相次ぐ看板落下 対策進まぬ理由は

相次ぐ看板落下 対策進まぬ理由は
街なかにあふれる看板が突然、落下する事故が全国で相次いでいます。主な原因は老朽化と見られ、高度経済成長期にできたビル街や商店街などの看板が長い間、雨や風などにさらされた結果、もろくなっていると考えられています。国は自治体や所有者に対策を強化するよう求めていますが、取材を進めると、簡単には対策が進まない理由が見えてきました。(静岡放送局 高橋路記者)
ことし1月、静岡市は特殊な車を使って繁華街にある看板の実態調査を試験的に行いました。車には360度撮影できるカメラやGPS、それにレーザーなどが搭載され、看板の位置や数を把握できるのです。この日は大通りを2キロほど走らせただけでしたが、通り沿いに確認された看板は1148個にも上りました。このうち、市が以前から把握していたのは、63個しかなく、ほとんどの看板を把握していない実態が明らかになりました。

静岡市がこうした調査に乗り出したのには理由があります。おととし、札幌市の繁華街で起きた看板の部品が落下した事故では、歩道を歩いていた女性に部品が直撃し、意識不明の重体になりました。さらに長崎県では、去年、風に飛ばされた看板で女性が顔を切るけがをしたほか、4月10日にも北海道帯広市で長さ7メートルの大型の看板が歩道に落下しました。こうした看板の落下事故は国が把握しているだけでこの2年余りに全国で40件以上発生し、主な原因は老朽化と見られています。高度経済成長期に全国で発展したビル街や商店街でいま、看板の安全対策が急務となっているのです。

実態調査に乗り出す自治体

ことし1月、静岡市は特殊な車を使って繁華街にある看板の実態調査を試験的に行いました。車には360度撮影できるカメラやGPS、それにレーザーなどが搭載され、看板の位置や数を把握できるのです。この日は大通りを2キロほど走らせただけでしたが、通り沿いに確認された看板は1148個にも上りました。このうち、市が以前から把握していたのは、63個しかなく、ほとんどの看板を把握していない実態が明らかになりました。

静岡市がこうした調査に乗り出したのには理由があります。おととし、札幌市の繁華街で起きた看板の部品が落下した事故では、歩道を歩いていた女性に部品が直撃し、意識不明の重体になりました。さらに長崎県では、去年、風に飛ばされた看板で女性が顔を切るけがをしたほか、4月10日にも北海道帯広市で長さ7メートルの大型の看板が歩道に落下しました。こうした看板の落下事故は国が把握しているだけでこの2年余りに全国で40件以上発生し、主な原因は老朽化と見られています。高度経済成長期に全国で発展したビル街や商店街でいま、看板の安全対策が急務となっているのです。

街にあふれる老朽化の看板

私は、実際に街にある看板の老朽化を確かめるため、看板の点検などを行う専門家の屋外広告士とともに静岡市の商店街を見て歩きました。すると、ビルの壁面に看板を固定している金具の部分がさびているものや、一見、きれいに見えるものの、内側の金属がさびて膨らんでしまっている箱形の看板など、老朽化していると見られる看板がいくつも見つかりました。

中でも、ひときわ目立ったのが、5階建てのビルの屋上に設置された高さ15メートルの広告塔です。広告主がつかず、鉄の骨組みがむき出しになり、長年、雨や強い日ざしにさらされた結果、全体がさびて茶色く変色していました。専門家は「さびてゆるんだネジが落ちたり、足元から倒れたりする可能性もあり、危険な状態だ」と指摘しました。ビルのオーナーの男性に話を聞くと、広告塔はビルを建設した当初からあり、30年以上が経過しているといいます。大きな広告塔のため自治体から許可を得て設置したものですが、最近では安全管理がうやむやになっていたということです。男性は「時々、屋上にあがるので広告塔はいつも目にしていたし、だんだんさびているのはわかっていたが、危険だとは思わなかった。これまで一度も点検などはしてこなかった」と話していました。

なぜ安全対策なおざりに

では、なぜこれまで看板の安全対策がなおざりにされていたのでしょうか。看板は、それぞれの自治体が定める「屋外広告物条例」で規制されていますが、多くの自治体は、広告を表示する面積が一定以上の大きさのものや、高さがあるものに限って、設置の許可や定期的な安全点検を義務づけています。ふだん、私たちが街で見かける看板の多くは、規制の対象から外れているのです。このため、ほとんどの自治体は、どこにどのような看板が設置されているのか、すべてを把握できないでいます。国は、こうした「把握されていない看板」が全国にある看板の7割を占め、把握している看板の倍以上の数に上ると見ています。

対策強化にとまどう自治体

NHKが行ったアンケートより
こうした状況を受け、国は去年、看板の安全対策を強化するガイドラインをまとめました。この中では全国の自治体に対して屋外広告物条例を改正するよう求め、所有者などがすべての看板を定期的に点検して自治体に報告させようとしています。しかし、NHKが静岡県内の自治体にアンケートしたところ、条例の改正時期や内容などの検討を始めている自治体は、ことし1月末の時点で一つもないことがわかりました。その理由を自治体の担当者に聞くと、▽所有者が点検を依頼する専門家などの育成のめどがたたないことや、▽看板のある場所を把握して所有者に点検を促すことの難しさなどがあげられました。形も千差万別で、短期間のうちに所有者が変わることもある看板をどのように把握して安全を確認するのか、自治体にはとまどいが広がっているのです。

意識づけで成果あげる自治体も

一方、手探りで対策を進めている自治体もあります。浜松市で看板の安全対策を担当する職員、内藤文子さんは、看板の所有者と話をする中で意識を変える必要があると感じたといいます。定期的に点検し、古くなれば修理や部品の交換をするといった、当たり前とも言える安全管理の意識が話をした所有者の中にはほとんどなかったといいます。

そこで内藤さんはおととし、点検などを行う専門家とともに、看板の所有者や商店街の関係者を連れて地域の看板を見て回る取り組みを行いました。看板にさびがないかなどのチェックすべきポイントを専門家から教わり、危険な状態と判断すれば、所有者などに連絡するなどの対応をとるよううながしました。そして、危険性を指摘された8つの看板のうち7つまでが10か月以内に修繕されたり撤去されたりする成果をあげました。看板の危険性に気付けば、多くの所有者がきちんと対応することが分かったのです。

参加した商店街の役員は「自分の出した看板だけでなく、周囲の看板についても、安全管理という観点で見たことはなかった。イベントを通じて、そういうことを気にするようになり、会合などでも看板に関する意見が出るようになった。全体の意識が変わってきた」と話していました。

浜松市は、この取り組みのあとも、店やビルのオーナーが変わるタイミングなどに、看板の所有者だけでなく、商店街や不動産会社にも安全管理を意識してほしいと働きかけています。浜松市の内藤さんは、「多くの人は看板にあまり関心がないかもしれないが、まずは看板を見てもらうだけでもかなり変わると思う」と話し、手応えを感じている様子でした。全国各地に老朽化した看板があふれ、ひとたび落下すれば、重大な事故になりかねません。多くの自治体で看板の老朽化など実態把握が進まない中、行政や所有者だけでなく商店街の関係者など看板に関わる人たちが一緒になって対策を考える必要があると思います。