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まるでぼくらはエイリアン

 

GW二日目。私は見知らぬ街を歩いていた。

その街は工業地帯にほど近い住宅街といった雰囲気の街で、プランドール奈落、という6階建てマンションの向かいに、定食屋アヘロンタス、牛頭接骨院、やすい!うまい!中華料理の店「最後の晩餐」、焼肉酒場「大叫喚」などといった店が軒を並べる通りの一角に私はいた。

人通りは皆無で、無機質な鉄筋コンクリート造の建物ばかりで、晴天の昼間だというのにこの街だけ薄暗い。

なぜGWにわざわざそんな陰気な街に出向いたのか。それは、私がこの街でぶらり途中下車したからである。私は以前から、目的地を決めずに適当に降りたい駅で降りて見知らぬ街をぶらぶらするような気ままな電車旅に憧れていた。

本当は一つ前の駅で下車しようと思っていたが、その駅では結構多くの人が下車したので、こんな多くの人が降りる駅で降りてたまるか、私は誰も降りないような穴場の駅で降りるのだ、人の行く裏に道あり花の山だ。ということで下車したのがこの陰気な街なのである。

しかし歩いても歩いても似たような鉄筋コンクリート造の無機質な一軒家や集合住宅が軒を連ねるばかりで何の風情もない。完全に降りる駅を誤った。ぶらり初心者のくせにツウぶって穴場なんか狙うからだ。しかしこんな街にも、なにかひとつくらい面白いものもあるだろう、と信じて歩いていた。すると正面に、遠くの方からこちらに近づいてくる怪しい人影があった。

その人影はだんだん近付いてきた。それはアメフトのユニフォームを着てダッチワイフを脇に抱えて全力疾走するドレッドヘアーの巨漢だった。身長は2メートル近くあるし、明らかに狂っている。私は身の危険を感じたが、ここで逃げて引き返すのも嫌なので、なるべく目を合わせないようにしつつ、その巨漢を警戒しながら歩いた。巨漢はどんどん接近してきて、私の目前で立ち止まった。

巨漢は鼻息荒く、興奮した様子で、「僕のペットのアビちゃんが逃げてん!あ、アビちゃんって、ミシシッピアカミミガメのことやで!この辺でアビちゃん見いひんかった?」と尋ねてきた。

私は身に覚えが無かったので、「知りません、見てないです」と言うと、巨漢は、「いや絶対この辺におるねん!ほんまにほんまに!ていうかお前食べたやろ?」と全く荒唐無稽な嫌疑をかけてきた。

私は、こいつはヤバい奴だと思った。まともに取り合ってはいけない、一刻も早くこいつから離れよう、と思い、「食べてないし、そもそもミシシッピアカミミガメなんて見てない、急いでるんで、さようなら」と言って立ち去ろうとしたが、巨漢はダッチワイフを抱えてない方の右手を横に上げて通せんぼをしてくる。そして巨漢は、「お前!食べたんやろ!金払ってもらうぞ!3万8千円出せえ!金払うまで絶対にここを通さんからなあ!」と凄んできた。

これは新手のカツアゲだなと思った。私には、もしカツアゲされて窮地に陥ったら使おうと思っていた究極の秘奥義がある。いよいよそれを使う時が来た。

私は加山雄三谷村新司の「サライ」を歌いながらその場で両手を広げて爪先を軸にして独楽のように回転した。「さくら~ふぶ~きの~」と歌いながらどんどん回転速度を速めると、そこに上昇気流が発生し、私は回転しながら空中に浮遊した。そのままさらに回転速度を速め、私はどんどん天に向かって上昇していった。そのままグングン上昇し、大気圏を突き抜け、宇宙空間に突入し、私の身体は膨張し、爆発した。

私は星になった。

今宵、蟹座と小犬座の間に、ひときわ輝く星が現れるでしょう。それが私です。