デンソーとイビデンは27日、資本・業務提携すると発表した。デンソーは約120億円を投じ、イビデン株の5.48%を保有する第2位株主になる。両社は次世代自動車での技術開発で手を組み、システム提案力を高める。車の電動化などを背景に自動車部品業界の再編が続く。影の主役は独フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正問題。海外発で業界を揺るがしてきた不正が日本の業界再編に波及してきた。
■イビデン、電子部品不振で赤字に
提携の直接の要因は業績が低迷するイビデン側にある。同社はパソコンやスマートフォン(スマホ)向け電子部品と、排ガス用の触媒などセラミック事業が主力。同日発表した2017年3月期の連結決算は最終損益が628億円の赤字(前の期は75億円の黒字)だった。
電子部品はパソコンやタブレット市場の低迷のほかスマホ市場の成長鈍化で受注が低迷。電子部品事業の構造改革に絡む損失など約630億円の特別損失を計上したことも響いた。大幅な業績悪化の責任を取り、社長ら経営幹部の役員賞与を全額返上する。
業績の振れ幅が大きくなる電子部品に代わる中長期の成長分野として位置づけてきたのが自動車部品だ。同社のセラミック事業の主流は排ガス浄化装置に使われる触媒で、成長期待もあった。
だが15年9月に発覚したVWのディーゼル車の排ガス不正で、イビデンからみえる未来が変わった。ディーゼル車の本場、欧州では不正をきっかけに走行試験の運用が厳しくなる。イビデン製品への需要が増えるとみられるが、これは一時的。VWだけでなくダイムラーなどドイツ勢は近年、電気自動車(EV)シフトを鮮明にした。
■ディーゼル車用触媒の需要、不透明に
厳しくなる環境規制に対応し、排ガスを減らす触媒の需要が増えるはずだったが、EVになれば走行時の排ガスはゼロ。従来型の触媒は要らなくなる。ディーゼル車の需要が見通しにくくなり同社の戦略にも不透明感が増していた。
提携するデンソーは、エンジン制御システムや燃料噴射システムをはじめ複合(モジュール)部品に強い。イビデンにとって取引先の関係も広く深くなる効果が見込め、「渡りに船」といえる。
デンソー側にも事情はある。長年、独ボッシュなどと並ぶ部品世界大手の一角として業界に君臨してきたが、最近の大型再編とは距離を置いてきた。一方、VWと同じドイツに拠点を置くコンチネンタルはIT(情報技術)大手などの買収に動き、ZFは米TRWオートモーティブの1兆円以上の買収で「独3強」の一角に食い込んだ。
「デンソーは技術力はあるし、システム提案力もある」。独部品大手の幹部はデンソーに警戒感を見せるが、同時に「オープンプラットフォームの取り組みや提携の仕方が、ドイツや米国、フランスの同業に比べゆっくりしている」と評価する。
■車部品、変革のスピード速く
車の駆動システムが大きく変わる転換点でスピード感は必要だ。デンソーはイビデンの触媒技術を自らのエンジン制御システムなどを組み合わせ、低コストの排気システムなどを開発する狙いだ。イビデンはEVなど次世代車向けの新システムにも期待する。
VWの不正が発覚した当初、「環境技術に優れた日本勢には商機にもなる」との見方があった。だが現実をみると、日本勢は思うように欧州市場を含めて開拓できていない。それどころかドイツ含め欧州勢は変革の契機にしようと、業界再編やデジタルビジネスの拡大に向けて経営のスピードを上げてきた。
デンソー・イビデンの提携は、緩やかな連合を築きながら世界市場を攻略する日本流部品メーカー再編の号砲になるかもしれない。
(加藤貴行、池田将)