社説 京都新聞トップへ

文化と観光  経済効果ばかり見ないで

 「学芸員には観光マインドが全くない。一掃しなければ駄目だ」。とんでもない山本幸三地方創生担当相の暴言だが、ここでは「文化」と「観光」について考えてみたい。
 おそらく、山本氏は文化を観光資源として活用すべきとの思いが強かったのだろう。
 政府が昨年決めた「観光ビジョン実現プログラム」は文化財の保存から活用へ、財政支援の優先を転換している。
 文化をもっと観光に利用して、これまで以上の経済効果を期待する。昨今の流れといえよう。地域の活性化に寄与するのは良いことだが、一方で心配なところもある。
 観光客が増え、文化資産や地域の文化環境が損なわれる恐れは、繰り返し指摘されている。世界遺産の岐阜県・白川郷では交通渋滞などで住民の生活に影響が出ている。京都の観光地でも同様の悩みを抱える。
 観光による、いわば「文化の商品化」で、文化の本質的な価値が失われかねない。
 文化保護と観光開発は往々にして相反する。そうした衝突を乗り越える理念が、「持続可能な文化観光」だ。世界遺産の諮問機関である国際記念物遺跡会議(イコモス)が打ち出している。
 文化観光は、体験する価値を保証する一方で、次世代のために持続可能な方法で文化資産を管理しなければいけない、という考えだ。
 保存と観光に地域が関与する。地域にメリットがある。観光振興は文化資産の保護の強化につながるべき。イコモスの「国際文化観光憲章1999」にある原則だ。
 文化観光の面から、博物館や美術館などにも、新たな役割が期待されている。
 文化財や芸術作品などの保存、調査、展示だけでなく、観光客ら来場者の自己啓発、異文化体験への意欲を引き出し、それに応えることが求められているのだ。
 滋賀の文化施設の学芸員に聞くと、「観光マインド」がないというのは心外で、最近は多く人に楽しんでもらうことに労力を割いているという。「むしろ調査研究の時間が取れないくらい」と話す。
 学芸員は文化資産と人、地域を結ぶキーパーソンとも言えよう。文化資産の価値を地域に理解してもらい、誇りに感じてもらう。そのためのワークショップや作品解説なども企画されるようになった。
 しかし、多くの文化施設で学芸員の人数は限られている。作品の搬送や大工仕事までこなすこともあり、すべての要望に応えられないジレンマがあるという。
 文部科学省によると、2011年の博物館などの数は5747館に対し学芸員は7293人にとどまる。文化予算は一昨年度1038億円で予算全体の0・11%。韓国0・99%、フランス0・87%と比べてあまりに貧弱だ。
 政治に「文化マインド」が感じられないから、観光の文化利用が心配になる。持続可能な文化観光をどう実現するか。学芸員の声をもっと聞きたい。

[京都新聞 2017年04月23日掲載]

バックナンバー