GEが始めたIoT革命は何をもたらしたか?
GEがソフトウェア企業に転換するために始めた「インダストリアル・インターネット」は、IoTの流れを生みだし、多くの産業を変革させている。IoTが何を目指し、何をもたらしたのか振り返る。 by MIT Technology Review Japan2017.04.28
2011年11月、ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフリー・イメルトCEOは、製造業を変革するために10億ドルの資金をソフトウェア開発に投じると発表した。2000年代初頭まで、地球上で最も価値のある企業として君臨したGEは、2017年3月の時価総額ランキングで13位まで後退し、時価総額はアップルの7537億ドルに対して、2605億ドルしかない。
今や産業界を支配しているのはソフトウェア業界だ。GEは昔から、ジェット・エンジンや医療スキャナーの素材や物理特性について、最も熟知しているのは自社であり、産業機器の理解度の深さで脅威となる企業は現れないと思い込んでいた。だが、IBMのようにデータ分析に長じた企業が次第にGEを脅かし始めた。IBMはガス・タービンのような高価な機器がどんな条件で動作不良を起こすか、計器類や振動モニターから得られるデータを分析するだけで把握できるようになったのだ。
IBMのようなソフトウェア企業は、データ分析の形で産業機器への進出を果たした。産業機器部門で年間600億ドルの売上高を誇るGEには一大事だ。利益率が高いのは産業機器の保守運用サービスだが、現在、さまざまなソフトウェア企業がGE最大の収益源に食い込もうと狙っている。
そこでGEが2012年に対抗策として提唱したのが「インダストリアル・インターネット」だ。
GEはインターネットの将来についての議論を一変させてしまった。2012年まで、他の企業は、自動車や人体、トースターをインターネットにどうつなぐかの話ばかりしていた。しかし、全世界のGDPで大きな割合を占めるのは製造業だ。イメルトCEOは「家庭にある全ての電化製品をインターネット経由で管理できても、電化製品のビジネスから得られる売り上げは、航空機や医療機器の製造に比べればほんのわずかだ」とわかっていた。
GEの問題は、産業機器から生み出される全データにはアクセスできないことだ。GEが2013年に設立した業界団体インダストリアル・インターネット・コンソーシアムのリチャード・ソレイ事務局長は「インターネットにつないでデータを送受信する発想の欠如」が製造業の発展を遅らせてきたという。ジェット・エンジンには何百ものセンサーが付いているが、計測は離発着時の各1回と、飛行中の1回にすぎない。GEの航空部門は数年前、ようやく離陸から着陸までの全行程のデータを数日で分析する方法を見つけた。「信じられない話ですが、今まではデータを収集しようとは考えもしなかったのです」とソレイ事務局長はいう。
GEは、インターネットへの接続性を高めて、より多くのコンピューターを使い、産業機器に「新しい動作」を追加するために何をすべきかを考えているという。GEインテリジェント・プラットホームスのバーニー・アンガー統括マネジャーは一例として、タービン間で連携し、風速や風向の変化に合わせて風車ごとの回転速度を調整する集合型の風力発電所をあげる。「グーグルになりたくてビッグデータ分析を進めているのではありません。製造業を大きく変えたいのです」
ただし、実際に工場でデータを取得しようとすると、機器の接続問題が生じるという。工場内のすべての機器を有線LANで接続すれば、施設内がケーブルだらけになってしまう。無線LANで接続すれば、大量のデータが帯域幅を食い尽くしてしまう。GEがいう「インダストリアル・インターネット」は、あくまで旗印と掲げられた「大きな物語」(メタナラティブ)であり、本気で実装するのは無理がある。
⇒製造業をネット化する GEの巨額投資
つなげることの価値
IoTは、グーグルが2013年にネストラボを32億ドルで買収したことで、一躍注目を集めた。日常的に使うモノをインターネットにつなぐ価値を、グーグルの投じた驚異的な金額で誰もが理解したのだ。
2012年5月にテキサス州で始まった制度は興味深い。オースティンの市営電力会社オースティン・エナジーは、ネストラボに使用料を支払うことで、電力の卸売価格が最も高騰する夏の猛暑時(米国では州単位で電力の自由化が進んでおり、配電会社と小売会社との間で実施される、需給バランスに基づくオークションで卸売価格が決まる。テキサス州の場合、人口増に伴う電力需要の増加に供給能力 …