▲石ダテ監督の「プレスコ」による代表作『てさぐれ!部活もの』

 

でも『けものフレンズ』は、完全に台本ありきのCGアニメで既存の手描きアニメと勝負しにいった。本当に英断だったと思います。

 

ーー 戦い方自体が、普通の低予算CGアニメのものではなかったわけですね

低予算のCGアニメって、観ている人から“最初にどれだけナメられるか”が大事なんです。冒頭でも少しお話したように、まずはナメてもらってから、その後で「おっ!?」と思わせるような緩急をつけないといけない。僕の場合はそれが「アドリブ」という手法でした。

観ている人がナメてガードを下げているところに、緩急というパンチを打つ。それが低予算CGアニメの唯一最大の戦い方だと思っていたんです。

 

『けものフレンズ』は、低予算のCGでガードを下げさせたところまでは同じだったんですが、そこからさらに「子供向けっぽい絵と会話」で、もう一段ガードを下げさせた。そこに「謎のヒント」というパンチを打ちながら、王道のスタイルで戦ったわけです。二段階どころじゃない、四段階以上のクリエイティブ戦略ですよ。見事です。

 

ーー 低予算CGでありながら王道をいった点は、石ダテ監督にとっては相当衝撃だったようですね

僕が2013年に監督をしていた『てさぐれ!部活もの』という作品は、「アニメファンの中の一部」を意図的に狙いにいった変化球でした。局地戦の勝利ですね。それに対し、『けものフレンズ』はド直球での大ヒット。完全勝利ですよ。

 

アニメファンという枠を超える、より広く・より大きな層が、低予算CGアニメでも狙えたんだ! と気づかされました。

世界観を創った人と、「こういうペースでそれをじわじわ伝えていこう」という構成の妙ですよね。本当に素晴らしい脚本の書き方とシリーズ構成ですよ。もう本当に、こんな戦い方があったのか! と悔しくて仕方ない。良い勉強になりました。

 

低予算のCGアニメにはまだいろいろな可能性があることを再認識できましたし、自分自身この分野に夢があるな、と晴れ晴れした気持ちになることができました。だから本当にいい意味の悔しさです。

だって『けものフレンズ』は、ここまでの大ヒットになったこと自体はいくつかの偶然が重なった部分もあるとは思いますが、まぐれでできるものでは絶対にありませんから。この作戦を考えた人が実際にいるんです。悔しいけどわくわくしますね。

 

モノづくりのプロなら、「深い何かをどれだけ大きな範囲に届けられるか」を考えないといけない

 

ーー 先ほどから監督は「王道」という言葉を用いられていますが、僕はやはり『けものフレンズ』は斬新というか新世代というか、そういう「未知の何か」というイメージが強いのですが……

ヒットの要因という意味でいえば、そんなことはないですよ。それこそ『新世紀エヴァンゲリオン』だって『魔法少女まどか☆マギカ』だって、「これは定番のやつだ」と思ってノーガードで観てたからこそ、みんなノックアウトされたわけです。

 

たとえば『魔法少女まどか☆マギカ』は、それこそ第3話までは絵の感じも含め、日曜の朝に放送されているような典型的な“魔法少女アニメ”といった印象だったのに、あの衝撃展開を持ってくることで一気に評価が逆転しました。

それまでの伏線などが再注目されることはもちろん、「女子絵なのに衝撃展開」という緩急がついたことで、むしろ絵そのものが評価されるようになったんです。

 

ーー たしかに『新世紀エヴァンゲリオン』も、展開そのものは王道ロボットアニメを踏襲しているからこそ面白い、という意見が当時からありました。

そうなんですよ。普通のロボットアニメの展開の中だからこそ、エヴァ特有の不穏な空気が際立ち、その違和感で心を掴まれるんです。そういう手法自体は昔からずっと存在していたわけです。

 

そもそも「意外なアイデア」って、もう発想自体はある程度やり尽くされているんですよ。だからあとは「どんなタイミングでそれが起きるか」というコンビネーションで、どうやってガードを下げさせたところにパンチを打つか、どれだけ緩急がつけられるかの勝負になるんです。

 

ーー なるほど。だからこそ、「王道」であることが重要なんですね。

アニメでいえばエヴァ、お笑いでいえばダウンタウンさんがそうですが、「圧倒的大多数にウケる」と「クリエイティブとして最高レベル」は、現実として両立できてるわけじゃないですか。だから玄人ウケ・大衆ウケって、少なくとも作り手側は本当は区分すべきものじゃないんです。

 

深くて何かを持っている作品を一番大きな範囲に届けるという「振り幅」が、どれだけ大きく設定できるか。それがモノづくりのプロフェッショナルとして目指すべき考え方なんじゃないかなぁと。もちろん、目指しても上手くいくことのほうが少ないかもしれませんが。

その点で、『けものフレンズ』はそこをやりきったんだと思います。だってあんなにハードルを下げきった作品なんて、他になかなかないですよ。

 

でも、そういうノーガード戦法だからこそ、振り切ったパンチが打ち続けられるし、「謎」が効き続けているわけですよ。

 

 

ーー 作品の提示する「謎」に対し、「考察」や「解釈」でファン同士が盛り上がるという構図は、ヒットの戦略としては欠かせませんよね。

ヒット作って、評価が固まる直前までは「これはレベルが低い作品だ」とみなす人のほうが普通なんですよ。

でも、そういう世間評価に対し、「いやいやいや! 何言ってんだよ! あれはこういうことなんだよ!」と説明する人たちがでてきてくれることで、謎の要素や伏線部分の解釈が一気に盛り上がるようになるんです。

 

ーー 『けものフレンズ』も、 #けものフレンズ考察班 というハッシュタグがTwitterで大きな盛り上がりを見せました。

もちろん、そういう緩急をつけることだけが戦略ではありません。クリエイティブは逆算によってつくられるものであり、この作品の最大の強みは何か、を考えることが戦略上一番大切になります。

絵が圧倒的に綺麗だというのであれば、とにかく絵の魅力を生かす戦略をとるほうが大ヒットへとつながる可能性は高いと思います。

 

むしろ意識すべきでいえば、ファン層の多重構造化でしょうか。

たとえば平成ライダーと呼ばれる仮面ライダーシリーズは、主婦に支持されることでヒットしましたよね。でも一方で、本来の支持層である子供の人気も当然高いわけです。これは極端な例ですが、ヒットシリーズになれるかどうかはそういうところの違いが大きいんじゃないかと感じています。

 

ーー ヒット作になるためには運というか、偶然を味方につけているかどうか、という戦略を超えた部分も大切になりますよね。

そうですね。ある程度以上のヒットとなるには、きっとタイミング的なものは非常に重要なんでしょうね。

『けものフレンズ』の場合、もともとはメディアミックスのプロジェクトだったのに、先行展開していたゲームも漫画も終わることが既に決定していたという「絶対期待できない」状況で放映スタートしたアニメでした。だから余計に視聴者のガードは下がり、注目が集まった部分もあると思います。

この辺はやっぱり戦略を超えた部分でしょうし、もしここまで全部計算だったとしたら恐ろしいですよ、人智を超えてます。(笑)

 

ーー なるほど。本日は長い時間ありがとうございました。

 

まとめ

『けものフレンズ』のヒットの要因はいろいろありましたが、石ダテ監督の話をまとめると

 

・視聴者のガードを下げる要因が普通の作品以上に多く、既存のヒット戦略が上手くハマりやすい作品であったこと
・低予算でのCGアニメでありながら絵に強いこだわりを持ち、王道で勝負したこと
・「一番強いコアである謎の設定を、小出しにしながら引っ張る」という凄まじく割り切った戦い方に徹したこと

 

などがあげられるようです。

 

最後に石ダテ監督に、「これだけ『けものフレンズ』がヒットした後でも、やはりCGアニメで今後も勝負を続けるつもりなのか」と質問したところ「そこはクリエイターとして当然。『けものフレンズ』とはまた違う路線でヒットを目指す」という回答が返ってきました。

 

まだまだ発展途上のフェーズにあるという感の低予算CGアニメですが、『けものフレンズ』の2期を期待しつつ、ほかのCGアニメ作品も観てみようと思いました。

 

なお、『けものフレンズ』第1話は現在「ニコニコ動画」より無料で視聴できますので、興味を持たれた方はどうぞ。

http://ch.nicovideo.jp/kemono-friends

 

それでは!

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