共同経営者の出会い、対立、そして別れ
友人A君との出会い
A君の来日が決まる!
「最近どう?」という程度の軽い連絡でした。
A君と一緒に起業することになった!
しかし、僕の無知さゆえに「まあ何とかなるか」という程度に考えていて
テーマは、事業内容や長期的なビジョンのすり合わせ。当時は、これから自分たちが創っていく未来に、毎日ワクワクしていました。いわゆるスタートアップのガレッジベンチャーのような、高いモチベーションで「世界を変えてやる」と意気込んでいました。当時考えていたことは、自分本位で、具体的に誰に対してどんな価値を作っていくのかを、全く考えられていませんでした。
株式会社を創業した!
会社はスタートしたけど売上が立たない...
その間に、資金はどんどんと減っていきまいした。起業当初の異常なテンションは、その頃には大分冷めていました。
そのため、A君がジョインした後でも一緒にやっていける事業として、マンツーマンで英語を教えたり、ホームページ制作を請け負う事業をしたりしていました。それらの事業で、2ヶ月くらいなんとか必死で食いつないでいました。
共同経営者への違和感が生まれる...
「3年後には○億円だ」と紙に書いて、1人で盛り上がっているA君。それを横目に「目先の資金繰りをなんとかしないとやばいぞ」と内心かなりイライラしていた僕。安定した売上がなく、ビジョンにどうしたらたどり着けばいいのか、毎日頭を抱えていました。
A君がジョインした1ヶ月後には、現状をなんとか打開しようとする僕と、相変わらず実現不可能なビジネスアイデアを提案してくるA君との間に、心理的な溝ができ始めていることを感じていました。
早朝から深夜まで、休みなく働いていた僕。それに対して、朝遅くに起きてきて、午前中眠そうにしているA君。僕たちの間には、コミットメントにも差があり、それが心理的な溝をさらに大きくしていました。
A君の株式配分の要求に絶句した...
「スタートアップをやっているんだから、株を持たなと意味がない」と。
確かに、その頃には、僕も株式比率についてA君と話す必要性を感じていたので、いくら欲しいかと聞きました。そこで、A君の条件に正直驚きました。
「50%は欲しい」と。
しかも、よくよくA君の言い分を聞いてみると、出資するつもりはないと。
株式会社を創業する時の株式比率
これを基本と考えた際に、出資0円で株式の半分をA君に手渡すのは、あまりにも不公平ではないかと感じました。そして、会社法上、株式の50%以上を持っている場合、株主総会の普通決議を単独で阻止できるため、拒否権を持つことになります。
そのため、株式を等分して50:50にしてしまうと、仮に意見が対立してしまった時に、誰も意思決定ができない状態になります。その結果、会社がコントロール不可能になり、会社が解散してしまった例も沢山聞いていました。 株式比率と議決権について、分かりやすいチャートがあったので、引用させていただきます。
議決権保有割合 | 株主の権利 |
75%以上 | 株主総会の特殊決議を単独で成立可能 |
決議事項の例:全部の株式についての譲渡制限を定款に記載 | |
66%以上 | 株主総会の特別決議を単独で成立可能 |
決議事項の例:事業の全部譲渡,定款変更など | |
50%超 | 株主総会の普通決議を単独で成立可能 |
決議事項の例:取締役の解任,剰余金の配当など | |
50%以上 | 株主総会の普通決議を単独で阻止可能 |
25%以上 | 相互保有株式の議決権停止 |
10%以上 | 解散請求権 |
3%以上 | 総会招集請求権 |
役員の解任請求権 | |
業務財産検査役選任請求権 | |
会計帳簿閲覧請求権 | |
1%以上 | 会計検査役選任請求権 |
1%以上 | 株主提案権 |
もしくは300個 |
ひとまず、僕はA君に
本業での初受注が決まった!しかし...
当初から感じていた、僕とA君の仕事へのコミットメントの差は、縮まることがありませんでした。また、僕は資金繰りに困って数百万円の借金をしていたため、背負っているリスクの差も顕著でした。
そこでも、何度か株式比率についての話し合いは行なっていましたが、A君は主張を大きくは曲げずに、「株式の49%」は持ちたいと主張していました。 もうその時は、共同経営者として半分近くの株式を渡して、経営に参画してもらうことに対して完全に疑念を持っていました。朝から晩まで株式比率のことが頭から離れず、ストレスで仕事にも集中できない状態でした。
「何でこんなに、頭を悩ましているんだ」と考える毎日。正直、ストレスの限界でした。当初将来について青臭く語り合っていたのが嘘のようでした。
僕とA君との間には気まずい雰囲気が流れ、お互いコミュニケーションを避けがちになっていました。これは、完全に僕の器が小さかったのかもしれません。
A君がジョインするときに、株式比率の話を切り出さなかった自分のミスだったのです。 A君が株式の話を切り出してから数ヶ月、議論はずっと平行線でした。そして、2月に入り、売上が思うように立たず、毎月の固定費だけは出ていく現状に、とても危機感を強く感じるようになりました。
悩み、そして決断の時
そこで、やっと状況を周囲の人たちに相談し始めました。顧問としてアドバイスをいただいている方や、学生時代からお世話になっている経営者の方、会社を経営している友人に話しました。
最終的に決定打となったのは、とある経営者の方とのミーティングでした。 その方に、カフェで時間をもらって相談している時、こう言われました。
「君はA君と、本当に事業を一緒にやりたいの?1分以内にYesかNoで答えを出して。」と。
その時、僕の本心として、
「A君とはもう一緒にできない」と答えを出しました。
それが、事実上、A君との共同経営に終止符を打った瞬間でした。
A君は生まれた国を離れて、新卒でリスクを犯して自分の会社に入ってくれているのに、本当に申し訳ないことをした。A君のキャリアにとって、大きなダメージとなってしまうことをした。僕の責任は大きいと自分を責めました。
しかし、株式比率についてはどうしても同意ができませんでした。「A君には、会社を辞めてもらおう」。断腸の思いで決断しました。本当に苦しかった時でした。 そこからは、速やかにA君に辞めてもらうための手続きに移行しました。
具体的には、雇用契約上発生し得るリスクを弁護士や税理士に相談したり、雇用ビザのリスクについて調査を行いました。起業当初、全く予測できなかった「A君との別れ」という未来に向けて、一歩一歩駒を進めていました。
共同経営者に、クビを告げた
それに対してA君は、激しく声を荒げて反発をしました。
「俺がいれば会社はもっと早く成長する。今はまだ価値を発揮できてないけど、将来的には絶対にできる。」と。
しかしその言葉は、一度萎えてしまった当時の僕の心には、残念ながら刺さりませんでした。 僕の心が変わらないことを察したA君は、会社に残ることを諦め、言いました。
完全に失敗してしまったA君との共同経営。この失敗エピソードから、同じ間違いを犯す人が少しでも減るよう、教訓をまとめてみました。
共同経営に失敗して後悔したこと5つ
いきなり共同経営をしなければよかった
しかし、創業者に起業経験がなく、じっくり着実にビジネスを育てていくタイプの起業であればどうでしょうか。僕はその場合、リスクを下げる方法として考えられるのは次のようなものだと考えています。最初は個人プロジェクトのような形で1人で創業し、事業が育てば法人化したり、メンバーを業務委託で採用したりする。その間に経営基盤を安定させ、確実に利益が出るようになったタイミングで、人を採用するという手法です。
いきなり共同経営をやってしまい、万が共同経営者と一揉めてしまうと大変です。ストレスで仕事に集中できない、経営のスピードが落ちてしまうということが容易に起こります。僕は他の会社の経営者と、意見交換をする機会がよくありますが、共同経営の失敗は本当に多いと感じます。
そして、共同経営で一番怖いのが、出資をした共同経営者が途中で辞めた場合です。僕の仲の良い経営者でも、出資者が途中で辞めたため、辞めた出資者から株式を買い戻すために、多額の借金を負ったケースもあります。これを避けるためには、共同経営者と契約書を結んでおくことが必須です。
「お金が絡むと、どんな親友でも人が変わる。人間関係に絶対の安定などない。」
と考えておく程度がちょうどかもしれません。
お互いの役割と責任をはっきり決めておくべきだった
同じ目的に向けて、それぞれが持続的に価値を発揮することが、共同経営の理想ではないかと思います。僕たちは、最初から自分は何ができるのかを冷静に考える必要がありました。例えば、エンジニアならサービスの開発、マーケッターなら集客やブランディングなどです。共同経営間で役割分担がはっきりとしていないと、価値の住み分けがしにくく、共同経営をしている意味がありません。
役割と責任を決めないまま、株式の比率を50:50にしてしまうと何が起こるか。それは、成果やコミットの差が出てきた時に、必ずどちらかが不公平感を感じ、共同経営者間のトラブルが起きます。僕の場合、A君には日本語の問題もあり、会社の売上に繋がる仕事や業務をほとんど1人でやっていたため、不公平感が強かったのかもしれません。(もっと仕事を切り出せばよかったということもありますが)ただ、あらかじめ役割と責任を決めたとしても、途中でそれが崩れ、対立することは容易に考えらます。
上下関係をはっきりさせるべきだった
共同経営者として、相手が自分と同等の発言権がある状態にしてしまうと、意思決定が一向に行われない状況になる可能性があります。意見が対立したとしても、どちらかが従うというルールを作っておかないと、いざ意見が対立した時に、全く決められないという状況が生まれます。とにかく、どちらが意思決定者なのかをはっきりさせることが重要です。
僕はA君に対して、最初は従業員のような形で入って欲しいと思っていました。そして、経営判断は自分がやることを想定していました。しかし、A君は自分もオーナーになることを期待していました。そのコミュニケーションが取れていなかったことでが、決定的な対立に繋がりました。
入社前に小さいプロジェクトをやっておけばよかった
価値観が合う友達というだけで、採用したり経営に迎え入れるのは非常に危険です。相手がどれだけ活躍できるかということとが冷静に見ていない場合、いざ相手が会社に入たタイミングでトラブルが起こる可能性があります。それが仲の良い友達だった場合、情が湧いてしまい、辞めてもらいにくくなります。そうすると、どんどんと問題を先延ばしにしてしまいます。
少なくとも、いきなり共同経営者として会社に入れるのはリスクが高いです。そのため、最初は何らかのプロジェクトを一緒にやり、お互いの仕事のスタイルを知っておいた方が良いと思います。
最初から株式会社にしなければよかった
最初から株式会社にしたことは結構後悔しました。専門的な話になりすが、合同会社であれば株式は存在せず、所有と経営が一致しています。そのため、創業時点では株の配分で揉めるということが起こりにくいです。
起業した当初は、お互いがどれくらい価値を発揮できるか分かりません。そのため、一旦株式の細かい比率の話は一旦保留にして、合同会社で設立を行うのも一つの手だと感じました。そこから、資金調達や上場、売却を目指す段階になったタイミングで、株式会社に登記を変更するというのが、共同経営のリスクを最小限にするものではないかと思います。
実際、シリコンバレーのスタートアップでも、最初はLLP(合同会社)でスタートすることが多いようです。先が全く見えない状況の中、株式会社にして資本構成を決めてしまうのは、正直リスクが多すぎると感じています。
共同経営のメリットは確かにある
一方で共同経営のメリットも確かにあるとは思います。少なくとも、僕が共同経営スタイルをとっていた時は、以下のようなメリットを感じていました。
事業の成長のスピードが上がる
それぞれが得意なことを分担すると、単純に作業スピードは2倍になります。僕の場合は、現地語が必要な場合はA君、日本語は僕というように住み分けを行なっていて、その役割分けがちゃんと機能する業務もありました。
役割分けの例として、自分がセールスマンやマーケッターとして商品のプロモーションを行い、パートナーがエンジニアとしてシステムを担当るという分担であれば、事業の成長スピードは1人起業の場合よりも上がるでしょう。
精神的に辛い時期を一緒に乗り越えられる
共同経営がうまく機能していれば、ビジョンに向けて一緒に向かっていけるという、精神的なメリットを受けられることは事実だと思います。
実際、起業は毎日がジェットコースターのような状況になります。そこでは、いろんな不安や葛藤がありますが、それを共有できるパートナーがいることは、精神の安定につながると思います。また、1人だと緊張感がない場合、もう1人いた方が頑張れるという人も中にはいるかもしれません。
共同経営に失敗しないためにすべきこと
今もし友達や同僚と起業をしようとしている場合、必ずやっておいてほしいことを紹介します。これらのアクションを取っておくだけで、共同経営に失敗した場合に起きる、数百万、数千万円の損失リスクと、数年の不毛な時間のロスを防ぐことができます。
会社経営についてインプットする
まずは、起業についての適切な知識をインプットしておくべきです。これをしないがために、会社設立時や資金調達において、決定的に重要なポイントが抜け落ちたまま、後悔し続ける経営者は後を経ちません。
起業のファイナンス
これは会社を創業する上での資本構成など、基本的な知識を学ぶことができる、ベンチャーファイナンスのバイブルです。起業を検討している場合、いち早く読んでおくべき本だと思います。
LLC(合同会社)の設立・運営ができる本
これは、自分が合同会社にしておけばよかったと気付かされた本でした。この本にも関連しますが、会社を設立するなら、会社法は最低限勉強することが、身を守ることに繋がります。
取締役になるとき いちばん最初に読む本
会社の中で取締役のポジションになることで、どのような責任が発生するかということを詳しく書かれています。この本では、会社の取締役になることのメリットと同時に生まれるリスクについて学ぶことができました。
渋谷で働く社長の告白
サイバーエージェント藤田社長の本です。株主に翻弄される藤田社長のドラマが、感情と共に分かりやすく書かれてます。経営と人について、これほどまで分かりやすい本もそう多くないかもしれません。
社長失格
15歳で起業したぼくが社長になって学んだこと
タイトルは一見、成り上がり社長のような軽い印象を受けますが、本書は経営についての本質が述べられており、起業初期にかなり参考になりました。これも、会社を創業するとどうなるか、かなりリアリティがあります
スタートアップ共同創業者の見つけ方、付き合い方、別れ方
共同創業者は仲の良い友達1人がいいかも
共同創業者は仲の良い友達1人がいいかも – The First Penguin
nanapiのけんすうさんが書かれた、共同創業についての記事です。共同創業の選び方について、成功、失敗パターンが分かりやすく書かれています。
友人との共同経営で大失敗した代表取締役の体験談
友人との共同経営で大失敗した代表取締役の体験談-みんなのインタビュー
ここで取り上げられている社長の方は、友人と50:50で株をシェアして、失敗した典型的なパターンだと思います。創業から失敗まで、かなり生々しく書かれています。僕が悩んでいるときに、かなり参考になった記事です。
専門家に相談する
僕は共同経営者と対立してから初めて弁護士と相談したのですが、共同経営をするかを決める前に、相談をしておいた方がいいです。無料相談でも良いので、弁護士さんや税理士さんに一通り状況を話し、共同経営のメリットとデメリットをしっかりと理解してください。もし、すでに問題を抱えている場合は、いち早く相談し、解決策を整理しておくのがいいでしょう。最初は、弁護士に相談するのは勇気が入りますが、正直無料相談でも十分に役立地ます。共同経営で悩まれている場合は、いち早く相談することをオススメします。
僕は弁護士紹介サイトで問い合わせをして、東京都内の弁護士さんを紹介してもらいました。電話越しに、無料で20分程度相談に乗ってもらいましたが、何で困っているか、今後どうすべきかを的確にアドバイスいただきました。こちらのボタンから、相談ができるようになっています。
僕とA君のその後
A君が会社を辞めてからは、しばらく口もきかない時期がありました。しかし、今では一緒に会社をやっていた時よりも関係は良くなっています。やはり、株式会社という箱の中に、利害関係者として入ってしまうと、本当に様々な対立が生まれてしまうものだと痛感しました。
僕は会社を続け、A君は日本での就職に向けて順調に活動を進めています。様々な苦労がありましたが、過ぎ去ってしまえば、過去の話。今ではA君と、これまでの対立は、仕方ないことだったと、和解することができています。
人の感情は季節のように移り変わるものです。自分の感情というものは、コントロールできそうで、できません。自分もまさか親友だったA君に、こんなに苛立ってしまうとは思っていませんでした。
今回は共同経営の失敗ということについて書きましたが、これはどんな人間関係であったとしても、当てはまることが多くあると思っています。どんな関係性でもお互いが依存せず、常に「人の感情は変わる」ことを肝に命じた上で生きていくのが、対立や恨みなど負の感情を減らし、幸せに生きていく秘訣かもしれません。