禁煙:……今日で3日目ね。

    司書:今週中は降ったりやんだりが続くそうです。

    禁煙:天気の話じゃなくて。……あなたが気付いてないはずがないんだけど。

    司書:何をでしょう?

    禁煙:窓際の端の席のあの子。4年生くらいかしら。毎日、朝一番に来て夕方までいるわね。

    司書:ここは公共の図書館です。誰であれ、知りたいことがあり、読みたいものがあるのなら、好きなだけ過ごすことができる場所です。

    禁煙:何か読んでいるようには見えないわ。

    司書:では、知りたいことがおありなのでしょう。

    禁煙:……本の中に答えは見つかるかしら?

    司書:それは分かりません。ですが、一冊の書物にできなくても、それは不可能ということではありません。

    禁煙:……学校へ連絡したりはしないの? 毎日が開校記念日ってこともないでしょう?

    司書:……実は学校からは問い合わせがありました。

    禁煙:かくまったの?

    司書:ここは図書館です。声をかけるとしても、それは彼が本を閉じて、問いを追うために助けを求めた後です。

    禁煙:必要にではなく、求める声に応えるのだと?

    司書:無力であることは認めます。誰も誰かに何かを無理やり読ませることはできないように、手に取る前にページを顔の前に持ってくるおせっかいな書物はありません。だからこそ書物は、つながりに苦しむ人には離れて独りになることができるのだということを、孤独に苦しむ人には今此処に誰もいなくともページの向こうに同じ書物を読む誰かが存在することを、教えてくれます。

    禁煙:つまり、何もしないのね。

    司書:本人の意志ではなく、図書館にいることを強いられた人であれば、違った対応をすることもありますが。……残念ながらそうしたこともあるのです。

    禁煙:お喋りが過ぎたみたい。

    司書:いいえ。少なくとも、もう一人、彼を気にかけている人がいることを知れました。

    禁煙:……彼、顔を上げたわ。こっちに来るみたい。

    司書:ええ。……なにかお探しですか?

    小学生:ここは知りたいことを教えてくれるところですか?

    司書:残念ながら。しかしお手伝いはできると思います。

    小学生:どんなことでも?

    司書:知りたいと思うことなら。

    小学生:……逆上がりができるようになる魔法はありませんか?

    司書:心当たりがあります。どうぞ、こちらへ。書棚に見えるものだけで足りなければ書庫を開けましょう。


     
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