コラム

サイコロを振って北朝鮮問題を考える(後編)

2017年04月28日(金)17時40分
サイコロを振って北朝鮮問題を考える(後編)

朝鮮人民軍の創建85年にあたる今月25日に実施された軍事訓練 KCNA-REUTERS

<北朝鮮問題をシミュレーションで考える、その後編。米軍から先制攻撃をしないケースでも北朝鮮の核開発を阻止するという目的ははっきりしている。しかし問題を先送りにすればそれだけリスクは高くなる>

前回は、アメリカが北朝鮮に対して先制攻撃を行った場合の成功と失敗のシナリオをサイコロを投げながら考えた(お読みになっていない方はこちらからどうぞ)。

今回は先制攻撃をしなかった場合のシミュレーションに取り掛かろう。まず、攻撃以外の手段を使っても、対北朝鮮政策の目的ははっきりしている。

◆経済制裁や外交の働きで北朝鮮のミサイル・核開発を凍結させることができる

大当たり! サイコロを投げてこれが出たら、宝くじに2度当たった気分だ。しかし、クリントン、ブッシュ、オバマと、アメリカの3政権にわたってこのサイコロを投げ続けてきたが、いまだに当たり目は出てこない。

軽水炉の建設、重油の供給や支援金の提供などの「アメ」も、経済制裁、国際社会からの孤立化、最新鋭迎撃システム「THAAD(高高度防衛ミサイル)」の配備などの「ムチ」も効いていない。もちろん、米国側が合意の内容を守らなかったという指摘もあるが、交渉の結果はいつも空しいものだ。このサイコロは裏目しかないのかと思うほど。

もしかしたら、トランプの強硬な姿勢や予測不可能な言動は「狂人論」の作戦通り、中国に重い腰を上げさせる効果はあるかもしれない。北朝鮮の生命線を握る中国が本腰を入れれば結果は変わるはずだ。そう期待している人は多い。ただ、この「制裁・外交のサイコロ」を繰り返し投げている間、ミサイルと核の開発は進む一方だ。

【参考記事】サイコロを振って北朝鮮問題を考える(前編)

そこで考えないといけないのは、金正恩がゴールとして挙げている核弾頭搭載の大陸間弾道ミサイルができ上がった後のこと。実はこの段階にも救いのチャンスがある。

◆冷戦時代でおなじみの「相互確証破壊」状態になり、勢力均衡がとれる。つまり北朝鮮はアメリカを敵対視しても、核保有国同士として対等な立場を獲得し、脅威に感じなくなることで平和主義に舵を切って国際社会への復帰に努める

絵空事に聞こえるかもしれないが、可能性はある。北朝鮮側もこれが狙いだと見る人もいる。核ミサイルが完成したら、このサイコロを投げてみるしかないのかもしれないが、外れた時の展開は実に恐ろしい。

◆北朝鮮が核ミサイルをシリアやイランなどの国へ輸出する
◆北朝鮮が核ミサイルをISIS、アルカイダ、ハマスなどのテロ組織に売却する
◆アメリカが無力に見える上に、核保有国の数が増えることで一極体制の国際情勢が崩壊する

アメリカはこんな展開を最も恐れているはず。「核ミサイルを開発途中の国が1つある」という現状と、「核ミサイルを保有する敵国や敵対組織が複数ある」というシナリオとの脅威度は全く違うもの。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

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