これまで、平行線をたどり噛み合うことのなかった議論が、このアンケート調査結果によって少しだけ前進するかもしれない。旭日旗については、これまでJリーグでは持ち込みの制限がほとんど行われてこなかった。しかし、中国、韓国との国際試合においては、旭日旗は以前よりトラブルの火種となっていた。なぜトラブルが発生するのか、中国国民、韓国国民の考え方や試合主催者の考え方は、これまで、いくつも示されてきたが、旭日旗を持ち込む側の考え方が明らかになることは、ほとんどなかった。そこで、tasukeLサポーター研究所は、サッカースタジアムへの旭日旗の持ち込みについてのアンケート調査を実施した。
アジア・サッカー連盟(AFC)は2017年4月27日に、AFCチャンピオンズリーグ水原三星-川崎フロンターレで、川崎サポーター席に旭日旗が掲出されたことを受けて、川崎フロンターレが、差別的行為や政治的主張などを禁止する倫理規定に抵触したと発表した。AFCの倫理規定第58条は、サポーターによる違反行為にはクラブに2試合以上の無観客試合と罰金、当該サポーターに最低2年間の入場禁止を科すと規定している。一方、同日にJリーグの村井チェアマンは「前提として旭日旗は政治的、差別的なメッセージを含むものではないという認識がある。これは政府等もホームページで開示している内容を前提として置きながら、Jリーグとしても認識している」との見解を示し、「我々として留意しないといけないのは、個々の選手を鼓舞したりチームを激励したりするために応援している。スタジアムで楽しく安全に観戦できるということに持っていくことが非常に重要なこと」と記者会見で発言した。
調査方法:インターネット調査
調査対象:サポーター(インターネット上で募集し回答)201名(容認する・しないが50%に近づくように割付)
サッカースタジアムへ旭日旗を持ち込むことを支持もしくは容認する人 106名 52.7%
サッカースタジアムへ旭日旗を持ち込むことを支持もしくは容認しない人 95名 47.3%
調査機関:2017年4月26日〜27日
集計数字は全て%。
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旭日旗をサッカー場に持ち込むことを支持もしくは容認する理由は何ですか?
(複数回答)
回答者(青)サッカースタジアムへ旭日旗を持ち込むことを支持もしくは容認する人 106名
最も多かったのが「日本人として旭日旗を使用することは当然だから」。ついで「旭日旗は日本国旗だから」(ただし、実際には国旗ではない)。逆に「応援するクラブの外国籍選手を含む全選手の後押し(応援)になるから」を理由としている人は少数になっている。この結果から、旭日旗をサッカー場に持ち込むことは、選手を後押しする応援には直結していないことがわかる。また、「対戦相手を挑発することができるから」を理由としている人はごく少数しかおらず、トラブルを起こすことを好んでいるわけではないこともうかがえる。「その他に」は「禁止される理由がない」という自由回答が多く、「自由を制限されたくない」「外国から干渉されたくない」という「不当に迫害を受けて自由や権利を侵害されているような心理」から支持もしくは容認していることが考えられる。
村井チェアマンは「我々として留意しないといけないのは、個々の選手を鼓舞したりチームを激励したりするために応援している。」と発言しており、選手の応援と旭日旗が直結していない調査結果をJリーグがどのように考えるかは気になるところだ。
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旭日旗を軍旗もしくは旧日本軍の軍旗だと思いますか?
回答者(青)サッカースタジアムへ旭日旗を持ち込むことを支持もしくは容認する人 106名
回答者(赤)サッカースタジアムへ旭日旗を持ち込むことを支持もしくは容認しない人 95名
支持もしくは容認する人の44.3%が「軍旗でも旧日本軍の軍旗でもないと思う」と回答している。この回答の多くは、ネット上で多数の人が発言している「旭日旗は自衛隊が使用しており禁止される理由がない」という考え方に直結している。
ただし、この考え方については「自衛艦旗」を国際的に見たときに(憲法論争とは別に)広義の「軍旗」とみなされるかどうかで判断が分かれてくる。なぜなら、例えばドイツのスタジアムの多くは、ナチスドイツのハーケンクロイツ(鍵十字)とは無関係に戦後のドイツ軍が使用している鉄十字の使用を禁止しているからだ。
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サッカースタジアムに限らず旭日旗の使用を中国、韓国等が問題視し始めたのはいつ頃だと思いますか?
回答者(青)サッカースタジアムへ旭日旗を持ち込むことを支持もしくは容認する人 106名
回答者(赤)サッカースタジアムへ旭日旗を持ち込むことを支持もしくは容認しない人 95名
支持もしくは容認をするかしないかで、認識が大きく異なる傾向があることがわかった。サッカースタジアムへ旭日旗を持ち込むことを支持もしくは容認する人の72.6%が「キ・ソンヨンの猿まね事件が起きた2011年以降」と回答している。支持もしくは容認しない人の2倍以上に当たる大きな数字だ。ネット上での多くの書き込みも併せてみると、支持もしくは容認する人の多くはキ・ソンヨンによってサッカー場で「不当に旭日旗が禁止されるようになってしまった」と考えていることがわかる。だから、「外国からの迫害に屈することなくサッカースタジアムへ旭日旗を持ち込むことを支持もしくは容認する」という考え方だ。
一方で、支持もしくは容認しない人の47.4%は「20世紀(戦後)から」旭日旗の使用を中国、韓国等が問題視していると回答している。実際にヴィッキー・チャオのファッション誌「時装」旭日旗事件(中国)が起きたのは2001年。他にも「韓国密陽市庁広場のデザインが日本の自衛隊旗を連想させるとして市民らが撤去要求を行った事件」が発生したのは2006年。本調査の主催者の石井和裕は1997年のFIFAワールドカップフランス大会最終予選を蚕室オリンピックスタジアムで観戦した際に、自分よりも前の座席で旭日旗が振られたのを見て「トラブルになるのは嫌だから近づかないようにしよう」と考えた記憶があり、本当は「20世紀(戦後)から」旭日旗が問題視されていたことは、間違えない。ただし、そのことが忘れられている、記録が広く閲覧できない、2010年以降のSNS普及により情報拡散が進んだことで2010年以降の情報量が膨大となっているということもあり、「キ・ソンヨンの猿まね事件が起きた2011年以降」に旭日旗の使用を中国、韓国等が問題視しはじめたという誤解が広がるのも無理がないと考えられる。
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最後に回答者のプロファイルデータのうち年齢を紹介する。
年齢
回答者(青)サッカースタジアムへ旭日旗を持ち込むことを支持もしくは容認する人 106名
回答者(赤)サッカースタジアムへ旭日旗を持ち込むことを支持もしくは容認しない人 95名
支持もしくは容認する人の方が年齢層が若くなっている。
ここまでの調査結果から、各種議論が平行線をたどり噛み合うことのなかった理由として、世代間の経験や記憶の差によって、サッカースタジアムに限らず旭日旗の使用を中国、韓国等が問題視し始めた時期やきっかけの認識が異なっていることが考えられる。すでに「キ・ソンヨンの猿まね事件が起きた2011年」からは6年を経ており、この世代間の認識の格差を埋めることは困難。簡単に善悪や正誤の白黒をつけられるものではない。すでに埋め難い認識の格差が存在する前提で、スタジアム内での問題解決のためのルール整備が必要なのではないだろうか。