忍者に熱心な方はお気付きかもしれませんが、2016年から忍者研究本関連が怒涛のように出版されています。
ここ1年で出版された山田雄司先生の「忍者の歴史」、川上仁一先生の「忍者の掟」、高尾善希先生の「忍者の末裔」、中島篤巳先生の「忍者の兵法」など、貴重な「忍者の〇〇シリーズ」はすべて忍者にとってマストリードな書物ですよね。
忍者ニュースランキング2016第7位になっています!
実はこれらの忍者の〇〇シリーズ、全て同じ出版社の、同じ編集者の方が担当されているんです。
今回のNin-terviewは、人呼んで「忍者書籍編集者」の株式会社KADOKAWA文芸・ノンフィクション局第4編集部の麻田江里子さん。
麻田さんは今、おそらく現代で一番忍者研究本を世の中に送り出している編集者ではないでしょうか。
忍者研究本の企画の経緯や、忍者研究者の方の裏話などをたっぷりお伺い致しました。
忍者研究書の出版における今を知ることのできるインタビュー「Nin-terview」第33弾をお届けいたします。
編集のお仕事とは?
麻田 こちらこそ!あの忍者のみなさんが憧れるNin-terviewに私なんかが出演させていただいて…恐縮です。ありがとうございます!
麻田 社内には雑誌や漫画をはじめいろいろな編集者がいますが、
麻田 ここまでが本の「編集」の話でして、あとはどんな紙を使うか、どんなカバーのデザインにするかの「体裁」を決めていくのも編集者の仕事です。取材が必要であれば、取材のアポ取りやカメラマンさん・デザイナーさんの手配など、本を作るために必要な工程全体の調整を行うのが、編集者の基本の仕事ですね。編集作業を進める一方で、宣伝や営業担当の部署にどうやって本を売って行くかを相談して、書店でイベントをやったり営業をかけてもらったりします。あとは細かいところで言うと…ネット書店での本の紹介に使われる著者情報や書誌情報。あれは編集者が地味にポチポチと入力しています(笑)
麻田 モノによりますね。企画から出版まで半年ほどで出るものもありますが、全集などでは執筆に20年以上かかるものもあります。私は古典も担当しているのですが、1年では出せないものも多いです。最近出したものでは企画から24年かかってやっと出版されたものもあります。
忍者の歴史(山田雄司)
麻田 山田先生が書かれた「跋扈する怨霊」という本をたまたま手にとって読んだのですが、読み終わったときに「ぜひ山田先生とお仕事がしたい!」と思ったんです。怨霊って科学的には証明されていませんよね。ですから歴史の専門家が怨霊を研究するって何なんだろうと思っていたのですが、歴史の記録には「怨霊が出てきた」ことは残っているんです。これはその時代を生きている人が、良心の呵責を感じている時に天災が起こったりすると怨霊が出てくるようなのですが、「怨霊っていないじゃん」と歴史から黙殺せずに、怨霊の記述から当時の人々が何を考え、どのように生きていたのかが見えてくると山田先生が書かれているんですね。歴史の新しい見方を提示してくれる山田先生にハマってしまったのです!
早速山田先生に早速お手紙を書いて、お目にかかれることになりました。怨霊の本で何か企画がご提案できたらと考えていたのですが、他の出版社で話をされているかもしれないので、念のためサブプランとして忍者の企画を持って行ったんです。結局怨霊は2冊目が決まっていてダメだったのですが、忍者はたまたま私が一番乗りだったようでして、忍者の歴史を担当させていただくことになりました。
麻田 山田先生は研究の実績もさることながら、世の中と研究の世界を繋ぐバランス感があって、一般の方にも大変わかりやすくお話くださいますよね。忍者界にとっては、今までベールに包まれて見えてこなかった忍者の本当の姿が見えてきて非常に画期的なことなのではないでしょうか。そして山田先生の研究は、歴史研究界にとっても、歴史上確実にいた忍者が何をしていたのかの観点から時代を紐解いて行く意味では、大変重要なお仕事だと思っています。山田先生もそうですが、全面的にバックアップしている三重大学もすごいですよね。
麻田 山田先生もかなりお忙しいので、ぜひ忍者研究のお手伝いをしてくださる人が決まるといいなと切実に願っています!
麻田 確かに「うちの山田は大変なのよ」みたいになってますね(笑)
麻田 「忍者の歴史」は、その名の通りで忍者の歴史を史実に忠実に通史的に書いた初めての本ではないでしょうか。最初に山田先生と目次の打ち合わせをしたときに、忍者が一番活躍した中世のことを書くか、通史的に書くかをご相談されました。読み物としては中世がおもしろいかなとは思ったのですが、教養として今後も長い間読んでいただける本と考え、忍者の通史を整理する基本書がよいのでは、と先生にご提案しました。この本が基本となって、今後現れるであろう研究者の方がそれぞれの時代の忍者の歴史を深堀りしていけるといいのかなと思っています。忍者のことをきちんと知りたいという方は、必ずお手元に置いていただければ嬉しいです。
The NINJA 公式ブック
麻田 ありがとうございます。忍者展は山田先生が総合監修ということで私にお声がかかり、公式ブックの担当をさせていただくことになりました。展示会の公式本担当は初めてだったのですが、The NINJAもオープン直前まで展示を作り込んでいらっしゃったので、内容が変わることがあって展示と本の調整がすごく大変でした。といっても外部の編集プロダクションさんに入っていただいていたので、プロダクションさんが一番大変だったと思います。
麻田 行きました!が、私運動が得意でないので、修行コーナーでは忍び足も最初っからビービー鳴ってました。私は忍者になれないですね(笑)
麻田 全体的に忍者に必要な要素は網羅されながらも、図がたくさん入っていて、普段本を読まない人にも馴染みやすい本になっています。それに科学や天文など、理系の話題が多く入っていて面白いですよ。最後にインタビューの英訳も入っているので、海外の方にも楽しんでいただければ幸いです。忍者を易しく知りたいならこれですね。
忍者の掟
麻田 川上先生の本もすごく興味はあったのですが、山田先生はいろんな忍者関連の方を紹介してくださるのに、川上先生だけは紹介いただいていなかったんです。どうやら他の編集の方とお話が進んでいたみたいでして。でも川上先生が話をされていたのが、弊社とお付き合いのあるフリーの編集の方で、角川新書にその方から「川上先生の本を出しませんか?」とご紹介くださって…その頃、社内の部署でも「忍者といえば麻田」みたいになっていたので、巡り巡って私が担当することになりました(笑)
麻田 川上先生はですね…実際にお会いして話していると、今でも忍術を使っているんじゃないかと思ってしまうんですよね。気さくになんでも話してくれるように見えて、ちょっと掴みきれない。すごく優しい方なんですけど、芯があって一筋縄ではいかない。ラストニンジャと言われていますが、本当に忍者の生き方を体現されているなと感じています。
あともう1つエピソードがあって、部署の先輩が昔川上先生の取材を担当したそうなのですが、川上先生が会社にいらっしゃることになったんです。「忍者が来るぞ」と社内でもそわそわしていたところ、普通のスーツだったそうで。先輩が「なんで忍び装束じゃないんですか?」と聞いたら、「こういう会社に来るときはスーツの方が忍べます」と答えられて、みんな「確かに!」って納得したそうです(笑)
麻田 初公開の貴重な資料が入っているのはおすすめですね。雨乞山の籠城の掟書など、公開されていなかった新たな事実に触れているのは、歴史好きとしてはグッとくるかと思います。
あとこれは川上先生も書かれていたと思うのですが、忍者って抜け忍は許さない厳しいイメージがありますけど、失敗した人をみんなで許してあげましょう、というような記述があり、実はチームとして仲間を大切にする優しいところがあるのが好きですね。この本からわかる忍者の意外性にも気づくことができて、そこから見えてくる忍者のルールは、今の私たちに重ね合わせられる部分が多いと思います。そして「川上先生って一体何者なんだろう」って思っている人も多いと思うので、それはこの本を読めばわかります!
忍者の末裔
麻田 こちらはKADOKAWAの若手社員で「幕府御家人 伊賀者の研究」の著者でもある井上さんの紹介で実現しました。彼の本が高尾先生の本の中で度々参考文献として出てきますが、お2人が知り合いだったことから、高尾先生の資料を見せていただきに行ったんです。そこには実に面白い内容が書かれていて、絶対企画を通そうと奮い立ち、担当させていただきました。忍者本を作り始めるといろいろな方から忍者関連の情報をもらうのですが、本当に貴重な資料が多くて楽しいです。
麻田 高尾先生は純粋に「研究者ってこういう方だなー!」ってくらいザ・研究者ですね。高尾先生が前に出された本が「明治時代から見る江戸時代の回顧録から江戸の歴史を紐解く本」だったんです。研究者であれば江戸時代の古文書を読めばいいのに、と思うかもしれませんが古文書は買おうとすると結構高いのです。高尾先生は、当時奥さんから「本はもう買わないように」と書籍や史料の購入禁止令が発布されていたらしいんですよ。でも回顧録だと文庫で安く手に入りますし、文庫であれば買っても小さいからバレないということで、一次資料が買えなくても文庫の回顧録から高尾先生は一冊の本を書き上げたんですよね。「どんな手段を使っても研究する!」という姿勢はまさに生粋の研究者。頭が下がります。
麻田 この本はもうただ「面白いから読んでください」に尽きますね!史料がとにかく貴重で、東京は地方紙がないのでニュースにはならないですが、これがどこかの地方で発見された史料だったら大ニュースになるような発見なんです。江戸時代の下級武士の生活がこんなに詳細に書き記された古文書群はなかったわけで、大奥女中との仕事の押し付け合いとか生々しくて面白いですよ。サンデー毎日でこの本の書評を書いてくださった本郷和人先生が「本書こそは歴史研究者に取り、あらまほしき著作である」と。とにかく高尾先生の純粋な研究が実を結び、こんな面白い本ができましたという一冊ですね。
忍者の兵法
麻田 私が社内で「忍者忍者」と言っていたら、角川ソフィア文庫の編集長から「文庫でも何か忍者の企画はないの?」と相談があったんです。「え、文庫で忍者ですか?・・・ありますよ〜!」と出した企画がこちらの本でした。昔、角川選書で出していた本だったのですが、今はオンデマンドでしか手に入らないので、研究者以外の方にも気軽に読んでもらえると思い提案しました。
麻田 中島先生も「選書で持っている方もいるから」と、かなり書き加えています。たとえば、武田流忍之書は文庫版で加わりました。その結果、企画当初よりもページ数がかなり多くなってしまい、少しだけ紙の費用が予算オーバーしてしまったので、部長に少し怒られました(笑)
麻田 中島先生はお医者さんであり、武道家でもあり、もう溢れる知識と執筆意欲を忍者に全身で注いでおられるお方です。万川集海と正忍記の刊本を出されて、今もなお研究や執筆をされていますからね。お会いしても大変人格者で「僕なんて僕なんて…」と言いながら次々と原稿を上げてくださるんですよ。スーパーマンですね。
麻田 膨大な忍術書をこれだけハンディな文庫で学ぶことができるのがおすすめどころですね。当時は解明されていなかったことも、医学的に正しいことだと証明してくれるのも中島先生ならではだと思います。おそらくですが、Ninjackを読んでいる忍者の方には、一番タメになる一冊ではないでしょうか。
なぜKADOKAWAは忍者を推すのか
麻田 漫画や小説のフィクションの分野では、今も昔も変わらず忍者は謎も多く魅力的な題材ですよね。ではなぜノンフィクション・人文の分野で取り上げているかというと、忍者の研究が他の分野に比べても近年グッと進んでいるからです。謎に包まれた忍者が学術的に明らかになっていく、というのが大変価値のあることで、学術の観点からとても興味深いテーマです。今忍者の人気がじわじわと再燃しているのは、おそらく研究者の方々のおかげで、新しい忍者像が見直されてきていることに起因していると思っています。
あとはKADOKAWAの特徴的なところも関係していますね。会社の方針としてイベントやグッズ、映画などの別メディア展開など出版だけでは終わらないテーマに力を入れることが求められています。忍者の学術書は研究だけでは止まらず、その先の展開も見えてくるコンテンツであることも、弊社が忍者を推す理由の1つですね。
麻田 部まではないですが、社内で部署横断でチームを作って定期的に忍者ミーティングをやっているんですよ。雑誌の部署やイベントの部署も交えたりしながら、忍者を軸にコンテンツ展開などを話し合ったりしています。Ninjackさんもその忍者ミーティングの中で話題に上がりましたよ。「すべての忍者をJackする」ってフレーズにみんなでどよめきました(笑)
麻田 私の中では考えている企画はまだまだあります!山田先生の本のような忍者の実像に迫っていく研究本や、ちょっと趣向を変えて、私たちがなぜ忍者のイメージを持っているのかを明らかにしていく本など、いろいろと考えています。今度の企画会議で持ち込もうと思っているのがいくつかあるので、これからも忍者の本は出していくことになると思いますよ!
麻田江里子にとっての忍者
麻田 考えたことはなかったのですが「自分で世の中を見ることの大切さ」なのかなと思っています。みんな同じような教育を受け、同じような生き方をしていることが多いと思うのですが、私もそうですが自分と違う立場の人生を想像できなくなってしまうんですよね。自分の手が届く世界で生きていると想像力が衰えていって、生きる力がなくなっていってしまうと思うんです。忍者や研究者の方に触れていると、忍者の常に自分で考えて生きている姿勢が見えてきます。そして、研究者の方も同じで、まだ何も答えがなくわかっていないことを発見して学んでいらっしゃいます。私たちも、教科書にないことを勉強していくことで、自分で世の中を見る姿勢を持っていると、厳しい立場になったときも生き抜く活力が湧いてくるのかなと思っています。それがKADOKAWAの忍者の本を通して伝えられれれば嬉しいですね。
麻田 私はもともと忍者が好きで忍者本を担当したわけではないのですが、忍者と出会えたことで素晴らしい先生方に出会えました。社内でも「忍者といえば麻田さん」と言ってもらえるようにもなりました。忍者は、私の世界を広げてくれた恩人だと思っています。山田先生も「怨霊と忍者では日本一になりたい」とおっしゃっていました。私も「忍者界隈で本を出すとなればKADOKAWAの麻田さんに相談してみよう」とまず思ってもらえるようになりたいですね。
麻田 お仕事で忍者に関わる人はみなさん忍者が好きで、忍者界の魅力は忍者愛の深さだと感じています。何かを好きで突き詰めていくことは、他の人から見たら笑われてしまうこともあるかもしれません。ですが、ずっと好きだと言い続けているとその熱意はいつか誰かを動かせると思います。KADOKAWAの編集者としては、もしこれらの本をお読みいただいておもしろいと思ったら、周りの人にぜひ面白いよと伝えていただけると嬉しいです。私ができるのは忍者を研究している先生方がおもしろいと思うことを本にすること。これからもたくさん忍者の本を皆様にお届けしたいのですが、売れないと次が出せないので…(笑)ぜひ周りの人に紹介していただければ幸いです!
編集後期
山田先生の怨霊本からあれよあれよと忍者書籍の第一人者になった麻田さん。
様々な忍者本はたくさんありますが、間違いなくKADOKAWAの忍者研究書籍に対する力の入れようは本物です!
これからもどんどんいろんな忍者本を出していって欲しいですね!
ちなみにインタビュー中、麻田さんのお腹がグーグーなっていました。
麻田さんは食いしん坊らしいので、もし本を出したい忍者のみなさんが麻田さんにアポイントをとるときは、何か美味しくて腹に溜まる手土産を持っていきましょう!








