2017年4月30日05時00分
商工組合中央金庫(商工中金)で、国の予算を使った「危機対応融資」をめぐる大規模な不正がわかった。政府系金融機関としての存在意義が問われる事態だ。組織の体質や経営体制を根底から見直す必要がある。
社外の弁護士による第三者委員会の調査報告によれば、判明分だけでも35の支店で不正があり、99人が関わっていた。
危機対応融資は、景気変動や災害で経営が悪化した企業に、国からの利子補給付きで資金を貸し出す制度だ。売り上げ減や雇用の維持を示す書類を提出してもらうが、それを要件を満たすように改ざんしたり、支店側で自作したりする不正がはびこっていた。融資額が支店ごとに割り当てられ、ノルマ化していたことが背景にあった。
深刻なのは本部の対応だ。2014年に内部監査で一部の実態を把握したが、是正を担うべき「コンプライアンス統括室」などが、不正をもみ消すような行為をしていた。問題がなかったと装う証言を誘導したり、書類を差し替えたりしていた。悪質と言わざるを得ない。
商工中金は中小企業のための金融機関で、かつては政府が約8割を出資していた。06年には15年までの完全民営化が決まったが、世界的な経済危機で3年半先送りされ、さらに一昨年の法改正で、当分、政府が必要な株式を保有することになった。
政府関与を残す根拠の一つが、危機対応での役割だ。直近で、政府の危機対応融資残高の過半は商工中金が担う。逆に、商工中金の融資残高の3分の1が危機対応融資だ。事業枠の確保を政府側に要望していた時期もあったという。
そうした重要な役割を舞台に起きた今回の不正は、政策を担わせる資格を疑わせる。
経営が不安定な企業に融資すべきカネを健全な企業に貸したので、焦げ付きには至っていない。だが、本来民間では出来ない融資への公的補助を、自らの業績拡大に流用しており、民業圧迫の色彩が濃い。
「半官半民」というあいまいな経営体制の帰結ともいえ、政策遂行と営利追求をどう切り分けるべきか、商工中金のあり方を政府も再検討すべきだ。
今回の不正、特に本部の隠蔽(いんぺい)について、調査報告書は、特定の人物の指示ではなく、組織内の「場の空気」によるものと結論づけた。「特殊・例外的な事案ではなく日本型不祥事の典型」とも指摘している。
内輪のなれ合いが組織の目的をゆがめていないか。他山の石として学ぶべきことは多い。
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