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酒井一圭(純烈)×久保 隆(日本クラウン/純烈ディレクター)(Rooftop2015年2月号)

練習以上のことが絶対にできないのが本番

酒井:つながりということで言えば、最初のシングル『涙の銀座線』の作詞は鹿島潤さんという方で、僕の友達のライターなんです。鹿島さんは『スコラ』の編集をやっていて、僕は10代の頃に熟読してよくお世話になっていたんですよ(笑)。その感謝の意味も込めて、是非詞を書いて頂けないかとお願いしたんです。あと、僕が映画学校の仕事をしていた流れで知り合ったのが『涙の銀座線』の作曲の琴姫さんで、僕とあまりにウマが合うので、思い切って曲を付けてもらったんですよね。当時、いろんなレコード会社に純烈のプレゼンをしていて、ムード歌謡に限らずにバンドっぽい曲とかSMAPっぽい感じの曲とか、いろんなタイプの曲を5曲くらい用意したんです。その中で一番評判が良かったのが『涙の銀座線』だったんですよね。それで先にPVを作ることにして、改めてプレゼンをし直したら「ああ、こういうことがやりたいのか」と理解してもらえて、契約に至ったんですよ。
久保:そういうことだったんだ。
酒井:2枚目の『キサス・キサス東京』の時は歌謡界の大御所の先生に曲を依頼したかったんです。ちょうどその頃、琴姫さんから「ウチの旦那が水木れいじという作詞家なんです」って聞いて。調べてみたら、天童よしみさんや氷川きよしさんなどの作詞を手がける巨匠で、その年の日本作詩大賞を受賞されていたんですよ。「琴姫さん、それを早く言ってよ!」って思いましたもん(笑)。そういういろんな人たちとのつながりのお陰で今日の僕らがあるんです。
久保:へぇ。面白いですね。
酒井:久保さんとのつながりもまさかのロフトっていうキーワードがあって面白いですよ。ディレクションして頂いた『星降る夜のサンバ』は純烈史上最高傑作だと思うし、なぜそこまでの作品を作れたのかと言えば、ディレクターが久保さんだからなんです。ミキサーの方とか他のスタッフはずっと同じで、唯一今までと違うのはディレクターさんだけだったんですから。久保さんとはレコーディングまで直接打ち合わせをしたことがなかったのに、「これぞ純烈!」と言えるピタッと噛み合った曲がこうして完成したわけだから、久保さんって凄い人だなと思って。特に引き立ったのが白川(裕二郎)のボーカルですよね。服で言えば丈の部分の微調整を久保さんに細かくやって頂いたと言うか。
──久保さんが有頂天のベースのクボブリュだったのは後から知ったんですか。
酒井:年末に日本クラウンの片岡(恵介)さんという偉い方と話していた時、「久保ちゃんはバンドのベーシストなんだよ」って聞いたんです。「何てバンドなんですか?」って訊いたら、それがKERAさん率いる有頂天だったわけですよ。もうビックリしちゃって。しかもちょうどその頃、有頂天の再結成で新宿ロフトのステージに立っていたんですよね。このつながりは凄いぞ! と思って、僕がロフトにいた縁で『Rooftop』編集部にその場で電話して、久保さんとの対談を直談判したんです。
久保:なるほど。でも、『星降る夜のサンバ』はそれまでの曲と特に音の違いはないと思うよ。たまたまグループの志向性と合っただけじゃないですか? 技術的には何も特別なことはしてませんからね。
酒井:いや、絶対そんなことないですよ! だって、白川の仮歌のへぼさと仕上がりの凄さは歴然としてますからね(笑)。
久保:それはきっと、白川君が急成長したってことじゃないかな?
酒井:まぁ、『涙の銀座線』の頃に比べれば成長はしてるでしょうけどね。
久保:今回、矢野さんを始め長年純烈を知る人たちが揃って「彼らは歌が上手くなったよ」って驚いていたんですよ。僕が久保マジックみたいなものを仕込んだわけじゃなくて、安定した歌唱力がベースにあったからいい仕上がりになったんです。第一、技術で補填するのも限界がありますからね。
──久保さんがベーシスト的な視点から唄い手にアドバイスをするようなことはあるんですか。
久保:歌で大事なのはリズムですよね。あとは一緒に唄えるかどうか。演歌でも何でも、一緒に唄って辛い場合は歌手が上手すぎる。こっちの歌が上回る場合は歌手のレベルがちょっと低い。リズムがキッチリと合えばブレスするポイントも合って、お互いが気持ち良く唄えるんですよ。そこが命かな。
酒井:長くビブラートを効かせて唄えばいいってもんじゃないし、いいタイミングでブレスしてリズム通りに正しく唄うのが大切なんですよね。プロフェッショナルの方は常に冷静に唄っていると思うし。
久保:それが練習でちゃんとできれば、本番でもできるからね。練習以上のことが絶対にできないのが本番で、ムリのない歌唱法を事前にどれだけ習得しているかが大事なんですよ。練習で仮に100の力を出せたとしたら、本番は60くらいの力がMAXだと思うんです。40の減点でもお客さんが満足できる状況にするためには、練習の100のレベルをどれだけ高められるかなんですよ。僕らみたいな凡人は練習を怠るとロクなことがない。
酒井:有頂天の再結成にあたって、どれくらい前から練習していたんですか?
久保:リハビリと称して、半年以上前から練習してましたよ(笑)。
酒井:会社員として僕らのレコーディングに携わりながら(笑)。
久保:そうそう。ライブの曲目が決まってからは、1日に1時間はベースを弾くことにしたんです。そうじゃないと筋肉が衰えちゃうし、本番の1曲目でピックを落としそうになったりするから(笑)。
酒井:やっぱり年齢の衰えってあるものですか。
久保:絶対ある。昔弾けたものが弾けないこともあるし、練習の立ち位置が昔と違うだけでなんか弾けなくなったりしてね。だから表舞台に立つ側は大変なんですよ。
 

活動の選択肢が豊富な純烈のこれから

酒井:有頂天のステージって、ただ音楽をやるだけじゃなくお芝居もあったじゃないですか。だから稽古って解釈に近いですよね。
久保:音楽と芝居を一緒にやってた時期もあったんだけど、今は音楽だけなんですよ。そこのバランスが上手く取れなくなって有頂天は解散したんです。KERAさんは芝居を専門にやりたくなって、我々は純粋に音楽をやりたくて。とは言えKERAさんのお父さんはジャズ・ベーシストだったし、音楽の血が流れてるんですよ。だから音楽を捨てられなかった。それでKERAさんなりに思うところがあって、有頂天をまたやることになったのかな。
──思うところというのは?
久保:ムーンライダーズのかしぶち哲郎さんが亡くなって、そのお別れ会の時にKERAさんとたまたま会ったんですよ。長年ずっとやってきたバンドがそういう形でメンバーが欠けるのを目の当たりにして、今やれることをできる限りやりたいと思うようになったんじゃないかな。それでどういう形でやれるかを考えた結果、有頂天セッションをライブでやってみたと。そして今後はどうなるか分からないけど、ちゃんとした再結成という形で有頂天をやる方向なんですけどね。
酒井:そうなんですね。日本クラウンにはどれくらいお勤めなんですか。
久保:有頂天が解散してすぐに入社したので、23年になります。有頂天が所属していた事務所にたまがいて、彼らがアクシックっていうレーベルを日本クラウンと持っていたんですよ。その縁もあって入社できたんです。
酒井:バンドを続けようとは思わなかったんですか。
久保:ベースで生活するのが苦しかったんですよ。バック・バンドも経験してみたけど、すでに形があるものを弾くのが上手にできなかったし、譜面を渡されてもすぐに理解できなくて。それでもう音楽をやめようと思って、スーツを買って就職活動をするんですけど、箸にも棒にも引っかからないわけですよ。なんせ黒い革靴はドクターマーチンしか持ってないんだから(笑)。
酒井:バンドマン丸出しですね(笑)。
久保:それを見かねた事務所のスタッフが「日本クラウンでディレクターを募集してるけど、どう?」って声を掛けてくれたんです。
酒井:最初はどんなアーティストを手がけていたんですか。
久保:所属していた元事務所とレーベルを作ろうとしていたので、オルタナ系のヘンなバンドを担当したり、冨永みーなさんとか同世代の俳優さんのCDも制作しました。
──メーカーの方は同じ業種を転々とすることが多いですけど、久保さんは日本クラウン一筋なんですね。
久保:仕事に恵まれて途切れることがなかったし、もうこれでやめようと考えることもなかったし、「ウチに来いよ!」と強引にハンティングされることもなかったし(笑)。
酒井:久保さんの経歴を初めて知った時、保守的な人なのか革新的な人なのかよく分からなかったんですよ。日本クラウンに長くお勤めだけど、有頂天のメンバーとして前衛的な活動もしていたわけで。でも、今回の『星降る夜のサンバ』のカップリング曲(『SAYONARA SAPPORO』)で僕が作詞をやらせてもらったり、ジャケットも小田井(涼平)の案を採用してもらったり、まだコミュニケーションが上手く取れていない段階で自由にやらせてもらえたのが不思議で。歌謡曲の世界にはそれなりのしきたりがあるし、郷に入れば郷に従えで今までやってきたんです。それを踏まえた上で、僕らが理想とする純烈を打ち出していきたいと考えているんですけどね。
久保:僕は何事においても肯定的で、“レコーディング道”とか“演歌道”みたいな概念はないんです。“演歌道”っていうのは僕が見る限り、アーティストの扱いが一番下なんですよね。作家やアレンジャーがそれより上の立場にいて、「こういう歌を唄いなさいよ」と指示をする。でもそれじゃ、お客さんと一番多く接するアーティストが一番下じゃないかと思うんですよ。その構造は変わらないにしても、アーティストの方向性を本人と突き詰めたり、アーティストが熱くテンション高く表現できる環境を作りたいんです。
酒井:久保さんのようなディレクターの方や作家の先生方とコミュニケーションを密に取りつつ、「こういうキーワードを詞に入れたい」とか健全なディスカッションを僕はしていきたいんです。純烈の歌は平成のムード歌謡だから、たとえば冴えない男の子が秋葉原のメイドに惚れちゃったり、ツイッターで出会った男女の恋物語を歌詞にしてもいいと思うんですよ。COALTAR OF THE DEEPERSのNARASAKIさんとか異ジャンルのバンドマンに作曲をお願いしてもいいと思うし。その昔、NARASAKIさんが戦隊もののコンペに出してダメな曲があって、まだ出会って1週間も経ってない頃に「その曲を俺にください。捨てるくらいならください」ってお願いしたことがあるんですよ(笑)。その曲を僕が主演した自主映画の主題歌として使わせてもらったんです。
 
星降る夜のサンバ

日本クラウン CRCN-1849
定価:1,143円+税
2015年1月7日(水)発売

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【収録曲】
1. 星降る夜のサンバ(作詩:水木れいじ/作曲:大谷明裕/編曲:矢野立美)
2. SAYONARA SAPPORO(作詩:酒井一圭/作曲:歌星 錠/編曲:NAO2・夏目哲郎)
3. 恋はおとぎ話[唄:純烈&西田あい](作詩:田久保真見/作曲:田尾将実/編曲:石倉重信)
4. 星降る夜のサンバ(オリジナル・カラオケ)
5. SAYONARA SAPPORO(オリジナル・カラオケ)
6. 恋はおとぎ話(オリジナル・カラオケ)