ヤマト運輸の看板=東京都中央区(伴龍二撮影)

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 宅配便最大手のヤマト運輸が宅配サービスの見直しに踏み切った背景には、構造的な低収益と労働環境悪化にメスを入れなければ、事業の存続そのものが脅かされるとの危機感がある。

 手厚いサービスにこだわってきた日本型ビジネスモデルの限界が浮き彫りとなった格好だが、競合他社が追随すれば、物流業界全体で生産性向上の動きが加速する可能性も秘める。(佐久間修志)

 「外部環境の変化が進む中、従来のモデルで持続的成長を図ることが困難になっていた」。ヤマトの長尾裕社長は28日の会見で、見直しが苦渋の決断だったことを重ねて強調した。

 インターネット通信販売の普及などで、平成28年度のヤマトの宅配便取扱個数は約18億7千万個と過去最多にもかかわらず、割安な法人向け運賃や外部委託費の増加などで採算は悪化。持ち株会社ヤマトホールディングス(HD)が同日公表した29年3月期連結決算で、本業のもうけを示す営業利益は、前期の約半分にまで目減りした。

 ネット通販大手アマゾンジャパンからの配送を請け負った25年からは再配達も急増。首都圏の一部地域ではドライバーが3〜4分に1個のペースで荷物を届けなければ休憩が取りにくいまで労働環境が悪化した。ヤマトHDの山内雅喜社長は「現場に目が行き届かず多くの社員に負担をかけた」と声を絞り出した。

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 今回、山内氏ら6人の処分と引き換えにしてまで断行したサービスの抜本見直しは、ヤマトが過去の成功体験と決別することを意味する。

 時間帯指定やクール便などの新サービスを次々と打ち出して需要を取り込んできたヤマトのビジネスモデルは、日本のサービス業を支えてきた“勝利の方程式”と重なる。だがこの方程式では低価格もサービスの一部に位置づけられ、低収益性を物量で補う構造に陥りやすい。人手不足で供給制約に陥れば崩壊する危険性をはらんでいた。

 国内の物販市場に占めるネット通販の割合はまだ5%程度にすぎず、市場拡大が加速するのはむしろこれから。ヤマトは将来手にすべき果実に備え、戦力に見合った水準に荷物量を抑えて当面の時間を稼ぎ、値上げの利益を労働環境の改善や情報通信技術(ICT)の整備などに充てることで「事業モデルを時代に合わせて設計し直す」(山内氏)。

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 生産性の向上は物流業全体の課題だ。国土交通省によると、トラック物流の荷物積載率は約4割足らず。荷物を積み込む際には1便当たり平均2時間弱の待ち時間が発生するなど、物流事業の労働生産性は全産業平均の8割にも満たず、経済成長の阻害要因にさえなっている。

 「送料無料でも実際は誰かが負担している」。石井啓一国交相は物流サービスの“たたき売り”が当たり前の現状に警鐘を鳴らす。構造改革の成否は、古いビジネスモデルを無言で後押ししてきた荷主や消費者の意向もカギを握っている。