日本郵政が海外事業で巨額の損失を招き、赤字決算に陥った。同社は一昨年に上場したが、依然株式の8割を政府が持つ。なぜこんな事態に至ったのか徹底的に検証し、株主である国民に説明する義務がある。

 上場の半年前にオーストラリアの物流企業「トール社」を6200億円で買収し、グループ内で郵便事業を担う日本郵便の子会社にした。しかし、トール社の業績が悪化し、企業としての価値が落ちたとして、4千億円もの損失を計上した。

 資源価格の下落による豪州経済の低迷が背景にあるというが、当初から「高値づかみ」の懸念や批判があった。当時の経営陣の責任は極めて重い。

 買収時の日本郵政社長だった西室泰三氏は、発表の会見で「もしもうまくいかない場合には、潔く失敗を認めて、それなりの対応をさせていただく覚悟であります」「国家からお預かりした財産を毀損(きそん)しない、それを元に成長していける基盤をつくるのが一番大事」といった趣旨の発言をした。資源価格の下落についても、現地の経営陣が手を打っていることを確認済みだと説明していた。

 長門正貢・現社長は、損失計上を発表した会見で「株式上場前に成長ストーリーを示したいという意図もあったのでは」と述べた。買収決定後に入社し、昨春に西室氏の後任に就いた長門氏は、買収・統合にあたっては、「安い値段で買い、買った後は現地に任せきりにしないことが大事」とも指摘した。

 前経営陣になぜそれが出来なかったのか、意思決定の過程を詳しく検証し、国民に報告する必要がある。監督官庁である総務省の責任も重い。

 今後の展開も課題だ。そもそも郵便事業は先細りが懸念され、その将来像をどう描けるかが「郵政民営化」の大きな懸案になってきたからだ。

 現経営陣は引き続きトール社を拠点に国際物流事業を強化し、必要な買収・統合も続けるという。確かに成長が期待できる分野であり、国内事業との連携も想定できる。民間企業に移っていく以上、一定のリスクをとることも避けられない。

 だが、国際物流のノウハウや体制を得るための「時間を買った」はずのトール社買収で、逆に立て直しに時間をとられるのは、手痛いつまずきだ。

 難局を乗り越え、地に足の着いた成長の姿を示せるか。収入を震災復興財源にあてる政府保有株の今後の売却や、郵政民営化全体の成否にも影響するだけに、経営に緊張感が必要だ。