【仏大統領選】ル・ペン氏に勝ち目はあるのか?
ポール・カービー記者、BBCニュース
世論調査の答えは「ノン」だ。そして従来の常識からいえば、ありえない。
中道派のエマニュエル・マクロン前経済相は世論調査で大きくリードしている。では極右「国民戦線」のマリーヌ・ル・ペン氏が5月7日の仏大統領決選投票で、番狂わせの勝利を手にする方法は果たしてあるのか?
数字は何を
23日の第1回投票で見事に勝利して以来、マクロン氏は依然として少なくとも20ポイントのリードを維持。盤石そうな差だ。
ほかの予兆もマクロン氏に有利だ。第1回投票の得票数は865万7326票と、ル・ペン氏に100万票近くの差をつけた。
他候補の支持者の多くも、決選投票ではマクロン氏支持に回るという世論調査結果も出ている。
複数の政界重鎮も、マクロン氏を強力に支援している。左派では、退陣を控える社会党のフランソワ・オランド大統領にブノワ・アモン候補。右派では共和党候補だったフランソワ・フィヨン元首相と、ニコラ・サルコジ元大統領が、いずれもマクロン氏支持を表明している。
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Emmanuel Macron
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Marine Le Pen
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Last updated April 25, 2017
*Polling results up to this date show how people said they would vote on 7 May, if Macron and Le Pen reached the second round<両候補の支持率(どちらの候補に投票するか答えた回答者の割合)>
では、マクロン氏の足を引っ張るとすると何があり得るのか。最大の脅威は棄権率だと政治学者オレリアン・ブルドム氏は指摘する。
「マクロン支持者の投票率が低く、ル・ペン支持者の投票率が高ければ、過半数を得票する可能性がある」とプルドム氏はBBCに話した。
有権者の無関心でル・ペン氏が勝つかも?
マクロン支持者が大量に棄権すれば、ル・ペン氏は過半数を得票する必要さえないという専門家もいる。あとわずかに支持率を増やせばそれで十分だというのだ。
「得票率42%は不可能ではないし、それを達成して、マクロン氏が58%獲得すれば、普通ならル・ペン氏の負けだ」 物理学者で政治学者のセルジュ・ガラム氏はRMCラジオにこう話した。
「けれども『ル・ペンに入れる』と言っている人の9割がその通りに投票して、『マクロンに入れる』と言う人の65%しか実際にマクロンに入れなければ、マリーヌ・ル・ペンが50.07%で勝つことになる」
世論調査が間違っているのではなく、単に有権者の無気力・無関心を事前に把握できないのだ。ガラム氏は自ら考案した計算式に基づき、ル・ペン氏が勝てる3つのパターンを例示した。ガラム氏はこれを「棄権微分」モデル」と呼んでいる。
世論調査が正確に結果を予想するかどうかは別にして、第1回投票についてはどの調査会社も候補者6人の結果を異様なほど正確に予測したことは指摘に値する。
米国の政治世論調査専門家ネイト・シルバー氏は、ル・ペン氏に勝ち目は全くないとみている。米大統領選でドナルド・トランプ氏が置かれていた状況より、はるかにひどい状況に追い込まれているからというのが、その理由だ。
しかし、リスク・コンサルタント会社ユーラシア・グループのイアン・ブレマー氏は、ル・ペン氏が勝つ確率は3割あるとみている。
「(マクロン氏が)勝つと思うが、絶対安全とは言えない。投票率が非常に大事で、外部要因の影響もかなりあり得る」
ル・ペン氏に有利となる外部要因として、ブレマー氏は第1回投票の3日前にパリ中心部で起きた警官殺害よりも大規模なテロ攻撃を挙げる。あるいは、偽ニュースが大々的に登場すれば、影響があるかもしれないという。
投票率低迷の可能性は?
決選投票の5月7日は連休の中日なので、投票率が伸び悩む事態はあり得る話だ。月曜日が祝日なのに、なぜ日曜日にわざわざ地元に残って投票所に行かなくてはならないのか。
マクロン氏のリベラルな経済・社会政策をどうしても支持できないという有権者も、かなりいる。「#SansMoile7mai(5月7日は私抜きで)」というハッシュタグに惹かれる人たちだ。
同性結婚や同性カップルが里親になることに反対する、社会保守派グループ「分別」もそのひとつだ。このグループのリーダーは、マクロン氏が提示する「政治的劣化」はル・ペン氏による「混乱」と大差ないと考えている。
ただし過去の大統領選決選投票は、投票率8割にまで達したこともある。なので、ル・ペン氏に有利になるには、かなり劇的に下がる必要がある。
ル・ペン氏が有利になるには
極右指導者が支持率20ポイント差を巻き返すにはあと数日しかない。23日の得票率はマクロン氏の24%に対して、21.3%だった。
しかしそれからというもの、ル・ペン氏は精力的に活動を続け、フランスの主要テレビ局2社で2晩続けてゴールデンタイムのインタビューに出演するなど、注目を集めることに成功した。国外移転の決まった北部アミアンの工場を急きょ訪れ、訪問が予定されていたマクロン氏よりも注目されたのも同様だ。
対照的にマクロン氏は、効果的な選挙戦が展開できていない。決勝進出をパリの高級ビストロで祝ったことから始まり、オランド大統領からは苦言に聞こえる言葉をかけられた。大統領は「勝ちは決まったも同然と思っては駄目だ。きわめて真剣に運動しなくてはならない。有権者の票は、そのために戦って初めて手にする資格があるからだ」と述べた。
しかし中道派マクロン氏も巻き返しを図っており、5日3日のテレビ討論会が重要な節目となる。これまでのテレビ討論会では、マクロン氏の弁舌の方が目立って優れていた。
ル・ペン氏は新しい支持者を獲得できるか
ル・ペン氏はすでに国民戦線の候補としては過去最多の票を獲得している。加えて、自分は国民の候補で、投資銀行出身のマクロン氏は「少数の権力者集団の候補」だと位置づけることで、さらに「国民戦線」というブランドから距離を置こうとしている。
2つの集団が結果の鍵を握る。共和党・フィヨン氏の支持基盤と、ジャン=リュック・メランション氏を支持した極左の集団のことだ。
フィヨン氏とメランション氏は合わせて4割近くの票を獲得した。そしてメランション氏は、いずれの候補についても支持を表明していない。つまり、グローバリゼーション反対派の一部が、ル・ペン氏を選ぶ可能性があるわけだ。
政治学者のプルドム氏は、右派の多くもル・ペン氏に傾いていると指摘。ルーペン氏が選挙戦終盤で自分の得意分野の安全保障やテロを議論の中心に持って行けるかどうかに、結果は左右されるだろうという。
それだけにル・ペン氏が、これまでで最大の支持者集会を27日に南仏ニースで開くのは、予想通りといえば予想通りだ。ニースでは昨年7月の革命記念日、イスラム過激主義に駆り立てられたチュニジア人男性がトラックを暴走させて通行人86人を殺害した。
「右派がル・ペン氏を支持しないのは、欧州とユーロの問題があるからだ」とプルドム氏は言う。「ほとんどのフィヨン支持者はそれなりの年齢なので、ユーロ離脱を心配している。フィヨン支持者にとって、ユーロ圏離脱は大きな懸念材料となる」
トランプ氏にできるならル・ペン氏も?
ル・ペン氏の父親で国民戦線を立ち上げたジャン=マリー・ル・ペン氏はかねてから、ドナルド・トランプ氏のような攻撃的な選挙戦を展開するべきだと主張していた。
米大統領選ではヒラリー・クリントン氏がトランプ氏に2ケタ台のリードをつけていたものの、トランプ氏はこれをひっくり返して勝利した。
しかしル・ペン氏にはもうあまり時間は残されていない。新たな支持者もそれほど獲得できないかもしれない。
2015年12月の地方議会選第1回投票で国民戦線が13地域圏のうち6カ所で首位に立った時、ル・ペン氏がフランス政治の方向性を変えるのかと思われた。しかし結局それは実現せず、国民戦線は決選投票でことごとく敗退した。このことは、念頭に置いておいた方がいい。
(英語記事 Does Le Pen have a chance of winning French presidency?)