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ヤマト運輸は宅急便の料金値上げをするらしい。
→ ヤマト、5〜20%値上げへ 27年ぶり、今秋にも:朝日新聞
→ ヤマト、値上げ幅は5〜20%か - ITmedia
→ ヤマト値上げ幅、最大20%程度で最終調整 個人含む全顧客 - 産経
→ 宅配便、27年ぶり値上げ=収益改善へ、他社追随も−時事
ヤマトは「赤字または低収益だから、値上げして、社員の待遇改善にあてる」と述べているようだが、これは嘘八百だ。
なぜか? 個人向けはもともと黒字だからだ。赤字なのは、Amazon みたいな大口客向けだけだ。特に Amazon には大幅割引を実施しており、これが収益性の悪化を招いている。その割引幅は、個人客に比べて半額以下という低価格だ。この件は、前にも述べた。
要するに、Amazon などの通販の宅配では、一般の宅配よりも、再配達の比率が高い。ならば、料金を上げるべきなのだが、実際には、料金は安い。( 300円以下かも。Amazonで設定された宅配料金は、基本が 350円だが、2000円以上の買物だと無料だ。実際にヤマトに払っている金も、相当安いはずだ。)
( → 宅配ロッカーの共同利用 )
300円以下かも、と上では述べたが、まさしくそうであることが判明した。
佐川は、「送料無料」を維持するため運賃の切り下げを迫るアマゾンとの取引を自ら打ち切ったのだ。12年に行われた運賃見直しの際、当時270円前後だった運賃を20円ほど上げようとの腹積もりで交渉に臨んだと、佐川の営業マンは語る。( → 出典 )
( → 宅配便と Amazon )
佐川が 270円で引き受けていたのを断って、そのあとヤマトが引き受けたということなのだから、ヤマトは 270円〜280円で引き受けたことになる。これがヤマトが Amazon に設定した料金だ。
一方、個人客向けの料金は、こんなに高価格だ。
→ 宅急便運賃一覧表 全国一覧 | ヤマト運輸
1番安くても 756円だ。おおざっぱに見れば、1000円前後だと言える。Amazon 向けの料金の3倍ぐらいという高価格だ。
以上からわかることは、こうだ。
「ヤマトの事業は、全体としては赤字体質だが、その主因は、全体の9割を占める法人客向けが激安であるせいだ。一方、全体の1割を占める個人客向けは、3倍ぐらいの高価格の料金を取るので、大幅黒字である」
とすれば、個人客向けは、値上げの必要なんかないのだ。ヤマトは、法人客向けの料金を上げる(割引率を下げる)だけで済むのに、ついでに個人客向けの料金まで上げようとする。こういうのを、どさくさまぎれという。不当である。
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ちなみに、Amazonみたいな不当な割引を引き受けていない宅配会社は、もともと黒字である。本日記事で報道されていた。
《 日本郵政、純損失400億円 民営化後初の赤字 》
日本郵政は25日、2017年3月期決算で400億円の純損失を計上する見通しになったと発表した。買収した豪州子会社の業績が低迷したことで、子会社の資産価値を約4千億円切り下げる「減損処理」に踏み切るため。
日本郵政はこれまで17年3月期の純損益を3200億円の黒字と予想していたが、大幅に下方修正する。
( → 朝日新聞 2017-04-25 )
投資した子会社の損失で 4000億円の損が出たが、それでも総合では 400億円の赤字で済むのだから、差し引きして、3600億円の黒字があったことになる。これが日本郵政の営業損益である。
このうち、郵便・物流部門のみに限っても、黒字が出ているというデータが見つかる。(出典は省略。)
郵便事業の黒字で物流部門の赤字を埋めている、というような説もあるが、2016年度は黒字をめざす、という話もある。
日本郵便は3月30日、2016年度事業計画を総務大臣より認可を受けた。
収益力の強化として、ゆうパック事業について、戦略的な展開を図りながら、収支改善に取り組み、2016年度における単年度黒字化を目指す。
( → 日本郵便/ゆうパック事業、2016年度に単年度黒字化を目指す | LNEWS )
ゆうパックが黒字スレスレなら、5%ぐらいの料金値上げが妥当かもしれない。
ただし、ゆうパックはもともと宅急便よりも料金が安い。最安値は 690円だ。1割弱の差がある。
→ ゆうパック料金表
「安かろう、悪かろう」というのが、ゆうパックの評価だ。
したがって、ゆうパックについては、7%ぐらいの値上げがあってもいい。それでもまだ、ヤマトよりも 2〜3%も安い。この価格でなら、十分に黒字体質になれるだろう。(シェアは失うかもしれないが。)
ヤマトの方は、すでに高い料金を取っているのだから、個人客向けは黒字であるはずだ。値上げする必要はさらさらないはずだ。
ヤマトの値上げはあくまで不当である。
とはいえ、料金値上げは、市場経済では会社の自由だ。それを制限することはできない。だから、「やりたかれば勝手にやってください」と言うだけでいい。
一方、日本郵政については、追随値上げを許すべきではない。そんなことをしたら、独禁法違反で、摘発するべきだ。あらかじめ、公取委は警告しておくべきだろう。
日本郵政が取るべきことは、次のことだ。
「ヤマトが 5〜20%の値上げをしたあとで、日本郵政は値上げをしないでいる。または、3%ぐらいの値上げに留めておく。そのことで、ヤマトから個人客をガッポリ奪う」
つまり、これ以後は、次のようになる。
・ ヤマトは、個人客を大幅に失い、法人向けだけを低料金で引き受ける。
・ 日本郵政は、ヤマトから流出した個人客を大幅に獲得する。
これによって、高収益の個人客は、ヤマトから日本郵政に大幅に流出する。
日本郵政は、高収益の個人客をもらって、大儲けになる。
ヤマトは、低収益の法人客向けの事業に特化するので、低収益になる。(佐川と同様だ。)
これが、本来あるべき姿だ。だから、ヤマトが値上げするのであれば、日本郵政の追随値上げを許してはならない。それを公取委はきちんと監視するべきだ。
そもそも、ヤマトは Amazon 向けの超低料金を引き上げるべきだった。なのに、黒字の個人客向け料金を引き上げるのは、不当である。どうしてもやるのなら、「自分で自分の首を絞めることだ」と理解するべきだろう。
といっても、ヤマトの経営陣は馬鹿ばかりだから、まともに料金設定もできない。以前は過剰な低料金を Amazon向けに提供したと思ったら、今度は過剰な高料金を個人客向けに設定する。頭がイカレているとしか思えない。こういうイカレた企業は、さっさと倒産するべきなので、そういう方向に公取委は導くべきだ。
また、その真実を、マスコミなどは報道するべきだ。
少なくとも、本項で示した原理を理解しておくべきだ。
【 追記 】
本文中に述べたように、ヤマトの価格設定は、次の通りだ。
・ 個人客向け …… 1000円前後
・ Amazon向け …… 270〜280円
一方、Amazon 以外の法人向けは、500円台後半だという報道があった。
《 法人向け焦点に ヤマト、個人向け最大200円程度値上げ 》
宅配便最大手のヤマト運輸が予定する基本運賃の値上げが、最大で 200円程度になる見通しになった。
人手不足による人件費増加などを背景に、数年前から主要法人客との値上げ交渉に力を入れ、14年度には荷物1個あたりの収入は前年度より約4%高い 595円に上昇。だが、ネット通販の荷物が増えた影響で再び下がり、16年度は 556円の見通しだ。
( → :朝日新聞 2017-04-26 )
一方で、コメント欄で記したように、ヤマトは法人向けの契約の打ち切りを通告している。全社ではなく、「採算割れ法人対象」とのことだから、おおむね 500円以下の会社が対象なのだろう。
[ 余談 ]
300円以下の Amazon は契約打ち切りにならないのに、500円前後の会社が契約打ちきりになるのは「理不尽だ」と思えるかもしれない。しかし、これはある程度、やむを得ないようだ。
(1) 記事には「契約期間の満了をもって取引を終える方針だ」とのことなので、契約が残っている会社は対象とならない。Amazonも、多分そうだ。契約が残っているなら、仕方ない。
(2) 契約更改と同時に契約打ち切り、という方針を(見せしめのように)示せば、Amazon との交渉で優位に立てる。「おたくの契約も打ち切りになります」というふうに暗示することで、次回の交渉で値上げを飲ませることができる。
(3) 今回、打ち切られた会社は、佐川や日本郵便と契約することができるから、別に何も問題はない。「料金値上げは困る」と思うかもしれないが、ヤマトだって値上げするんだから、どっちみち、同じようなものだ。
(4) そもそも、ヤマトはすでに荷物量が多すぎて、パンク状態なのだから、どっちみち、一部の荷物を他社に回すしかない。ならば、もともと採算割れとなっているような低価格の会社から打ち切りにするのは、当然のことだ。
というわけで、ある程度は、仕方ない。
とはいえ、本当は、Amazon向けの料金を引き上げるのが妥当だ。「契約が残っている」という理屈はわかるが、だとしても、「新契約を結び直す」という形で、値上げを要請するべきだった。新契約では、より長い期間で契約し直すことにすれば、料金値上げを飲ませることは可能だっただろう。また、Amazonがそれを受け入れなければ、契約打ち切りにすることで、Amazonを崩壊させることも可能だっただろう。(だから否応なく、値上げを飲ませることができた。)
なお、アマゾンが値上げを受け入れれば、問題はすべて解決するはずだ。なぜなら、宅配便の社員の給与を大幅に引き上げることで、新たな社員を大量に雇用できるからだ。
現状では、社員の給与はかなり低いので、慢性的な人手不足になっているようだ。ここで、給与を大幅に引き上げれば、人手不足の問題は一挙に解決するはずだ。
だから、それが正解だったはずだ。
( ※ 「Amazon向け料金の引き上げ → 社員の給与引き上げ → 社員の大幅増加 → 人手不足の解決」という過程。)
( ※ 元凶が Amazonだということについては、前にも述べた。低価格であることと、ヤマトの配達量の4割を Amazon が占めていることだ。→ 宅配便と Amazon )
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《 ヤマト、一部通販との契約打ち切りへ 採算割れ法人対象 》
宅配便最大手のヤマト運輸は、通信販売会社との配送契約の一部を打ち切る方針を固めた。 すでに一部の荷主に対し、契約打ち切りの通告を始めている。
運賃の割引幅が大きく、採算割れしている法人客が契約打ち切りの主な対象で、大手の通販会社も含まれる。契約期間の満了をもって取引を終える方針だ。ヤマトが昨年度に扱った荷物(約18億7千万個)の数%分の取引が対象になる可能性がある。9月末までに打ち切り交渉を終え、10月に始める中期経営計画に交渉の結果を反映させる考えだ。
ヤマトが扱う荷物はこの5年間で約4億4千万個増える一方、荷物1個あたりの収入は40円程度下がった。2013年度から本格的に取引を始めたネット通販大手アマゾンを中心に低運賃の荷物の割合が増えたためだ。
http://www.asahi.com/articles/ASK4V5QRVK4VULFA028.html
「交渉しようにも、とりつく島がない」。ヤマトから契約の打ち切りを打診されたある大手通販会社の社員は嘆く。
ヤマトの担当者は「会社として決めたことですから」の一点張り。荷物量の削減や値上げ幅などで交渉の余地を探ったが、今月に入って正式に打ち切りを通告された。
全国的な配送網を持たず、荷物の追跡サービスに対応していない中小の運送業者には頼めない。 「見通しが立たない。ヤマトも苦しいのは分かるが、せめて交渉のテーブルにだけでもつかせてもらえないか」。業者は悲鳴を上げている。
http://www.asahi.com/articles/ASK4V5R6FK4VULFA029.html
関連
http://www.asahi.com/articles/DA3S12911652.html
ますます、Amazonの奴隷になりますね。