「ちょっと存在する人は、やっぱり雇えませんねぇ」
「そうですか……」
またこれだ。
「やはり存在するひとはコストもかかりますしねぇ」
「なるほど……」
存在者差別禁止法が施行されてから五年が経つというのに、いまだ企業はそれを守ろうとはしていない。それで存在してしまった僕はまだ職にありつけていない。依然として存在しないもののほうが有利だ。面接室から出るとオフィスは存在しない事務員たちで溢れかえっている。そりゃ存在しないものは保険もいらなければ、スペースもそんなに取らない。遅刻もしない。でもだからなんだって言うんだ。僕だって生きてるんだぞ。
「おい、存在しないやつたちめ!!」
僕はついに声を張り上げてしまう。
「オレだって生きてるんだぞ!! いまに見てろよ!! お前たちを、オレが血祭りに上げてやるからな!!」
「ちょっといいですか」
振り返ると制服が宙に浮いている。存在しない警備員だ。
「はい、騒がないでくださいね」
「暴れなければ私達も暴力は振るいません」
「今回は特別です。通報もしません」
僕は黙ってビルの入り口から出ていく。地下鉄には席がちらほら空いているが、存在しないものたちが座っているかもしれない。そんなとこに座ったら大変だ。僕は車両を移り、存在者専用車へと急ぐ。
存在者連合は急速に力をつけているはずだ。国会でも三分の一は存在者の党が占めている。残りは無だ。国会中継を見ればいい。あいつらは存在しない。なのにどうして僕たちはこう虐げられてるんだ! ぎゅうぎゅう詰めになっている存在者専用車に体を押し込む。額から汗が垂れる。あまりの混雑に足が浮き始める。存在しないやつはいいな、なんせ満員電車にならないからな。そりゃそうだ、あいつらは空間を占めない。ささやき声が聞こえてくる。おいやめろ。それが存在しないやつらに聞こえたら大変だぞ。あいつらはどこにいるかもわからねぇんだ。うわっ! 誰かが駅につくとグイと引っ張られ外に投げ出される。なんだあテメェ……ああ、すみません。存在しないやつが聞いていたみたいだ。おそらく執行猶予も付かないだろう。臭い飯を食うんだ。僕たちは存在するがためにご飯さえ食べなければならない。
存在しないやつらにどう抵抗すればいい? あいつらを殴ることはできない。どこにいるのかさえわからない。僕たちは常に存在しないやつらに怯え、ただ震えて生きるしかないのか? あいつらは総数が分からない。だから選挙で勝ち目はない。あいつらに核攻撃は効かない。戦争なんてムリだ。僕たちは永遠にあいつらにヘコヘコして生きるしかないんだ。僕は天を拝む。しかし、神は存在するものなのか?