技術はなんのために発展するのか AIと自動運転と少しだけ『けものフレンズ』【編集部便り】

日本自動車産業の黎明期を支えた人たち

突然話は大幅に飛びますが、1940年代初頭、日本は世界トップクラスの工業大国でした。その地位自体がその後の歴史に(良し悪し含めて)さまざまな影響を及ぼすことになるのですが、ともあれ当時の最先端工業製品である戦闘機の開発と製造技術において、まぎれもなく世界トップクラスだったわけです。

その日本が敗戦で研究室も工場もなくなり、開発・製造母体だった各メーカーも解散させられたのち、技術者たちはさまざまな分野へ散らばりました。

ある者は国鉄に就職して新幹線の技術開発に貢献し(0系新幹線の設計を担当した三木忠直氏は海軍航空技術廟出身)、ある者は航空宇宙産業の分野(「日本の宇宙開発の父」と呼ばれる糸川英夫氏は立川飛行機でジェットエンジン研究を担当)に進んで大きな実績を残しました。

そして多くの者が向かった先が、自動車産業でした。

トヨタで初代カローラの開発主査を務めた長谷川龍雄氏(高々度迎撃機「キ94」の設計主務)、日産でエンジン開発チームを率いた中川良一氏(紫電改の「誉エンジン」設計主任)、ホンダF1初代チーム監督の中村良夫氏(陸軍航空技術研究所でジェット戦闘襲撃機「火龍」開発担当)、富士重工でスバル360を作った百瀬晋六氏(海軍航空技術廟で「誉エンジン」に過給器追加担当)と、その例は枚挙にいとまがありません。

日本において戦後急速に自動車産業が発展し、高度成長期を支え経済大国へと押し上げた背景には、戦前・戦中から積み上げていた優れた技術者たちの育成とその活躍に依るところが大きかったわけです。

自動車技術は人々を幸せにしたか? むろんしました。しかしその技術開発は軍事産業の中で育まれ、のちに交通戦争と呼ばれる多大な事故死傷者と排ガスによる大気汚染問題もまたもたらします。

それでも自動車技術は人々を幸せにしたと言えるのか? 私は「少なくとも技術者たちはそれを目指したし、充分にその使命を果たしている」と答えたいと思っています。

 

話が明後日の方向に飛んで行ったまま戻って来ませんが、もう少し続けます。

本企画担当編集は前述の長谷川龍雄氏に、生前一度だけインタビューしたことがあります。

「工業技術者としては、やっぱり兵器を開発していた頃よりも、自動車を開発しているほうが幸せを感じるものでしょうか?」

と聞くと、

「それは人によるでしょうね。少なくとも私の場合はそういうことはあまり考えていませんでした。課題が目の前にあったら、それをどう乗り越えるかに集中していました。

ただ技術者にも矜持とかプライドとかやる気とか、そういうものを満たしていたほうがよい仕事をするんですよね。だから私は、高度成長期を支えるために安価で頑丈で高性能な大衆車が必要だと思っていたいっぽうで、トヨタスポーツ800のような、作っていても乗っていてもワクワクする楽しい車を開発するよう会社にお願いしました」

とおっしゃっていました。

のちにトヨタ自動車取締役製品企画室長を務め、技術開発だけでなく商品戦略や人材育成までマネージメントしてきた長谷川氏ならではの考え方だと思います。

作家、技術者、消費者、それぞれの役割

夢を形にして見せるのがクリエイターであり、その夢を大いに語るのがユーザーの役目であって、そうした夢を叶えてゆくのがエンジニアの仕事なのだと思っています。

『けものフレンズ』という作品は、「夢」を見せてくれました。一部繰り返しになりますが、それは機械が人と動物の架け橋となる夢でもありました。

まぎれもなく優れたクリエイターの仕事であり、こうした夢は、(多くの優れたSF作品と同じように)いま技術開発を続けているエンジニアたちに、矜持やプライドややる気を与えてくれたのではないかなと思っています。

 

『けものフレンズ』最終話のラストシーンでは、水上に浮かぶジャパリバスの遙か彼方にうっすらと2本組みの主塔を持つ斜張橋が見えます。おそらく「あの世界」でもモータリゼーションは発達しており、その技術力がジャパリバス+ラッキービーストの自動運転および人工知能技術を生み出したであろうことは想像に難くありません。

巨大せるりあんを海に引きずり込んで倒す決め手となったのは、ラッキービーストによる自己犠牲をともなう献策でした(「自己」という概念をラッキービーストが持つかどうかは微妙ですが)。

 

「機械が人のようになることよりも、人が機械のようになってしまうことのほうがよほど恐ろしいのではないでしょうか」

とは、脳科学者である池谷裕二氏の言葉です。

ラッキービーストの開発者はきっと、彼のジャパリパークでの活躍を知ったらとても誇らしいだろうなと思います。

『けものフレンズ』、しみじみいい作品ですよね。

ではそろそろ本企画担当編集は、「先日NHKの『プラネットアースⅡ(ユキヒョウ編)』のナレーションで聞いた、地面に体を擦りつけるのはネコ科の動物が相手を誘っているポーズ、という情報について、そういえばサーバルさんとカバンさんに最初に会った時、ライオンさんは床に体を押しつけてなかったか……?」というのを確認する仕事に戻りたいと思います。

長々とありがとうございました。

【完全に調子に乗ってる本記事担当編集の書いた記事は以下】

『けものフレンズ』に自動運転とAIの幸せな可能性を見た【編集部便り】

『けものフレンズ』自動運転とAI考察のための感想メモ【編集部便り】