桜の季節が終わり、新入社員が初任給を手にする季節になりました。新聞紙上などで、初任給の使い方を指南した記事が目立ちます。新入社員の初任給。私の持論は、全額返納すべしです。
新入社員は初任給を全額返上すべし
新入社員ひとりひとりに聞きたいのは、あなたは4月に実際にいくら稼ぎましたかということです。20万稼ぎました、という人は、初任給を全額もらえば良いと思います。
私自身の経験を言うと、4月に自分で稼いだと言えるお金は、約3万円でした。新卒で広告代理店に入り、ほとんどが研修や稼ぎにならない基本の仕事。広報のイベントで、セッティングなどを行なった5日間が、まともに稼いだと言える期間です(時給800円で計算)。
念のため、今年入社した新入社員に、4月に本当に稼いだと思える額はいくらか、聞いてみました。
- 大手金融機関(新入社員) … 自分の場合はまだ研修中で、4月は利益を出したイメージがわきません。自分で稼いだ額は、0円ではないかと思います。
- コンサルタンティング企業(新入社員)… 4月は研修を受ける側だったので、生み出した会社の利益は、0円になると思います。研修への投資は高額のようで、マイナスを叩き出している可能性もあります。
- 商社(新入社員)… 利益を出したと思える時間は、1日1時間くらい。自分で稼いだとしても、1万円以下ではないでしょうか?
いかがでしょうか? 一定の能力のある新入社員が、きちんと考えれば、稼いだ額は0円または数万円程度ということは、はっきりしてきます。
新入社員は初任給を返上すべし、というと、頭がおかしいのではないかと言い返されることがあります。朝から晩まで、毎日働いたのだから、人並みに18万なり20万なり、もらって当然という主張です。
なぜ、新入社員は初任給を返上すべきなのか
では、なぜ新入社員は初任給を返上すべしと言えるのでしょうか?
その根拠はこうです。新入社員あるいは、2年目程度の社員は、十分な利益を出せないことがあります。しかし、会社は18万円程度の給与と、健康保険・厚生年金の負担をしてくれます。
これは、会社に対して借りを作っていることになります。極端な話、65歳まで勤め上げるなら、わずか1年か2年の「赤字」をフォローしてもらうことと引き換えに、以降はどんなに努力し利益を出しても、規定の額以上は、会社の懐に入ることとなります。1年か2年食わせるから、以降43年間は俺に全て従え、という師匠にあなたは弟子入りしますか? 私は、しません。
百歩譲って、45年間従うとしたら、間違いなく45年間、自分を食わせてくれる会社にしか従いません。しかし、いまそんな会社がいくつあるでしょうか?
なぜ、新入社員は初任給を返上すべきなのか。1年か2年食わせてくれることと引き換えに、以降はほどほどの給与で人生の大半を縛る契約、これほどの不平等契約は、新入社員の方から願い下げしてほしいからです。
初任給をどのように返上し、どのように会社と渡り合うのか
初任給の返上する際には、こう宣言します。
私は、稼げないうちは給料は少なくて良い。その代わり、稼げるようになったら、しっかり計算して、利益は頂きます。必要がない日は満員の通勤電車で朝出てこないし、必要があれば平日でも休暇を取ります。このように、宣言します。
稼げるようになるかわからないので、年功序列的な賃金で良いと考えている新入社員よりも、会社側も評価を高めるかも知れません。
会社の戦略を見抜け
上のアンケートをお願いした、商社の新入社員が、どきりとすることを言っていました。会社員は、お金のためでなく、会社でのポジションや会社内での知名度を得るために働いているのかもしれません、と。
これは、会社の都合に、早くも染まってしまった発想かも知れません。会社は、経費以外に年間数千万稼ぐ社員が出現しても、給与で還元するつもりはありません。会社の裁量でいくらでも作ることができる役職や恣意的な評価によって、自尊心をコントロールし、有能な社員に仕事を続けさせようとします。会社内分業によって、各自がいくら稼いでいるのかをわからなくしてしまう仕掛けもあります。
確かに、稼げるようになるかわからない段階で、「稼いでない分はいりません。その代わり稼いだら、倍ください」と言い出すのは難しいものです。しかし、このあやふやな働き方のままで、日本企業が世界で勝負して行けるとは思えません。無駄な通勤ラッシュや、消化できない有給休暇もダメです。
もし、稼げなくなったら、体を壊してしまったら。それが心配で安定した月給を望む気持ちも理解はできます。しかしこれは、転職の円滑化や国の最低生活の保障が担当すべき部分であって、企業に委託すべき部分ではないでしょう。複雑すぎる分業と、年功序列的な賃金体系は、各自が食い扶持を稼ぐという、肝心な部分を曖昧にし、自立できないワーカーを生む部分があります。完全成果給制度を嫌う人が多いですが、万一の時の生活保障と混同している人が多い気がします。それは国の仕事であり、現に生活保護制度や失業保険は、ある程度整備されています。
全ての新入社員が、少なくとも年齢分の月給がもらえるだけの利益は出して行くという覚悟で、力をつけてほしいと思っています。また、多くの会社が、お金や人間らしい労働環境を供出せず、コストの安い役職や、紙切れに過ぎない評価によって、あなたの自尊心をコントロールし長時間労働に導こうとしていることも見抜いておいて損はないです。織田信長は、武将に与える土地がなくなったとき、茶道具にそれらしい価値を付けてばら撒いたと言います。日本企業も給与の原資がなくなったいま、それらしいものをばら撒いているのです。それにも関わらず、想定以上の給与が支払われる時、そこには狙いがあると考えても良いです。