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2017年4月29日 (土)

何歳になってプログラミングにチャンレンジできる!  #シニアプログラミング

最新号のフリック!では、小学生、中高生、大学生が『プログラミング教育』を受けている様子をお伝えしている。



だけど僕(48歳です)にも「自分はもういいや」という気分がある。いや、あった。

しかし、もう、そんなことは言ってられない。

82歳にしてSwiftでアプリ開発!?

そんな気分にさせられるイベントを取材している。

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なにしろ、衝撃の登壇者の平均年齢77歳。48歳なんて、まだ四半世紀以上若造である。

こんなことでは、『若いのにプログラミングもできないの?』と言わる時代がやってくるかもしれない。子供たちがプログラミングに興じるのを拝見するのとは、また違った思いがする。

今日取材にうかがっているイベントは『シニア プログラミング ネットワーク#1』。登壇するのは、平均年齢77歳という高齢者の方々。

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プログラミングが必要だ、必要だ……って、よく言いますが、多くの人には「自分は、いまさらやらなくても……」っていう気分があると思う。しかし、70代、80代の人が、その年からチャレンジして、プログラミングを習得されているとなると、もはや言い訳はできない気分になる(笑)

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ただ、高齢者の人がパソコン教室みたいなところで、用意された教材に従って作ってるんだろう……と思ったら、全然そんなことはなかった。いや甘かった。想定外。すごく面白かった。

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まず、最初に登壇された、コンピュータおばあちゃん、マーチャンこと若宮正子さん。82歳。ご一緒に壇上にいらっしゃるのは、若宮さんの師匠にあたる小泉勝志郎さん。震災の支援活動がきっかけで知り合いになられたそうなのだが、小泉さんが仙台、若宮さんが横浜と遠隔地なのに、メッセンジャーやSkypeを使って、プログラミングを教わったのだそうだ。

なんと、XcodeでSwiftを使ってアプリを作ってらっしゃる(汗)

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何がすごいって、コンセプトがしっかりしている。

『高齢者の方が、若者に勝てるゲームアプリを作る』

高齢者の方がスマホなどに親しめない理由のひとつに、ゲームをやっても若い人に全然かなわないというのがあるのだそうだ。たとえば、パズルゲームのドラッグ&ドロップひとつとっても、手が震えて上手くできないのだそうだ。

だから、高齢者の方が、高齢者の方の知識を使って、勝てるゲームを作ろうとしたのだそうだ。それが、このhinadanという、雛飾りを並べるアプリ。どの雛飾りをどこに並べればいいかという高齢者ならではの知識を活かして勝負けが決まって、ドラッグ&ドロップを使わずに、タップで操作できるようになっている。

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高齢者の方が作ったアプリとして話題になり、なんと、2万9500ダウンロードで、75万ビューになっているらしい。

海外のニュースにも取り上げられNAVERのカンファレンススピーカーとして呼ばれて話をしたり、TED Tokyo 2014に登壇して話たりとものすごいことに。

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お話を聞いていると、60歳まで銀行に勤務されていて論理的思考になれていらっしゃったり、海外旅行が趣味で英語に堪能だったり、60歳で定年退職後パソコンクラブに入って、もう20年以上パソコンを使いこなしていらっしゃる……と82歳とはいえ、途方もなくパソコンを使いこなしてらっしゃる。エクセルアーティストとしても有名なのだそうだ。

XcodeとSwiftでアプリを作ると、アップルへ申請や審査のやりとりなどは、英語でやらなければならなかったりするのだが、そういう部分ももとより英語が堪能だったりする部分が役に立ったりしている感じだった。


高齢者による高齢者のためのアプリ開発

次に壇上に上られたのは、鈴木富司さん。ダンディな雰囲気の82歳だ。

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富司さんで、ハンドルが『トミ爺』ていうあたりがかなり飛ばしている。サイトのURLもhttp://tomzyapp.com/だ。こんなイカしたURLはあまり見た事がない。

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そもそも、みなさん普通に個人サイトを持ってらっしゃるのにも驚く。

トミ爺……じゃなかった、鈴木さんが作ってらっしゃるのは、高齢者のためのスマホ解説アプリ。これまた、コンセプトがハッキリしている。

身の周りにスマホを使いこなせない……そればかりか興味はあるのに『私なんかには使いこなせないに違いない』と、言いきって触れようとしない人が多いというのだ。

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そこで、鈴木さんが考えたのが、『ひとりでも多くの年配者がiPhoneを使えるようにしよう』ということだ。身近な問題だからコンセプトがはっきりしている。しかも、どういうところにつまずくか、何で困るかがよく分かっている。

子供に聞くと、いちいち怒られる。面倒がられる。一度教えてもらった操作を忘れてまた聞くのも申し訳ない……それで『スマホなんて使えなくても』となってしまうのだそうだ。キーボードの操作ができないというコンプレックスも大きいらしい。

しかし、そうやってそっぽを向いている人でも、Siriの音声入力で検索できる様子などを見せてあげると、急に『できるかも?』と目がらんらんと輝きだすのだそうだ。

指が震えてドラッグ&ドロップができない、ダブルクリックをしようとしても2回のクリックの間が空き過ぎてダブルクリックにならない、そもそも皮膚が乾燥していてタッチパネルが反応しない……などの問題にも事細かに答えてあるのだそうだ。

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↑これが高齢者の方向け『スマホの勉強』の画面。最初に初期設定を本人にさせるのは、大変で、そこでつまずいてしまうことが多いのだそうで、そういう部分は『お孫さんなどに設定を頼みましょう』とあっさりと、諦めるのもすばらしい。そこは頼ってしまった方がいいことなのだそうだ。

鈴木さんは群馬の機屋の6男坊。14人兄弟だったのだそうだ。そんな中から商社に入り、自動車の海外事業に没頭。日本のクルマを世界に売ってJapan as No.1を築きあげた世代の人だ。なのに、子会社への道を蹴って米国の動物園設計会社へ、さらに74歳でアプリ開発学校へ……となんども何度も、0からスタートし思いを実現するために頑張ってきたのだそうだ。

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ちなみに、自動車海外事業の下りは本にまとまっているのだそうで、このあたりはお話を聞くと、長い原稿になりそうなので、今日は先へ話を進めよう。

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ちなみに、世界各地で自動車を売ってきたということで、鈴木さんも英語は堪能そう(ご本人は得意ではないとおっしゃっていたが)。うーむ、プログラミングの前に英語か……(汗)

やはり、アプリの申請で苦労されているとのことで、『アップルの厳しい審査のおかげで鍛えられた』と遠回しに、審査の厳しさに苦言を呈されていた。



またぎ×IoTのインパクト。さくらのIoTにもビックリ

今日は強烈な登壇者の方が多いなと思っていたら、最後が一番強烈だった。ここで満腹と思って、油断していた自分を殴ってやりたいぐらいだ。

なにしろ、紹介文が
『マタギとしいて有害鳥獣駆除も手がける中、Ichigo Jamを使ったセンサー付き檻を自作し、年間90頭ものイノシシを駆る猛者!』
である。

渋谷に取材に来て、イノシシを狩るマタギの話を聞くとは思わなかった。しかも、武器はIchigo JamでIoTなのである。

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ちなみに、お3方とも壇上に上って、KeynoteやPowerPointを普通に使いこなしてプレゼンをされていた。40代や50代で、ITが苦手とか言ってる人は猛省した方がいい。

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谷川さんの住む福井県の勝山市では、イノシシの害がひどいのだという。

私の聞き及ぶところによると、近年獣害は増加の一途を辿っており、地方では駆除に苦労しているそうだ。私が毎年泳ぎに行く福井県の民宿でも、素敵な日本庭園がイノシシに掘り返されてひどいことになっていた。野菜は食われるし、田んぼを荒らされると採れるお米にも獣臭がついてしまい、出荷できなくなるのだそうだ。

そんなワケで罠をしかけたりするのだが、イノシシも利口で成獣はつかまらない。しかけをかい潜ってしまうのだそうだ。

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ワンボードマイコンIchigo Jamを使う子供プログラミング教室PCNをの活動を「面白そうなものだなぁ」と見ていた谷川さんは、そのIchigo Jamをイノシシの罠に使とを思いつく。マタギIoT誕生の瞬間である。

超音波センサーは、高周波も聞き取れるといわれる獣相手には使えない。そこで赤外線センサーを使うことにした。シャープが販売する450円のセンサーが一番都合がよかったのだそうだ。

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システムとしてはこんな感じ。

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イノシシをエサでおびき寄せる。高さセンサーがイノシシを感知する。ネズミや他の小動物もエサを食べに来るので、そこは高さセンサーで感知し、10センチ以下のものはスルーする。木の葉などに反応して、いちいち罠が閉じてしまっては、山に入ってそれを解除する手間が発生するので、3度チェックして、3回とも高さのあるものの侵入を感知したら、モータを回して支えを抜き、罠を閉じる。

市内の山に5基の罠を設置し、テスト運用したところ、なんとそのうちの3基で11匹の害獣を捕まえるというかくかくたる戦果を挙げる。

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実際に運用してみたところ、市内の他に地区に較べて、谷川さんの罠をしかけた地区は圧倒的に好成績を挙げたのだという。

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害獣に悩む地方では、この情報はニュースとなり、非常に多くのテレビや新聞でレポートされたのだという。

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ただ、この罠、当然山の中に設置する。50カ所以上に設置すると、毎日捕まっているかどうか確認するたけでも大変な手間になる。

そこで谷川さんが現在開発中なのは、罠にかかったら、スマホに通知が来るシステムの構築だ。

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Ichigo JamにさくらのIoTを組み合わせ、さらにMicrosoft Azureを活用し、イノシシがかかったらスマホに通知が来るようにするのだという。もう、開発はあるていど進んでいる。

さらに将来的には赤外線カメラと連動し、捕獲の通知とともに、捕獲されたイノシシの状態を撮影してクラウドに送信し、猟友会や役場の捕獲情報などのシステムと連動するようにしたいという。

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最後にお3方の対談もあり、非常に充実したイベントだった。

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対談も非常に面白かった。
「ヒマはいっぱいありますから、先はないけど」
とか
「自分の親が徘徊するようになったら、プログラミングで解決してあげればいい。人によって徘徊のパターンは違うから、自分の親のためにだと真剣になれるでしょ?」
とか、切れ味するどい自虐ギャグにはたじたじだった。


最後にちょっと今日学んだことを箇条書きにしておこう。

●何かを学ぶのに遅過ぎるということはない
●ニーズに基づいたしっかりしたコンセプトが何より大事
●プログラミングはやっぱり世界を変えるかもしれない
●高齢者の方の豊富な人生経験は、やっぱり面白い
●こんな高齢者の方が増えれば、高齢者社会も悪くない

ということで、とりあえず、私もSwift Playgroundsに真剣に取り組んで、先々、iPhoneアプリのひとつも作れるようになりたいと思った。

(村上タクタ)

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  • 村上タクタ

    村上琢太。ガジェット好きの雑誌屋。'92年入社以来趣味誌ひと筋。バイク雑誌RIDERS CLUBから、現在はコーラルフィッシュRCエアワールドの編集長も務める。機能を突き詰めてカッコよくなったガジェットと、アイデアと楽しさに満ちたウェブサービスを紹介する本『フリック!』の編集活動に奮闘中。twitterアカウントは@flick_mag

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