暖かな風が カーテンを巻き上げる
きのうまでの風とは 全然違う
「春だぁ」
風に誘われて
散歩に出ようと思いつく
服を選ぶ
気に入りのストレッチパンツに Tシャツ2枚重ねて
デニムのショートジャケット
玄関を出たら いきなりの突風に 胸がときめく
「春の嵐だぁ」
私は 自然エネルギーが注入されやすいタイプ
雷とか 暴風雨とかのパワーに
うっとりとしてしまう
あの日も こんな春の日だった
散歩ついでに 電気屋さんへ寄って
門灯用の小さな電球を買おうと
千円札を1枚 ポケットに入れた
切れたままの電球が ずっと気になっていた
門灯用の特殊な電球は スーパーには置いてなくて
確か 電気店があったはず
車から見た覚えがあった
記憶を辿りながら 北方向へ歩いて行くと
次のバス停近くに 小さな電気店を見つけた
リードを 歩道の街路樹の柵にくくって
初めて入るその店の ガラス扉を押し開けた
切れた電球をポケットから出して見せると
店主の男性は商品棚のところを ガサガサと手で掻き分けて
微妙にサイズの違う商品たちの中から
同種の電球を 探し出してくれた
それを 奥さんらしい女性が受け取り レジを打つ
つり銭を手渡されながら
女性の親しげな問い掛けに 私は当惑してしまった
「ワンちゃん元気?」
「えっ?」っと 暫く固まってしまった
「ワンちゃんが噛むからって
よくイヤフォン買いに 来てくれていたでしょ」
「いえ・・・私じゃないです・・・」
「いやぁ よくイヤフォン噛まれていたでしょ」
覚えているわよと言いたげに 満面の笑み
「ほら あのワンちゃん」
歩道で待たせている愛犬は
近くのブリーダーさんで
引き取り手なく残っていた成犬の1匹を
貰い受けたハスキー犬
その私にそっくりな人も
ハスキー犬を飼っているのか!
うちの犬はイヤフォンを噛んだことなど 1度も無い
いくら否定しても
その笑顔は あまりに自信たっぷりで
・・・もしかして 私 イヤフォン買いに来たっけ?
思わず 記憶を辿ってしまった
いやいやいや 無い! 初めて来た店だし!
「あらぁ ごめんなさい・・・じゃ人違い? としたらソックリ」
「そんなにソックリなんですか?」
「もうまるで同じ! 年格好も雰囲気も 髪型も」
実は その数日前にもあった
近くの鶏肉屋さんで 同じように
自信たっぷりに 間違えられた
「きょうは実家 帰って来たの?」って
聞けば その店主の 近所の家の娘さんで
今は結婚して離れたけれど
小さい頃からよく知っていて 親しい間柄なのだと
そんな親しい人が 間違うほどに似ているのか!
鶏肉屋さんで間違われた人と
電気屋さんが言う人は きっと同じに違いない
ハスキー犬まで同じって どういうことなのか
会ってみたい
「その人が来られた時 会いたいって伝言 お願いしてもいいですか」
住所と名前を伝えて 電気店から帰宅した私は
即 パソコンを開いて 調べてみた
“ドッペルゲンガー”
ドイツ語で 自分そっくりの分身のこと
精神医学用語として紹介されているその文面に
釘付けになった
ドイツの伝説では ドッペルゲンガーを見た者は
数日のうちに必ず死ぬといわれている
そして中国や日本にも 実話伝承として古い文献にあって
いずれもやはり
分身を見たあと 訳の分からない病に臥して
死んでしまったという
歴史上 ドッペルゲンガーの記述も残っていて
アメリカ合衆国第16代大統領エイブラハム・リンカーン
帝政ロシアのエカテリーナ2世
日本の芥川龍之介 などの著名人や
19世紀のフランス人 エミリー・サジェは
第三者からも多数目撃されたという
ドッペルゲンガーの実例として 有名らしい
キッカイ奇奇怪怪 ドッペルゲンガー
画面に疲れた私はパソコンから離れて
ソファに横になった
天井をぼんやり見上げながら
以前 占いオタクの友人に言われた言葉を 思い出していた
「占い事では予測しようのない 稀な星の元に生まれていて
波乱万丈の人生を送る」
いまのところ たいして波乱万丈でもないし
予測しようのない占いなんて 笑って聞くしかない
しょっちゅう 自己嫌悪に陥る私は
自分に正直に生きているのかどうかさえ 判らない
例えば誰でも 1度くらい考えたことないだろうか
“別の生き方があったのでは” と
人生の岐路に立ち 選択を余儀なくされた時
もうひとりの自分が 別の道を選んで
歩いて往っていたとしたら
ドッペルゲンガー?
世界中の精神科医に判らないことが
私に判る筈も無い
会いに行ってみよう! と心に決めて
後日 東1丁目あたりから 住宅街を隈なく歩いた
目印は ハスキー犬のいる家
つづく
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