怒りを和らげる魔法の呪文を紹介します。アンガーマネジメントの中で私にお気に入りのテクニックです。研修などでも良く紹介しますが、「怒った時には魔法の呪文を唱えましょう」と言われても、ちょっと怪しいですね。でも、言葉には力があって、私たちは言葉によって励まされたり、勇気づけられたり、元気になったり、落ち着いたり、また時には傷ついたりします。怒った時の言葉も怒りを増幅させることもあるし、和らげることもあるのです。
皆さんは、幼い頃に転んで擦りむいた時やお腹が痛くなった時に、お母さんが痛いところに手をあてて「痛いの痛いの飛んでいけ~」と言ってくれて、そうしたら痛みが和らいだという経験がありませんか?こうしたまじないや呪文は日常の中にいろいろあります。普段はあまり意識しないと思いますが、考えてみると自分を支えてくれることもあるのではないでしょうか。
誰かに何かを言われてカチンときた時、本人に向かって言わなくても「あいつ、勝手なことを言いやがって!」「もう!いい加減にしてよ」などと、心の中で叫ぶことはないでしょうか。そんな時、誰かがあなたを慰め、落ち着かせてくれるような言葉をかけてくれたら良いのでしょうが、相手も怒っていてにらみ合いになっているような時には、相手があなたに優しい言葉をかけてくれるようなことは期待できません。そこで、自分で自分に向かって気持ちを落ち着かせて冷静さを取り戻すための言葉をかけるのです。これが「魔法の呪文」です。怒っている時でなく、いざという時のためにあらかじめその言葉を準備しておきましょう。
例えば、上司に叱られている時、患者や利用者からクレームを受けている時に、聞いているうちにこちらも触発されて、言い返しそうになったけれど、ここは堪えどころだという状況になったら、心の中だけで、自分で自分に「魔法の呪文」をかけてあげるのです。「大丈夫」「なんとかなるさ」「乗り越えられる」「頑張れ私!」「ピンチはチャンス」「帰りに美味しいものを食べよう」など、ちょっとした言葉です。これは、自分が怒りに任せた言動で失敗しないための一時的な対処法で、上司の指導に聞く耳を持たないとか、患者や利用者の話を受け流すという意味ではありません。カチンときた時やじわじわと怒りが湧いてきた時に、自分が落ち着きを取り戻すための対処法です。
普段から自分を励ます言葉を使っている人もいますから、周りの人に聞いて、使えそうなものがあれば取り入れてみると良いでしょう。すぐに思いつかなくても、考えてみたら、あの歌を口ずさむと落ち着くとか、好きなテレビコマーシャルのフレーズとか、あるいは可愛がっているペットを思い浮かべるなど、いろいろ探してみてください。自分のそばに自分を守ってくれる天使がいて、天使がささやいて自分を励ましてくれるようなイメージを作ってみるのも良いでしょう。
しかし、このような場面で相手を貶めようとする、あるいは相手の不幸を願うような言葉は控えた方が良いでしょう。それは、あなたの品格を下げるだけです。また、「最悪だ」「もうダメだ」などマイナスな言葉ばかりが浮かぶ人も、自分で泥沼にはまってしまいます。相手を悪く言ってしまう、マイナスな言葉ばかりが浮かんでしまうという人は、ここでほんの少し思考を切り替えて自分の「魔法の呪文」を作りましょう。自分が頑張れるような言葉をたくさん持っておくほうがイライラから抜け出しやすいと思います。
私は最近、理不尽なことを言われたり、無茶な仕事を頼まれた時に、将棋の対局場面のようなイメージで「むむ、そうきましたか・・・」とつぶやいたりしています。「ならば、この手でどうだ」と次の一手を指すように自分の背中を押すのです。念のため書いておきますが、これは怒った相手を前にして声に出して言ったりするのでなく、あくまでも心の中でつぶやく呪文です。
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■編集部から
田辺有理子さんの本が8月31日に出版されました。タイトルは「イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ」(中央法規出版、2160円)です。(詳しくはアマゾン:http://goo.gl/52wVqv)
<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>
http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)
横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。
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