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2017-04-27 大英自然史博物館展

[] 大英自然史博物館展f:id:shorebird:20170427204248j:image:medium:right 21:19  大英自然史博物館展を含むブックマーク


大英自然史博物館にはロンドンに行ったときに何度かサウスケンジントンまで足を伸ばして訪問したことがあるが,その美しい建物,ダーウィンとオーウェンとの直接的な縁,恐竜だけでなく魚竜のコレクションのすばらしさ,鉱物コレクションの途方もなさがいつも印象的だった.

しばらくロンドンと縁がなく10年以上ご無沙汰になっていたが,今回は始祖鳥のタイプ標本化石を始め貴重なコレクションの一部が上野の科博で公開されるということで見に行ってきた.


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2008年のダーウィン展の時には写真撮影不可だったが,最近の科博の特別展は結構写真撮影可になっていて嬉しい限りだ.今回もフラッシュを焚かなければ撮影可ということだった.こうなると高感度撮像素子のあるいいカメラが欲しくなってくるところだ.今回はごく普通のスマホ撮影.


序章 自然界の至宝 博物館への招待

最初のコーナーは,まず美しい標本をいくつか見てもらおうというイントロダクション.


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入ってすぐに現れる巨大魚の剥製.タマカイという現生種としては最大の硬骨魚だそうだ.美しい剥製で,迫力満点.確かに最大の魚がジンベエザメというのはよく知られているが.最大の硬骨魚が何かというのはあまり印象になかった.調べてみると重さではマンボウとか,長さではリュウグウツノカイとか,いろいろな主張があるようだ.


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ガラス細工のマダコの標本.繊細で美麗.19世紀の大英帝国の底力を感じさせる一品.


このほかオーデュボンの美しい鳥類イラスト,トリバネアゲハの見事な標本などが展示されている.


第1章 大英自然博物館の成立

第1コーナーは自然史博物館の設立にかかるもの.建物や,設立時の元になったコレクションなどが展示されている.


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自然史博物館の屋根の装飾用のテラコッタ製ライオン像(現在は保存のために取り外されて頑丈な複製が飾られているそうだ.)素晴らしい造形美.


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プリニウスの「博物誌」.1469年,印刷技術が発明されてから30年もたたないうちにベネチアで出版されたもの.印刷のブルーの鮮やかさが印象的.



第2章 自然史博物館を貫く精神

この博物館を貫く精神として,リンネ,オーウェン,ダーウィン,ライエル,ウォレス,ベイツなどにちなんだ展示が並んでいる.ここは私にとっても最も興味深いところだ.じっくり見て飽きないものが並べられている.


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リンネの「植物の種」(左側:1753年)と「自然の体系」(右側:1758年)


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リンネその人が記載に利用したとされる,フタバチャメルソウとカエンキセワタの植物標本.18世紀のものとは思えないほど美しい.


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モア.有名なリチャード・オーウェンと一緒の写真が隣に掲げられていた.


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ベスビオス火山コーナー.18世紀の噴火時の火山岩の岩石標本と(おそらくその当時の)イタリア人の画家によるイラスト.


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1815年のウィリアム・スミスによるイギリスの地層図.細部まできちんと描かれ美しい.


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メアリー・アニング肖像画と彼女自ら収集した化石.大きい方の化石はイクチオサウルスの全身骨格.


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ライエルの「地質学原理」(1832年)


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ダーウィンの「種の起源」の直原稿の1つ.オーセンティックのひとこと.


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ダーウィンのフジツボのモノグラフ


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ビーグル号航海で収集されたガラパゴスのマネシツグミとフィンチ.


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ダーウィンの預言が成就したキサントパンスズメガ


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ウォレスの収集した東南アジアマレー諸島の甲虫標本.美麗


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ベイツのフィールドノート.細かな書き込み,イラストが当時の雰囲気をよく出している.


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そして始祖鳥アーケオプテリクスのネオタイプ標本.いわゆるロンドン標本.これは圧倒的な存在感だ.


第3章 探検がもたらした至宝


ここではエンデバー号の太平洋航海,チャレンジャー号の深海探査,南極探検などの探検とその持ち帰り標本,ロスチャイルドコレクションとトリング別館,日本関連標本が展示されている.


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エンデバー号コーナー


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日本コーナー.世界最大のカニ.タカアシガニの巨大標本.


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日本式双晶


第4章 私たちの周りの多様な世界

多様性にフォーカスした展示となっていて,それを示す標本.絶滅動物の標本などが展示されている.


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シジミチョウの多様性


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サーベルタイガー


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ドードー(これは最新の研究を元にした模型)


第5章 これからの自然史博物館

鉱物・宝石の標本,火星の隕石,贋作などが展示されている.


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鉱物標本.中央はラトルーブ金塊と呼ばれる717グラムの自然金塊.


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宝石.左は緑柱石(ベリル:これはマンガンによりピンク色に輝いていて,特にモルガナイトと呼ばれる),右は19世紀には世界最大だったことで有名なコ・イヌール ダイヤモンドの複製


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ピルトダウン.あえてこれを展示に加えた度量の広さが印象的.


以上で主要展示は終了だ.最後に売店で,本展覧会のオフィシャル図録「Tresures of the Natural World: Best of London’s Natural History Museum」を購入.


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2000円ながら素晴らしいできばえだ.標本の図録として優れているだけでなくコラムも充実している.リンネの記載したと思われるチャメルソウ標本が展示されていたが,予想通り科博のチャメルソウ専門家の奥山雄大がそれに絡むコラムを執筆している.真鍋真始祖鳥のコラムも読み応えがある(このロンドン標本には頭部はないのだと思っていたが,岩石中に埋まっていてCTスキャンで頭部の構造も解析されているそうだ).自宅に戻ってからも何度も何度も眺め回して余韻に浸ることができた.

この博物館展はやや会期が短く6月11日までだ.えり抜きの標本揃いであり,興味のある方には貴重な機会だと思う.高感度撮像素子カメラをお持ちなら携行をお勧めする.

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