スー・チー氏に少数民族虐殺の責任はあるか
国際的批判は軍部の責任を覆い隠す
ミャンマーのラカイン州で起きたイスラム系少数民族ロヒンギャへの弾圧は国際的な非難を呼び、国連調査を求める声が高まっている。これを受け、事実上の政府トップ、アウン・サン・スー・チー国家顧問への批判が強まっているが、軍部の責任が覆い隠されかねない。
ミャンマー政治は不安定な移行期にあり、軍部が国政を握っている。スー・チー氏は手足を縛られているも同然だ。同氏が矢面に立たされている間、軍部は傍観を決め込み、事態の悪化を招いてきた。
スー・チー氏を責めれば軍部の勢いが増す
スー・チー氏を批判する者は、同氏の政治的ダメージが大きくなりすぎれば、軍部が勢いを取り戻す可能性があることを認識すべきだ。2008年の新憲法は軍部主導で作られたもので、治安維持に必要と見なせば、軍部はいつでもクーデターを仕掛けることができる。国際社会はクーデターを人質に取られるべきではないが、そうした可能性があることは頭に入れる必要がある。
スー・チー氏の国民民主連盟(NLD)は2015年の総選挙で圧勝したが、同氏の権力基盤は十分ではない。大統領就任を拒否され、「国家顧問」の役職を強要された事実が、同国憲法の不備を物語っている。国家顧問として、スー・チー氏は他の国家元首と同等の責任を負いながら、その権力は足元にも及ばない。一方、国軍トップのミン・アウン・フライン総司令官の責任は軽く、権力はスー・チー氏をはるかに上回る。
国際社会はスー・チー氏一人に非難を浴びせるのではなく、軍部とラカイン州政府が和平に向けて行動するよう圧力をかけるべきだ。スー・チー政権は、コフィ・アナン元国連事務総長を委員長に招いたラカイン問題諮問委員会の勧告を実施すると確約している。今度は軍部とラカイン州政府が行動に移す番だ。