(工藤)これがあれば無敵のカメレオン俳優ですよ!
(綾子)1本足りないの!包丁どこなの?誰が持ってるの!包丁包丁…。
(ミドリ)みんな同時に同じ夢を見ることなんてあり得るんですか?
(ユカリ)キャ〜!
(ダイチ)お前が最初に見たんだろ。
(陽一郎)ヤッベえ。
変なもん見ちゃった。
もっともっと何かしてあげられたはずだ。
お母さんとの時間大事にすべきだった。
(中国語)
(ストーリーテラー)中国の敦煌から発見された3万を超す文献の中に夢占いに関する本が交じっていました。
(ストーリーテラー)そこには太古から続く皇帝の見た夢が記録されていたのです。
歴代皇帝の傍らには夢によって国の将来を占う占夢官が寄り添っていました。
夢は現在でも謎を秘めてます。
2006年ニューヨーク。
ある女性が毎晩夢に現れる奇妙な男に悩まされ精神科を受診します。
夢に見た男のモンタージュを作成しネットに公開したところ不思議なことが起こります。
世界中から夢でこの男を見たという情報が多数寄せられたのです。
どうやら夢占いの結果が出たようです。
こんな話があります。
夢を記録し続けるとやがて現実と夢の区別がつかなくなりいつしか心を病んでしまうということ。
この皇帝が狂気に駆られたのはやはり夢を記録し続けたせいなのでしょうか。
それとも誰かに夢を操られていたからなのでしょうか。
(ミドリ)んっ…。
(ミドリ)んっ…うわ〜!
(ミドリ)
最近何をしても満たされない
(ミドリの母)ねえミドリ顔色悪いけど大丈夫?
(ミドリの母)あっそうだ。
とまとジュース飲む?
(ミドリ)いらな〜い。
全てが物足りない
だからなのか夢でも毎晩うなされる
でもどんな夢を見たのかまるで覚えていない
(ミドリの母)ねえねえ。
ねえこっちの服にしたら?この組み合わせの方がカワイイじゃない?
(教授)夢は人間の欲望と深い関わりがあります。
夢で欲望を解消しているのです。
その証拠にダイエット中にごちそうを食べる夢を見たりしたことありませんか?
(ユカリ)あっそれある。
(教授)じゃあなぜ悪夢を見るのでしょうか?
(学生たち)ハハハ…。
(教授)続けますよ。
人はどうして悪夢を見るのでしょう?それは人間が恐怖を潜在的に欲しているからです。
(ユカリ)え〜?怖い思いがしたいってこと?
(教授)歴史を振り返ってみてください。
チンギスハンやナポレオンやヒトラーといった独裁者は恐怖で民衆を支配しました。
しかし同時にとても人気があった。
人間は恐怖を求めてしまう生き物なのかもしれません。
故に悪夢には人間に対するメッセージが隠されているのかもしれないのです。
違う…。
いいかも。
(ミドリ)よし。
(ミドリ)「最近毎晩この男が夢に出てきます」「誰か助けてください」
(アナウンス)本日はご利用いただきまして…。
(文子)あれ見た?
(今日子)えっ何が?
(文子)あの夢。
(バイブレーターの音)
(今日子)あ〜。
(文子)気持ち悪いよね〜。
(女性)「夢にこいつが出てきた」
(男性)「この男を夢で見た!」
(男性)「なぜか手首に赤いもの巻きたくなるんだよな」
(男性)「赤いもの!確かに」
(男性)「俺も作って巻いた。
ほら」
(女性)「私も。
てことはみんな同時に見たってこと?」何これ。
(ミドリ)おはよう。
(マナブ)おはよう。
(ダイチ)見たよ夢男。
これヤバくないか?
(ミドリ)えっ?
(ダイチ)お前が言い出しっぺだろ?お前と同じ夢見たんだよ。
(ダイチ)えっもしかしてユカリお前も?
(ユカリ)うん。
廃墟みたいな部屋に入るとさ…。
(ダイチ)突然扉が開いてこう…。
お前の夢と同じだろ?
(ミドリ)えっ?あっうん。
(ダイチ)何でもない顔なのに見れば見るほど不気味なんだよな。
なっ?マナブ。
(マナブ)騒ぎ過ぎでしょ。
寝る前にミドリちゃんの投稿見たからだろ?偶然に決まってんじゃん。
(マチ子)2人とも見たの?
(ダイチ)見た。
私のしたことでみんなが騒いでいる
確かにおかしなことが起こっているのかもしれない
でも不思議と私の心は満たされていた
(リポーター)早く早く。
あのすみません。
最初に夢男をツイートしたミドリさんですよね?
(ミドリ)あっ…えっそうですけど。
夢男とは何者なんでしょう?詳しく教えてください。
人間っていうのは恐怖を求めてしまう生き物なのかもしれません。
故に夢男は私たちに何か重要なメッセージを伝えようとしてるのかも。
(リポーター)では最初にミドリさんが見た夢とは?
(ミドリ)襲われるような。
(リポーター)すごいですね。
(マナブ)ミドリちゃん。
あんまりむやみに騒ぎ立てない方がいいと思うよ。
(ミドリ)何それ。
私が何か悪いことしてるみたいじゃん。
(マナブ)違うよ。
ミドリちゃんのこと心配してるんだ。
デマや噂が一番人間をパニックに陥れる。
(ミドリ)デマ?私見たんだよ夢男。
みんなだって。
いっぱい食べてくれてうれしいな〜。
(アナウンサー)最初に夢男の画像をツイートした女子大生を直撃しました。
(ミドリ)人間は恐怖を求めてしまう生き物なのかもしれません。
故に…。
(ミドリの母)どうしたの?これ。
(アナウンサー)え〜ここで新しいニュースが入ってきました。
アメリカ大統領補佐官は先ほど同時多発的な夢男現象について本格的な調査を開始すると発表しました。
(文子)また見ちゃった。
昨日はとうとう夢男が恋人になってた。
何なの?これ。
私夢男に耳元で語り掛けられた。
(ブレーキ音)
(運転手)皆さんすいませんそのまま動かないでください。
(文子)どうしたの?何があったの?
(運転手)近くで暴動が起きてるらしく…。
(男性)乗せてくれ!
(男性)夢男が来るんだよ!あいつは実在するんだ!捕まったら終わりだ!
(女性)あっあ〜…。
勝手に入るな〜!
(女性たち)キャ〜!
(男性)何だてめえ!
(女性たち)キャ〜!
(男性)何やってんだよ!
(女性たち)キャ〜!・
(男性)あ〜!
(ミドリ)嫌だ嘘…。
・
(物音)
(ミドリ)痛い…。
さあ行こう。
(ミドリ)先生。
(ミドリ)先生いったい何が起こってるんですか?
(教授)はっきりとは分かりません。
ただ君の投稿を見た人々が恐怖にとらわれ異常な行動に出ていることは確かです。
(ミドリ)だからってみんな同時に同じ夢を見ることなんてあり得るんですか?人類が滅亡する前触れなのかもしれません。
生命が絶滅するときひとしく同じ意識にとらわれるといいます。
もう人間は限界なのかもしれません。
じゃあ夢男って何なんですか?
(教授)誰もが持っている集合的無意識の塊。
世界を終わらせようとする悪夢そのものですよ。
そもそも君自身が求めた恐怖が夢の中で具現化したものじゃないですか。
違います。
ホントは夢男なんて見てないんです。
いたずらで描いただけで。
だから…。
(教授)君そのこと誰かに言いましたか?いいえ。
じゃあこのまま黙ってるんだ。
いいね?
(ミドリ)でも…。
もしいたずらだと分かればみんな君のせいでこのパニックが起こったと考えるでしょう。
僕も解決策を考えます。
(アナウンサー)夢男関連の情報です。
ニューヨークに続いてロンドンでも夢男を見たという人々数百名が暴徒化しています。
またボストンパニックの死者は10名に上る…。
(健二)明日にも政府が非常事態宣言を出すらしい。
俺たちどうなるんだろう。
(マチ子)私は警察が捜査するって聞いた。
夢男は実在した連続殺人犯なんだって。
(雅之)アメリカ軍が開発した洗脳兵器だって噂もある。
夢の中で人間を洗脳する。
お前が最初に見たんだろ。
何か知ってるなら教えてくれよ!
(ミドリ)やめてよ。
私何も知らない!
(マナブ)やめろよ!夢男なんてバカバカしいよ!どこがだよ!世界中パニックなんだよ!ただの集団ヒステリーだよ!
(ユカリ)違う!見て。
(ユカリ)私昨日襲われたの。
(ユカリ)気付いたら隣に。
(ミドリ)そんな…。
見間違えでしょ?ねえ。
(ユカリ)あっ。
キャ〜!
(ユカリ)キャ〜!キャ〜!来ないで!
(ミドリ)ユカリ…。
駄目!ユカリ!・
(ユカリの落ちる音)
(教授)どうした!
(ミドリ)何でこんなことに…。
私…。
僕が何とかします。
だから変な気は起こさないように。
いいね?分かったね?
(アナウンサー)今日も世界各地で夢男にまつわる事件が起こっています。
パリでは夢男を名乗る男がカフェで銃を乱射し利用客50名を殺傷したとのことです。
これを受けEUは…。
(ミドリ)お母さん。
私ホントは…。
(アナウンサー)おい何してる。
(物音)
(アナウンサー)おいやめろ!
(スタッフ)うわ〜!
(アナウンサー)あっ!あ〜!こいつを殺さないと家族を殺すって言われたんだ!
(男性)おい止めろ!
(スタッフ)うわ〜!違う。
違う…違う!夢男なんていない!
(ミドリ)ユカリ。
(ミドリ)みんな聞いて。
夢男なんて嘘なの。
(教授)やめなさい。
私ね夢男の夢なんて見てないの。
あの顔は想像で作った顔なの。
マナブ君の言ったとおり夢男なんていないんだよ!みんな思い込んでるだけ。
早く目を覚まして!ねえマナブ君そうでしょ?思い込みなんかじゃないよ。
(ミドリ)えっ?みんなが見たと思ったらそれが現実だ。
マナブ君…。
苦しかったんだよ。
夢男を認めない自分が。
でも受け入れたらすっごい楽になった。
もしかしたら彼は救世主かもしれない。
何言ってんの?じゃあ何でユカリは死んだの?逃げたからだよ。
夢男さまがせっかく目の前に現れてくれたのに。
ミドリちゃんも早く認めた方がいい。
(ミドリ)嫌…。
そうだ。
マナブの言うとおりだ。
ミドリ逃げちゃ駄目なんだよ。
先生。
最高だ。
このときを待ってたんだよ。
こんなどうしようもない世界ならいっそ夢男に塗り替えてもらった方がいい。
みんなそれを望んでる。
(ダイチ)認めろよ。
俺らは夢男と向き合うべきだ。
(マナブ)考えちゃ駄目だ。
身を委ねるんだよ。
さあ!
(ミドリ)嫌…違う。
嫌〜!嘘…全部嘘なんです!夢男なんていないんです!みんな〜目を覚まして!嫌〜!駄目〜!えっ…。
うわ〜。
(ミドリ)あ〜!
(ミドリ)助けてください!
(警察官)どうしました?男に追われてるんです。
私殺される!
(警察官)そんなバカな。
(警察官)こんなふうに殺されるっていうんじゃないでしょうね?
(銃声)あ〜!お母さん聞いてくれる?
(ミドリの母)もちろん。
どうしたの?私すごく嫌な夢を見たの。
変な男の絵を描いたらみんながその男の夢を見るっていう。
(ミドリの母)どんな男?
(ミドリ)嫌…。
(ミドリの母)うれしい。
ようやく心を開いてくれたのね。
来ないで!
(ミドリの母)どうして認めないの?怖いでしょ?ちゃんと怖がればいいのよ。
嫌!・
(ミドリの母)逃げちゃ駄目。
(ミドリの母)怖いって言えば楽になれるんだから。
私は嫌!みんな間違ってる!こんなのおかしいよ!
(ミドリの母)認めなさい。
認めなさい。
認めなさい。
(ミドリ)これは夢。
これは夢。
夢なら死なない
あれ?覚めない
もしかしてこれ現実?
(医師)よく頑張りました。
ようやく退院ですね。
ありがとうございます。
ちょっと待ってください。
あなた何者なの?なぜこんなことするの?
(夢男)あなたが私を求めたんじゃないですか。
違う。
かなわないな。
分かりますか?世界はいつだってあなたたちの望みどおりです。
これから楽しみですね。
フフフフ…。
待って。
(スーツの男のおなかの下る音)
(スーツの男)えっ?夢の研究者フロイトは潜在的な欲望が夢の中に隠されていると考えました。
例えば性別が入れ替わったり人を殺してしまったり夢があなたの本当の欲望を教えてくれるのです。
しかしもしそんな深層心理に気付いてしまったときあなたはどうすればいいのでしょうか。
(綾子)《ここは私のお城なのです》《人生を懸けてつくり上げた完璧な…そう。
あまりにも完璧な私のお城》
(綾子)《子供のころから私は完璧主義でした》《けれど完璧なものをつくり上げるとその瞬間から始まるのが恐怖》《それを誰かに壊されてしまうのではないかという恐怖なのです》
(綾子)《そのとき私は見つけたのです》《大切につくり上げたものを壊されないための方法》《それは決して目を離さずにいつもそばで見守ること》
(綾子)《誰にも壊されないように私の大切なお城を》
(綾子)《あれ?》
(綾子)《やだ》《どこ行っちゃった?》・
(足音)
(綾子)和哉おはよう。
(綾子)杏奈先に食べちゃって。
冷めちゃうから。
(杏奈)いらない。
ダイエット中。
そんな。
せっかく作った…。
(綾子)おはようあなた。
朝ご飯できてるから。
(郁久)今日はいいかな。
食欲なくてさ。
やだ。
疲れてるんじゃない?毎日残業で。
(綾子)どうして?何で?私完璧にやってるじゃない。
(女性)その闇の部分を上手に取り除いてあげることがわれわれ大人たちの使命だと思います。
そうだ。
包丁…。
(コメンテーター)微妙な変化にSOSのサインを見落とさないようにしないといけませんね。
(女性)今回家から持ち出した包丁で偶然通り掛かった会社員を刺し殺して所持金2万円を奪ったといういまだ記憶に新しいあの事件。
その加害者でもある中学生は家族との会話はほとんどなかったそうなんです。
まさにこれが黄色信号。
(綾子)包丁包丁包丁…。
(コメンテーター)突然金遣いが荒くなったり明らかにお小遣いの範囲を超えた買い物をしていたり大金を所持していたら完全に赤信号です。
何これ。
包丁…。
うわ!
(女性)《家から持ち出した包丁で偶然通り掛かった会社員を刺し殺して所持金2万円を奪ったといういまだ記憶に新しいあの事件》
(バイブレーターの音)
(綾子)あっ…。
(綾子)「やっちゃおう」
(綾子)《私?》《次は私を殺すつもりなの?》
(綾子)包丁包丁…。
(コメンテーター)さらに女の子は男の子よりも信号が分かりづらい傾向にありますね。
「留学」そんなの私聞いてない。
しかもこんなお金…。
(コメンテーター)一見自立とも思える親に相談なしで進路を決めたり一人暮らしの計画を立てたりすることなども実は大変危険なシグナルなんです。
まさに黄色信号。
要注意です。
完全一致。
(綾子)包丁包丁…。
(電子音)包丁包丁包丁包丁…。
「帝東」「15」帝東15…。
(電子音)
(綾子)ヒット。
(コメンテーター)両親の不仲や離婚をきっかけに犯罪行為に走る子供たちも少なくありません。
愛情不足へのSOS信号と言っていいでしょう。
子供というのは大人が思っている以上に敏感なものです。
(綾子)「奥様にはバレてませんか?」
(コメンテーター)親の浮気はほぼバレてると言っても過言ではありません。
赤信号です。
(ドアの開閉音)
(杏奈)うわびっくりした!えっ何やってんの?お母さん。
(綾子)何これ。
また入ったの?部屋。
(ドアの開く音)「何?」って聞いてるの!
(綾子)殺したでしょ?包丁で。
殺してお金取ったでしょ。
誰殺したの?包丁は?包丁はどこ!
(和哉)はっ?
(ドアの開く音)ねえちょっとお母さんどうしちゃったの?
(郁久)何だ何だ?みんなしてどうした?「残業残業」っていつも午前さまだったけど嘘じゃない!ろくに目も合わせようとしないしご飯も食べないし「いってきます」も「ただいま」も言わないで!ねえどこ?包丁どこなの?誰?誰が持ってるの!
(和哉)何なんだよ「包丁包丁」って。
1本足りないの!殺す気なんでしょ?私を。
分かってるんだから。
綾子どうした?何言ってるんだ?私許さないから。
あなたが留学しちゃうのもあなたが犯罪者なのもあなたの浮気で離婚するのも。
私のお城は壊させない。
絶対に壊させないから。
(綾子)嫌…やめて…。
私守ってきたんだから…。
(郁久)綾子。
壊さないで!お願い。
私何もなくなっちゃうから!
(和哉)やっぱバラすしかなくね?お母さん。
ほら見て。
(杏奈)留学のチラシは間違って持ってきちゃっただけ。
もうすぐ銀婚式でしょ?
(和哉)お母さん言ってたじゃんオーロラ見るのが夢だって。
(郁久)どうしても費用は自分たちが出したいってな。
えっ?
(杏奈)バイトしてたの。
フフフフ…。
私が家庭教師で和哉工事現場。
(綾子)工事現場?現場で転んで鼻血出ちゃってさこっそり洗濯しようと思って隠しといたんだよ。
(郁久)休暇取るために毎日残業でさ手伝ってもらった部下たちにごちそうしたりしなくちゃいけなくてもう大変だよ。
あのメール…。
(杏奈)お母さん勘がいいからさもうすっごいドキドキしたんだから。
もういつバレんのかなって。
もう和哉なんてすぐ顔に出るし。
(和哉)だからなるべく顔合わせないようにしてたんじゃん。
(杏奈)いやいや逆に怪しかったからねそれが。
フフ。
でもさ私も見られちゃったし。
パスポート捜してるとこ。
(綾子)あっ…。
(杏奈)コピー提出しなきゃいけなかったからさ。
旅行会社に。
普段口には出さないんだけど私たちすっごい感謝してんだよお母さんに。
杏奈。
俺らがお母さん悲しませるわけないじゃん。
和哉。
お母さんはわが家の太陽。
いや女神だからな。
あなた。
(綾子)ごめんなさいみんなを疑ったりして。
(和哉)いいんだよ。
(杏奈)気にしないで。
(郁久)一件落着したら腹減ったな。
(杏奈)フフ。
何それ。
(郁久)ハハハハ…腹減っただろ。
(杏奈)ごめんねお母さん。
泣かないでよ〜。
何?
(綾子)《壊れてなんかなかったのです》《やっぱりここは大切な私のお城》《私の全て》《家族だけが私の宝物》あっ。
やだ。
あるじゃない。
何?何これ…。
ねえ見て。
(綾子)えっ?えっ?えっ?
(綾子)あっ…。
(綾子)やだ。
忘れてた。
殺したんだ私。
昨日の夜。
《うっ…》《あっ…》《いっ…》
(綾子)《この包丁で…》そっか。
だから…。
(綾子)《あっ和哉おはよう》《杏奈先に食べちゃって》
(綾子)《おはようあなた》《朝ご飯できてるから》《やだ。
疲れてるんじゃない?毎日毎日残業で》だから朝ご飯も食べられなかったしお弁当も持っていけなかったのか。
(男性)お世話になっております。
パラダイス旅行代理店の大谷です。
お申し込みいただいたフィンランドツアーの件なんですけれども…。
あれ?もしもし?風見さん?もしもし?妄想じゃなかったの?
(杏奈)お母さん。
お母さん。
(綾子)あっ…。
(郁久)綾子具合でも悪いのか?生きてたの?
(杏奈)何言ってんの?お母さん。
大丈夫?初めて見たよお母さんが居眠りしてるなんて。
居眠り?私が?
(綾子)痛っ。
そうだ…。
(綾子)《私は結局何もなかったことにしたのでした》
(綾子)《壊れてしまう》《私はそう思いました》《これを家族に突き付けて問い詰めたらきっと壊れてしまう》
(綾子)《見なかったことにすればいい》
(綾子)《私が忘れてしまえばそれでいい》
(綾子)《私は私のお城を守り続ける》
(綾子)《だってこのお城が家族が私の全てなのですから》
(綾子)ごめん。
すぐにご飯にするね。
(杏奈)ねえ大丈夫なの?
(郁久)あまり無理するなよ。
(綾子)みんな絶対に壊さないでね。
いつまでもここにいてね。
いつまでもいつまでも幸せに暮らしましょうね。
この完璧なお城で。
お母さんがずっと守ってあげるから。
(綾子)《これでいい。
何もなかった》《これからもここで見守っていよう》《あの砂のお城と同じように》《あれ?どうなったんだっけ》《あの砂のお城》《まっいいか》《本物のお城が手に入ったんだから》
(和哉)やっぱばらすしかなくね?
(杏奈)やめてよ「ばらす」なんてやくざみたいな言い方。
(郁久)そうだぞ。
ちゃんと「殺す」って言いなさい。
(和哉)このままじゃマジで俺らが殺されるって。
(杏奈)言ってたもんね。
寝言で「殺しちゃってごめん」って。
(郁久)夢には願望が出るっていうしな。
(綾子)《あのとき見つけた大切なものを壊されないための方法》《それは決して目を離さずにいつもそばで見守ること》私守りきれなかった?
(綾子)《やだ!やめて!壊さないで!》《私のお城は壊させない!》《絶対に壊させないから!》
(綾子)《そのとき私は思い付いたのでした》《大切なものを壊されないためのもう一つの方法》《それは…》
(綾子)《自分の手でぶっ壊すこと》
(工藤)これがあれば無敵のカメレオン俳優ですよ!史上最高のカメレオン俳優工藤圭太だ!
(圭子)ほら。
(優奈)ねえそれ。
(茂樹)お代わり。
(茂樹)《今日のテーマは…》
(一同)《動物》
(茂樹・圭子)フッ…。
(大樹)バ?バ…。
(優奈)プ?プ…。
「フ」でもいいぞ。
(優奈)あっ。
いや違う違う。
ラ…ラ…。
ラマだ。
ラマ。
ラ…。
ラ…。
ラクダは?
(圭子)言いました。
ラ…ラ…ラ…。
ラバ。
ラバラバ。
ラ…。
(大樹)ごちそうさま。
(圭子)お皿持ってって。
(大樹)は〜い。
(茂樹)ラ…。
(優奈)ごちそうさま。
(圭子)は〜い。
(大樹)ねえねえお姉ちゃんこんなのあるよ。
(優奈)フフフ。
何これ。
ちょっとホントやめて。
(茂樹)《ラ…》ラ…。
ラ…。
・
(優奈)お父さん!
(圭子)急に出ていくなんて何考えてんのよ。
(大樹)お父さんがいなくなるなんてやだよ。
(優奈)そうだよバカ。
ごめん。
みんなごめん。
一緒に帰ろう。
(3人)うん。
(優奈)じゃあお父さん。
(茂樹)んっ?ラ。
(3人)ラ。
ある朝不安な夢から目覚めると不気味な虫になっていた。
かの有名なカフカによる『変身』の一節です。
人間誰しも変身願望を持ってるようですが虫とはねえ?しかし時には何にだって変身しなければならない場合もあるようです。
(男性)何だてめえこら!
(男性)あ〜?
(工藤)あっあっ…。
(男性)あっ!てめえこら!うっ…。
おら〜!
(男性)あ〜!
(男性)兄貴兄貴…。
(男性)おら。
(男性)てめえ…。
(男性)しまえこら。
(工藤)うっあっ…。
てめえ…あっ!あっ痛え!うわ…。
あっ…。
この野郎!
(男性)あ〜…。
あ〜。
(白沢)カットカット。
おいこら!ぼけ!
(工藤)すいません。
(白沢)何だそのふ抜けた芝居は!
(工藤)ごめんなさい。
(白沢)最愛の恋人を殺された男の叫びがそれか!すいません!
(白沢)役になりきれ。
うわべの芝居じゃなくてここだよここ。
魂のマグマを爆発させろ!はい。
(白沢)今日はもう中止だ。
(スタッフ)本日以上です。
(男性)ちゃんとやれよ。
(スタッフ)撤収撤収!
(男性)お疲れさまでした。
(土橋)俺の立場も考えてよ。
主演大抜てきであんな芝居されたらキャスティングしたこっちが大ケガでしょ。
そりゃさ今はいいよ。
ちょっと笑うだけで周りの女の子たちがキャ〜キャ〜言ってくれるんだから。
でもさ見た目だけの役者なんてどんどん生きのいいのが出てくんだから工藤ちゃんもさそろそろ…中身で勝負しないと…。
(指を鳴らす音)
(土橋)生き残れないよ。
ですよね。
(土橋)フフフフフ。
あっ八巻さ〜んお疲れさまです。
(工藤)お疲れさまです。
(八巻)あ〜工藤君久しぶり。
(工藤)はい。
聞いたよ主演だってね。
(工藤)あっすいません一応。
まあ頑張って。
はい。
(土橋)じゃああしたの撮り直し頼むよ。
鍋ちゃんも指導しくよろで。
(鍋島)はい。
お疲れさまでした。
やっぱ八巻卓朗は違うなあ。
もうオーラが全然違う。
工藤も八巻さんみたいにどんな役にも染まれるカメレオン俳優って言われるくらいにならないとな。
(工藤)そんなプレッシャーかけないでくださいよ。
ただでさえ初主演ってだけでテンパってんのに。
お前さもう少し堂々とできないのか?さっきのシーン。
いや分かってんすけどね。
俺暴力とか苦手だし。
もう正直どうしていいか全然分かんないんですよ。
一瞬だけでも八巻さんみたいになれたらな。
(鍋島)なってみるか。
カメレオン俳優。
(春間)ご存じのようにカメレオンは体の色を自在に変え背景に溶け込む能力を持っています。
はい。
(春間)カメレオンが木や石になりたいと感じると脳内から特殊なホルモン物質が分泌されます。
その結果彼らは見た目もそして心までもなりたいものになってしまうのです。
へ〜。
(春間)われわれはその分泌された物質を採取することに成功しました。
これが変身ホルモンカメレオーネ。
(鍋島・工藤)カメレオーネ。
(春間)これを使って前頭連合野に直接カメレオーネを投与するだけ。
あとは何になりたいのかを強く思い描けば脳に信号が行って一時的に思いどおりの人間に変身できるというわけです。
あ〜何待ち?
(土橋)何待ち?
(鍋島)工藤…。
(鍋島)やっぱりやめよう。
たかが芝居じゃないか。
そこまでやることないって。
(工藤)俺鍋島さんと会ったとき約束したじゃないですか。
いつか俺の芝居で鍋島さんを泣かせてみせますって。
工藤…。
あれ?んっ…。
(鍋島)工藤?おい大丈夫か?工藤。
(工藤)《俺は中小企業で働くしがない課長代理》《不運な事件に巻き込まれ恋人を殺され復讐のため敵の元へ単身向かう》《俺はやつらを倒して恋人の無念を…》
(工藤)あ〜…。
(鍋島)あっ…。
(工藤)あっあっあ〜!
(鍋島)工藤。
工藤〜!
(工藤)あ〜!
(鍋島)すいません。
工藤入ります。
本番お願いします。
(白沢)てめえふざけんじゃねえよ!あっ?勝手にタイミング決めんじゃねえ。
ここは俺の現場だぞ。
あっあの野郎…とっぷり役に潜ってきやがった。
本番!用意。
あい!何だてめえこら!うっ…。
(男性)うわ…。
(男性)うわ!あっ…。
(男性)あっあっ…。
(工藤)あ〜!
(男性)兄貴!
(男性)うわ!あっあっ…。
あ〜!
(男性)あっ…。
(工藤)おら〜!
(男性)あっあ〜!
(工藤)許さない。
愛のために…お前を殺す。
(男性)やめて。
あ〜!
(白沢)カットカットカット!
(男性)お〜。
(鍋島)すごかったよ工藤。
監督も褒めちぎってたぞ。
(工藤)ヤバいですよこれ。
無敵です。
(鍋島)えっ?これがあれば無敵のカメレオン俳優ですよ!お願いします。
どんどん仕事入れてください。
どんな役でもなりきってみせますから。
分かった。
任せとけ。
いや〜!
(鍋島)ハハハ…。
(白沢)あい!
(工藤)元気なお乳ありがどなあ。
んでお前さんの名は?
(白沢)牛を愛する男の優しさ。
こっちの引き出しもあるのか。
・
(ピアノの演奏)・『恋』
(白沢)あの野郎ポールダンスまでものにしてきやがった…。
ポールさえあれば俺たちはどこへでも行ける!
(カナエ)ナイスダンス。
圭太。
(カナエ)どうしたの?
(工藤)これ。
(工藤)やっぱり八巻さんだよ。
(カナエ)でも2位でもすごいじゃん。
ネットの掲示板とか見たことある?みんな俺のこと八巻卓朗の二番煎じとか言ってるし…。
どうしたのよいつもの圭ちゃんらしくないよ?何?ううん。
(工藤)顔を洗ってくる。
(工藤)《俺は世界選手権で優勝経験があるポールダンサー》《自信に満ちあふれた男らしい男…》
(工藤)ハハハハハ…。
(工藤)お待たせ〜!
(鍋島)これ先生からもらってきた。
(工藤)ありがとうございます。
最近使い過ぎだろ。
(工藤)えっ?お前まさかプライベートでも変身してるんじゃないのか?
(工藤)全然大丈夫っすよ。
それより次の仕事は?これ…。
(鍋島)猟奇的な殺人鬼と悪徳刑事が激突する心理サスペンスだ。
カメレオン俳優のがちんこ対決を一番の売り物にしたいらしい。
八巻卓朗に勝つ絶好のチャンスじゃないっすか。
(鍋島)ああ。
だけど人間の狂気をむき出しにしたような追い込んだ芝居が必要になる。
お前大丈夫か?望むところっすよ。
(工藤)《人の死は美しい》《人を殺すことが俺の生きがいだ》
(工藤)あっあ〜!あ〜!
(白沢)はい。
じゃあラストシーン回して。
本番。
用意。
あい!
(八巻)なぜ美雪を殺した?
(白沢)テンンションマックス。
怒りと怒りの激突!相打ちの末2人同時に死ぬ!はっ!
(工藤)あっ…。
あ〜!あっ…。
うっ…。
うっ…。
(白沢)はい。
カット。
カット!
(鍋島)おい工藤。
どうした?大丈夫か?おい。
おい。
(土橋)大丈夫?工藤ちゃん。
(工藤)すいません。
ちょっと立ちくらみしただけです。
(工藤)大丈夫です。
やれます。
(八巻)いや監督あしたにしましょう。
万全な状態の工藤君とやりたいんで。
(白沢)OK。
分かった。
あっあっ…。
(工藤)《元気なお乳ありがどなあ》《ポールさえあれば俺たちはどこへでも行ける!》《人の死は美しい》・
(カナエ)ねえ圭ちゃんワイン飲む?
(工藤)《人を殺すことが俺の生きがいだ》《俺は彼女を心から愛している》《愛している》
(春間)今の状態では一つの役になりきることは不可能です。
脳が混乱してまともに変身すらできませんよ。
何とかなりませんか?
(春間)無理です。
お願いします。
この作品が終わったら脳を休めますから。
あと1シーンだけわずかな時間だけでいいんです。
何とか役になりきれるようにしてください!お願いします!1つだけ方法があります。
(工藤)何ですか?
(白沢)あそこまで上げてる八巻卓朗見たことねえぞ。
ヤバいですね。
あれ?工藤ちゃんは?あっ集中したいから一人になりたいと。
(春間)《より純度の高いホルモンを投与するんです》《何らかの副作用が起こる可能性も考えられます》《えっ副作用って…》《分かりません》《まだ使用した前例がありませんから》
(バイブレーターの音)はい。
(鍋島)間もなく本番だ。
分かりました。
ありがとな工藤。
えっ?もう十分だよ。
ホルモンは使うな。
そのままのお前でいい。
100%混じりっ気なし俳優工藤圭太の全力の芝居を見せてくれ。
待ってるぞ。
くそ…。
俺は史上最高のカメレオン俳優工藤圭太だ!う〜…。
(ホルモンを打つ音)
(鍋島)まさかあいつ…。
・
(カナエ)大丈夫ですよ。
(鍋島)カナエさん。
私あの注射器に細工をしておいたんです。
だから今の圭ちゃんにはホルモンは注射されていません。
気付いてたんですか。
きっとこのシーン全然駄目だと思います。
でも私もう圭ちゃんに無理してほしくないんです。
(白沢)よし。
回せ。
本番!用意。
あい!なぜ美雪を殺した!
(カナエ)すごい八巻さんのオーラが…。
工藤が動けない…。
(工藤の笑い声)笑うだと?
(工藤の笑い声)殺せよ…。
殺せよ。
お前が俺になるんだ!
(カナエ)圭ちゃんが盛り返した。
あっあの八巻さんを圧倒してる。
台本と違いますよ。
本なんて関係ねえ。
黙ってろ。
笑いに涙で返しやがった。
これが噂の八巻泣き。
すごい。
どうする?工藤。
(工藤の笑い声)
(笑い声)
(笑い声)ほら…ほら。
ほら。
ほら。
(笑い声)ほら。
殺せ。
5!4!3!2!1!
(八巻)うわ〜!
(銃声)これで終わりだ。
うっ…。
(せき)カット。
OK…。
(鍋島)あいつ自分の力で気持ちだけで…。
脱帽だよ工藤君。
工藤君?工藤…。
圭ちゃん?
(カナエ)圭ちゃん?圭ちゃん!しっかりして。
ねえ圭ちゃん!死んでる…。
(一同)えっ?おい救急車!
(スタッフ)おい救急車!早く!救急車…。
(スタッフ)はい。
(鍋島)待ってください!
(鍋島)工藤はやり遂げたんです。
最高の芝居で全部出し切って。
ようやくなりたかったものになれたんです。
だから…拍手で送り出してくれませんか?
(一同)んっ?
(カメレオンの鳴き声)
(陽一郎)ヤッベえ。
変なもん見ちゃった。
お母さんとの時間大事にすべきだった。
(カズ)うわ〜!あっ?うわ〜!
(茂樹)そうか。
「こ」で縛っているのか。
こ…。
ご?
(社員)いや〜今回カズレーザーさんにわが社の新製品の発売イベントに参加していただけて誠に光栄です。
いや〜とんでもございません。
こちらこそ。
こちらこそです。
(社員)やっぱりカズレーザーさんの赤というイメージカラー。
今回わが社の社運を懸けて送り出すこの宇宙一赤いトマトジュースにぴったりだと思いまして。
あ〜バカの一つ覚えで赤ばっか着てみるもんすね。
失礼ですがカズレーザーさんってどこか他の惑星から来た感じがしますよね。
失礼ですがホント失礼ですね。
この赤さ見てください。
(カズ)あ〜またこりゃすごい赤ですね〜。
あっ?
(社員たち)えっ?んっ?おかしいな…。
(カズ)うっ…。
あ〜駄目だ。
あの私赤い物が急に駄目になっちゃいました。
(社員)ハハハハハ。
(社員)あ〜。
(一同)ハハハハハ。
思うに今ので人が一生で愛せる赤の許容範囲を超えてしまいまして。
(社員)マネジャーさん?あっいや…。
(カズ)すいません。
でこう見えて今かなりテンパってます。
うっ…。
(社員)大丈夫ですか?アハハハ…。
あっ…駄目だな。
すいません。
(社員)あっちょっちょっと…。
ちょっとカズさん!
(男性)あっすいません。
(カズ)あっあっ…。
あっあっ…。
あっ!赤無理。
あっ!あっあっあっ…あ〜!駄目だ。
(カズ)うわ〜!キャ〜!
(カズ)うわ〜!もうどうしたらいいんだ?・
(なっちゃん)カズちゃん。
(カズ)ナツさん?
(社員)キャ〜!
(カズ)《血は駄目…》《血は…》《うわ〜…》
(なっちゃん)血が…青い。
(社員)やっぱり宇宙人だったんだ。
味噌汁。
(茂樹)《今日のテーマは…》
(一同)《有名人の名前》
(茂樹)《またかよ》ば…。
あっ。
(圭子)こ…。
(茂樹)《何だ?この圧迫感は》《小柳ルミ子小泉今日子小池栄子》《そうか。
「こ」で縛っているのか》こ…。
いたんだよ?こっ小森のおばちゃまって。
いやいたんだから。
こ?「ご」もあり?どうする?
(優奈)まあいいんじゃない?ご…。
ご?グループ名あり?しょうがないな。
(優奈)いいよ。
こっ…。
・
(はと時計の時報)
(大樹)あっ2人ともそろそろ行かないと。
あっヤッベ。
いってきます。
(圭子)は〜い。
(優奈)いってきま〜す。
(圭子)は〜い。
(茂樹)いってらっしゃい。
(圭子)あっ大樹!遠足のお金忘れてる!もう…。
(茂樹)大樹…。
大樹は今日遠足…。
そうか。
(クラクション)すいません。
すいません。
(男性の舌打ち)
(女性)かわいそう。
(男性)何だよこの見積もりは!
(茂樹)すいません。
すいません。
(男性)村上さん何年目?
(茂樹)はい。
(男性)いつになったらなくなるの?こういうの。
(茂樹)すいません。
すいません。
(男性)村上さん何年目?
(茂樹)ただいま〜。
(優奈)先食べちゃおう。
お父さんしり取り下手だし。
(大樹)うん。
(圭子)今日のテーマは「お父さん」
(優奈)パンツ一丁で部屋をうろつく。
靴下脱ぎっぱなし。
(大樹)白髪が増えた。
(優奈)頼りない。
(圭子)いつも仕事忙しそう。
(大樹)うちで一番偉い人。
(優奈)とっても優しいし。
(圭子)しり取りは下手だけど。
(大樹)ど…。
どこに出しても恥ずかしくない。
うっ…。
(優奈)い…。
一番大好きなお父さん。
あっ「ん」付いちゃった。
おかえりお父さん。
おう。
(茂樹)次のテーマはどうしよう?
(圭子)ウ…。
(一同の笑い声)私たちは現実の記憶と寝ている間に見た夢とを混同することがあります。
俗に言うデジャビュもそうですが考えてみればあなたのその記憶実は全て夢で見た出来事にすぎないのかもしれません。
(一同)おめでとう。
(みどり)あ〜ありがとう。
今日ありがとうね。
すごい感動した。
(女性)奇麗だった。
(司会者)ご歓談中失礼します。
これより新婦の父成田陽一郎さまより皆さまにご挨拶がございます。
(みどり)えっ?何それ。
(スタッフ)こちらへどうぞ。
(靖彦)大丈夫だよ。
(陽一郎)え〜突然すいません。
え〜新婦みどりの父成田陽一郎と申します。
本日はお忙しい中2人のためにお集まりいただきまして誠にありがとうございます。
今日は私の方からこの席をお借りしましてどうしてもお話ししたいことがございます。
え〜ホントなら今私の隣には妻がいるはずでした。
乾杯!
(一同)乾杯〜!しかしお前たちよく契約取ったな。
(一同)ありがとうございます。
(陽一郎)それでは約束どおり部長賞です!
(社員)やった〜!別にお前が取ったわけじゃねえだろ。
もしもしみどり?今悪いな。
会社の連中と飲んでんだよ。
うるさくて悪い。
どうした?
(一同)最初はグーじゃんけん…。
(みどり)お母さんが…。
(陽一郎)えっ?聞こえない。
どうした?お母さんが…死んじゃった。
えっ?
(陽一郎)
認知症を患っていた妻は不注意で火事を起こし煙を吸い込んで他界しました
54歳でした
私は妻にとって良い夫ではありませんでした
仕事で毎晩帰りは遅く家事や育児も協力しませんでした
葬儀の翌朝それは突然現れました
うわびっくりした!
(みどり)びっくりした…。
ヤッベえ。
変なもん見ちゃった。
(みどり)何?ほらそっ…そこ。
台所がどうかした?お前見えないのか?お母さんほらそこで洗い物してんだろ。
やめてよそういう冗談。
冗談ってほら…ほら見てみろよくほら!お母さんだろ!
(みどり)いいかげんにして!お母さんは死んだの。
お父さんまで認知症になったら私もう面倒見切れない。
(陽一郎)えっ…。
(男性)こんにちは。
(陽一郎)あの…。
(男性)はい。
(陽一郎)いますよね?
(男性)えっ?
(陽一郎)あっいや何でもないです。
すいません。
(男性)どうも。
いるよ。
何だよ。
言いたいことあんなら言えよ。
おい聞いてんのか?聞いてんのか?お前俺のこと恨んでんだろ?だから化けて出てきたんだろ?
妻の姿をしたそれは一言も話すことなくただ家の中にいるだけでした
何とか言えよ。
(ドアの開く音)
(みどり)あっ…。
妻によく似たそれの存在が気になり私は脳の仕組みを研究している友人に相談しました
(高梨)今どこにいる?
(陽一郎)そこ。
そこで…何だっけ?この花。
花切ってる。
(高梨)成田の奥さん確か認知症だったよな?
(陽一郎)ああ。
それと何か関係あんのか?
(高梨)認知症患者は症状が進むと記憶が薄れてゆく。
ただごくまれに患者自身の忘れたくないという強烈な意志によって記憶が時空間に定着するケースがある。
時空間に定着する?
(高梨)そう。
そしてその記憶は患者の意志に共鳴した人物だけに見えるようになる。
まるで録画した映像を再生するように患者の過去の行動が再現される。
(陽一郎)じゃあこれはさあの幽霊とかさこう化けて出てきてるわけじゃないんだな?
(高梨)奥さんの記憶そのもの。
いわば人生の残像だ。
話し掛けても答えることはないし触れることもできない。
じゃあ突然何かされるとかさそういう危険なものじゃないんだな?ああ。
でも早くこの家から引っ越した方がいい。
(陽一郎)何で?死んだ人間の記憶と共に生きるのは簡単なことじゃない。
このときの私には友人の忠告の意味が分かりませんでした
(陽一郎)出掛けんのか?この病院…。
それはちょうど3年前妻が認知症の宣告を受けた日の記憶でした
あの日私は仕事が忙しくて妻の電話に出ることができなかったんです
えっ?まず何をすんだ?これ。
チッヤベッ。
時間ねえじゃねえかよ。
それから3年間妻の記憶は彼女が送った毎日を正確に再現し続けました
(陽一郎)えっ?こことここ?簡単じゃねえかよお前。
やっぱうまいもんだな。
肉入れ過ぎなんだなこれ…。
・
(ドアの開く音)・
(みどり)ただいま。
あっおかえり。
ほれギョーザ作ったんだよ。
食え食え。
(みどり)いらない外で食べてきたから。
何だよお前…。
せっかく作ったのに。
1人で家事をすることがこんなにも寂しいものだとは知りませんでした
ハァ…。
(陽一郎)何やってんだ?
(陽一郎)へそくりか?これ。
は〜こういうとこに隠してんだ。
めかしこんでどこ行くんだ?どこ行くんだ?
(陽一郎)おうおうおう。
高そうな物食ってんな。
・
(店員)こんにちは。
お一人さまですか?
(陽一郎)あっいや違います。
あっ…あの…あの奥の女の人もう食べ始めちゃってるってことはもうデートとかじゃないんすよね?
(店員)えっ?あっいや…なっ何でもないです。
すいません。
すいません。
(陽一郎)何だ…。
妻はへそくりを使ってまあそこそこ豪華なランチを時々食べていました。
ちなみに私の昼飯代は500円でした。
(一同の笑い声)
(陽一郎)でも妻のしていたぜいたくはそれだけでした。
へそくりのほとんどは娘名義の口座に貯金していました。
(陽一郎)節約してためた金なんだろ?もっと自分のために使えよ。
いまさら言っても遅いか。
おいどっち行くんだ?おいどっち行くんだ?お〜ホホホ。
(陽一郎)へ〜。
近所にこんなとこあったんだな。
・
(三島)こんにちは。
(陽一郎)あっこんにちは。
(三島)あの…失礼ですけど春子さんのご主人ですよね?
(陽一郎)えっ?何でそれを?
(三島)散歩中によくここで春子さんとおしゃべりしてるんです。
それでもしかしたらと思って。
(陽一郎)あっそうですか。
どうも。
(三島)春子さんはお元気ですか?最近お見掛けしませんが。
(陽一郎)あっ…。
あっいやあの…実は先月事故で亡くなりました。
それはまだお若いのにお気の毒に。
でも幸せだったでしょうね。
優しいご主人と最後まで一緒に暮らせて。
えっ?以前春子さんが教えてくれました。
ご主人は仕事から帰ってくるときいつも電車の中から手を振ってくれるんだって。
電車が家の前を通るときお互いに手を振って合図する
それは線路脇のアパートに住んでいた新婚時代の約束でした
あんな若いころの思い出いまだに覚えてんだからびっくりしちゃったよ俺。
成田お前大丈夫か?何が?
(高梨)忘れてないよな?今見えてるのが奥さんの3年前の姿だってこと。
いつか必ずつらい別れが来るってこと。
分かってるよ。
当たり前だろそんなこと。
(社員)成田部長33年間お疲れさまでした。
ありがとう。
みんなありがとう!お疲れさまでした!
(陽一郎)頑張ってな。
私は妻の記憶と最後まで向き合うため会社を辞めました
それから1年たち2年たち妻の記憶と共に生きることが当たり前になったころ娘が靖彦さんを連れてきました
靖彦さん娘のことよろしくお願いします。
(靖彦)いえこちらこそ。
(陽一郎)妻もきっと喜んでると思います。
(みどり)忘れてるよ私のことなんて。
(陽一郎)そんなことない。
お前何言ってんだよ。
ううん。
絶対忘れてる。
大丈夫だよお母さんちゃんと覚えてるから。
(みどり)えっ何でそんなこと言い切れるの?ずっと介護してたの私なのに。
お父さんは仕事ばっかりしてたくせに。
(靖彦)みどり…。
(みどり)お母さんが死んでからもうすぐ3年だよ?いいかげん乗り越えてよ。
妻の死からもうすぐ3年
二度目の別れが近づいていました
(陽一郎)春子!春子!
それは妻が夜中に徘徊し警察に保護された日の記憶でした
春子!
朝になれば帰ってくる
そう分かっていながら妻を捜さずにはいられませんでした
春子…。
ハァ〜いた。
ハァ…。
ほら。
はだしでパジャマでお前…。
帰ろう。
帰ろう。
この日を境に妻の症状は悪化し毎日通っていたスーパーからの帰り道も忘れてしまいました
妻は家の中でぼんやりしてることが多くなりました
笑った…。
その記事を見て妻の笑顔の理由が分かりました
あれは私がまだ26歳のときのことです
(陽一郎)《結婚しようか》
(春子)《えっ?》
(陽一郎)《頼りないと思うけど頑張るから俺》
(春子)《ちょっと何でゴリラの前でプロポーズするの?》
(陽一郎)《いや何となく今かなって》
(春子)《もっと雰囲気大事にしてよ》
(陽一郎)《あっ…ごめん》
(春子)《あなたのそういうところ嫌いじゃないけど》《幸せになろうね》《うん》
最後は家族の名前すら忘れてしまった妻がプロポーズの日のことしっかり覚えていたんです
(陽一郎)そして妻と過ごす最後の日が来ました。
もういいよお父さん。
あの日私がお母さんを1人にしちゃったから…。
「絶対家の外に出るな」って言っちゃったから…。
だから…。
違う。
(みどり)そうだよ!だってお母さんいっつも謝ってた。
「ごめんなさい。
迷惑掛けてごめんなさい」って。
私そんなお母さんに冷たくしてばっかりで…。
みどり今からちゃんと話す。
あのとき何があったのか。
庭のマーガレットことしいっぱい咲いたな。
やっぱりあの肥料が良かったのかな?
(陽一郎)おいアイロンつけっぱなしだぞ。
ホントにもう…。
何やってんだ?お前。
アイロンかけっぱなしだよ!コンセント抜いてこい!春子!来た…。
逃げろ…逃げろ!逃げろ逃げろ!よし!よし!逃げろ!逃げろ!そうだ!そうだ!よし!早くしろ!逃げろ!どうした?逃げろって!何やってんだよ。
何で戻んだよ。
逃げろって!春子!金なんかお前どうだっていいだろうがよ!
(陽一郎)お前…こんな古い写真まだ持ってたのか。
逃げろ…。
こっちだよ!春子!こっちほら!逃げろって!春子!頼む…春子逃げてくれ。
逃げてくれ。
逃げてくれ春子…。
頼む…。
(春子)《あなた》お母さんが逃げ遅れたのはきっと俺のせいだ。
もっともっと何かしてあげられたはずだ。
もっともっとお母さんとの時間大事にすべきだった。
お父さん…。
(陽一郎)どうもすいません。
(陽一郎)みどり靖彦さんどうか2人手を取り合って悔いのない人生送ってください。
そしてありふれた日常の中にこそ実は素晴らしいこといっぱいあるんだってことどうか忘れないでください。
え〜本日はどうもありがとうございました。
(一同の拍手)・
(電車の走行音)んっ?おっ失礼しました。
夢を見ていたようです。
チョウになってひらひら舞う夢でした。
古代中国の思想家荘子が残した『胡蝶の夢』という話があります。
チョウになってひらひらと愉快に飛んでる夢から覚めふと思うのです。
果たして自分がチョウの夢を見ているのかそれともチョウが自分の夢を見ていたのか。
こんな疑問を持った瞬間あなたも気付かぬうちに奇妙な世界へと迷い込んでいるのかもしれません。
(夢男)今夜あなたの夢にお邪魔します。
(久代)ここで三四郎さんをよく知る方々にお越しいただきました。
どうぞ!2017/04/29(土) 21:00〜23:10
関西テレビ1
土曜プレミアム・世にも奇妙な物語’17 春の特別編[字]
菅田将暉カメレオン俳優で絶叫怪演5連発!中条あやみ怖すぎる悪夢が世界滅亡に導く…永作博美が妄想爆発包丁探すサイコホラー!遠藤憲一亡き妻の記憶と想いに涙
詳細情報
番組内容
斬新で多様なラインナップをとりそろえ、おなじみのストーリーテラー・タモリと豪華キャストが“奇妙な世界”へといざなう人気シリーズ『世にも奇妙な物語』最新作!
『カメレオン俳優』 菅田将暉
いまもっとも旬な俳優・菅田将暉が文字通りカメレオン俳優になる!どんな役にもなれるホルモン薬“カメレオーネ”を手にした主人公が行きつく果ては…?
番組内容2
『一本足りない』 永作博美
一本の包丁が無いことをきっかけに生じた“疑念”が平凡な主婦を狂わせてゆく、戦慄のサイコホラー。完璧主義者の主婦を永作博美が怪演!
『夢男』 中条あやみ
SNS時代ゆえに起きた壮大な悲劇!夢か現実か!?不気味過ぎると話題の実在の都市伝説男This Manをついにドラマ化!
番組内容3
『妻の記憶』 遠藤憲一
事故死した妻の記憶(残像)と暮らし始めるサラリーマン。死んだ妻の本当の気持ちとは…。遠藤憲一が熱演する、泣ける異色ラブストーリー!
ショートショート:
『しりとり家族』 滝藤賢一。江口寿史の短編ギャグ漫画。
『赤』 カズレーザー。トレードマークの赤が怖くなる?
『ノック』 渡邉剣
出演者
【ストーリーテラー】
タモリ
〈カメレオン俳優〉
菅田将暉
塚地武雅(ドランクドラゴン)
山崎紘菜
山中崇
峯村リエ
・
大和田伸也
平山浩行
〈一本足りない〉
永作博美
神尾佑
北香那
今井悠貴
〈夢男〉
中条あやみ
This Man
広田亮平
唐田えりか
杉野遥亮
・
村上新悟
筒井真理子
出演者2
〈妻の記憶〉
遠藤憲一
徳永えり
遠山俊也
・
原田美枝子
〈しりとり家族〉
滝藤賢一
内山理名
浜辺美波
中川翼
〈赤〉
カズレーザー(メイプル超合金)
安藤なつ(メイプル超合金)
〈ノック〉
渡邉剣
他
スタッフ
【脚本】
黒岩勉
蛭田直美
いながききよたか
和田清人
森ハヤシ
岩崎う大
大塩竜也
【原作】
Osd
江口寿史
【演出】
「カメレオン俳優」「しりとり家族」 後藤庸介
「一本足りない」 小林義則
「夢男」 松木創
「妻の記憶」 河野圭太
「赤」 紙谷楓
「ノック」 岸川正史
【編成企画】
狩野雄太
加藤達也
【プロデュース】
後藤庸介
上久保友貴
スタッフ2
【制作】
フジテレビ
【制作著作】
共同テレビ
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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