2014/1/28

クリーンなチケット取引を可能にしたチケット2次売買サイト「Stubhub」

尼口友厚(カート株式会社 CEO)

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あなたはコンサートやスポーツなどで、チケットが手に入らず悔しい思いをしたことはないだろうか?

どうしても行きたいイベントのチケットが完売しているときは、チケットの転売をしているサイトなどで探すことになるが、異常に値段が高かったり、入金後本当にチケットが手に入るかという不安もつきまとい、二の足を踏んでしまう。

さらにチケットの転売自体には規制はないが、転売目的での購入は違法であるし、チケットの転売と言えばついつい「ダフ屋」を連想してしまい、どうも良いイメージがない。

今回ご紹介する「Stubhub」は、そんなチケットの二次売買につきまといがちな悪いイメージを払拭し、大成功をおさめた米国のチケット売買サイトだ。

2012年には毎月1500万人が利用し、今や米国最大のチケット二次売買マーケットプレイスであるStubhub。多くのスポーツチームとパートナーシップを結んでおり、公式なチケット売買も行っている同サイトの軌跡をたどってみよう。

買い手にも売り手にも便利なチケット取引を

Stubhubで取り扱っているチケットは主に3種類に分かれる。

メジャーリーグやアメフトなどのスポーツ、クラシック・ジャズ・ロック・ポップスといった音楽、そしてお芝居やミュージカルなどの演劇のチケットだ。中でもスポーツチケットの取り扱いは圧倒的で、約75%を占めるという。

チケットの購入方法はシンプル。目当てのイベントのページを開くと、下の図のように売りに出されているチケットの一覧と会場の座席表が表示される。

座席のセクションをクリックすると、そのセクション内での最安値と、売られているチケット数を見る事ができる。

表示されている料金には手数料がすでに含まれているので、購入の際に料金が加算されて驚くこともない。ちなみにStubhubはチケット売買に対するマージンを一律25%に定めている。内訳は買い手に10%、売り手に15%だ。

販売中のチケットには、枚数、座席の位置、値段といった情報の他に、チケットの受け取り方法も指定されている。従来のようにチケットを郵送で送ってもらう方法もあるが、「Instant Download」といってeチケットをPDFで受け取ることも可能だ。イベントの日程が迫っているときなどはPDFでの受け取りはとても便利だ。

欲しいチケットが見つかれば購入に進む。万が一チケットが偽物だった場合にはStubhubが同じようなチケットをすぐに手配してくれるか、全額を返金してくれる「保証」付きなので、安心してチケットを購入することができる。

売り手側にとっても便利なしくみであることも見逃せない。

チケット掲載時の手数料は無料のため、気軽に売りに出すことができる。売買が成立すれば15%の手数料を引いた代金がStubhubから振り込まれるしくみだ。

CraigslistやeBayと違い、Stubhubが買い手とのやり取りを代行してくれるので、買い手からの入金があるかどうかの心配や、冷やかしの問い合わせに対応する必要もない。チケットを掲載したあとに値段の変更が簡単にできることもポイントだろう。

不愉快な経験を元に創業

このようなチケット売買サイトを創業したのは、Eric Baker(写真左、以下ベイカー)氏とJeff Fluhr(以下フルー)氏というスタンフォード大学ビジネススクールの同級生の2人だ。

きっかけは在学当時のこと。ベイカー氏のガールフレンドが、大学の春休みにニューヨークでライオンキングのミュージカルを見たいと言い出した。

ところがブロードウェイのチケットオフィスは完売。ベイカー氏は仕方なくチケットブローカーに数百ドルを支払い、チケットを買う羽目になる。

さらにチケット購入のための手続きは面倒で、その後実際にチケットが手に入るまで「もしかしたら詐欺だったのでは?」との不安にかられた。

チケットが手に入るまでの面倒さ、ブローカーに対する安心感のなさ、法外なチケットの値段……。チケットの二次売買が抱えるさまざまな問題に納得がいかなかったベイカー氏は「もっと良い方法があっていいんじゃないか?」と考える。

「僕はコンサートやスポーツを見に行くのが大好きだけど、みんなもそれぞれ、好きなアーティスト、スポーツ、ミュージカルがあると思う。ということは、みんな人生のうち一度はチケットを購入する機会があるわけで、これはビジネスになると思ったんだ」(ベイカー氏)

こうしてベイカー氏は同級生のフルー氏とともに、使いやすく安全なチケット取引ができるサイトを目指し、Stubhubを立ち上げたのである。

スポーツ界に進出、そして音楽も

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創業当初よりStubhubは、スポーツのチケット売買をサイト上で行っていたが、スポーツチームや音楽業界との連携により、より大きな成功と顧客からの信頼を得ていった。

きっかけは、ベイカー氏が「シーズンチケット」に着目したことにある。

シーズンチケットとは、年間を通じた予約席のこと。メジャーリーグやアメフトの人気の試合では、バックネット裏や1階席など、良い席はほとんどシーズンチケットとして売られている。

そのため、ファンが1試合だけ良い席でスポーツを観たいと思っても、公式サイトでは3階席4階席など条件の悪いチケットしか扱っておらず、シーズンチケットの所有者から二次売買してもらうしか方法がなかった。

一方シーズンチケットの購入者も、全試合観戦できるとは限らない。

観戦しない試合のチケットを簡単に売ることができれば、より気軽にシーズンチケットを購入しやすくなるのではないか。そうなれば球団にとっても悪くない話だ。

そう考えたベイカー氏らは、各スポーツチームと交渉を始めるべく動き出した。

交渉にあたって大きな力になったのが、Stubhubの投資家のひとりで、アメリカンフットボールの名門チームSan Francisco 49ersの元クォーターバック、Steve Young(以下ヤング)氏だ。

後に殿堂入りを果たした彼は、プレーのかたわらロースクールに通い、弁護士の資格を取得するという異色の経歴の持ち主でもあった。シリコンバレーの起業家精神に強い憧れを持っていた彼は、Stubhubのアドバイザーに就任し、そのコネクションでベイカー氏らの交渉のきっかけをつくったのである。

チケットの二次売買に否定的なチーム関係者は、はじめはベイカー氏らの提案を渋っていたが、シーズンチケットの購入が増える可能性と、転売によって空席を埋め、観客動員数が増えるメリットを粘り強く説明した結果、NFLの2チームが公式パートナーに名乗りを上げてくれた。

これらのチームがシーズンチケットをEチケットでも取り扱ったこともあって、シーズンチケットの売上はどんどん上昇。空席を埋めることで観客動員数も増え、Stubhub、チーム双方に満足な結果となったのだ。

実際に数字として結果があらわれると、徐々にパートナーとなるチームも増えていった。今では同サイトは、アメフトやメジャーリーグのみならず、NBA、ホッケー、サッカー、カレッジスポーツなど数多くのチームと公式パートナーシップを結んでいる。

またStubhubは、音楽の分野にも進出している。

カナダ人歌手のアラニス・モリセットのマネージャー、Scott Welch氏をアドバイザーに迎えると、アラニスのコンサート最前列のチケットやバックステージパスなどをStubhub上でオークション形式で販売。

これが成功し話題になると、ブリトニー・スピアーズやクリスティーナ・アギレラといった有名アーティストや司会者のエレン・デジェネレスなどが続々Stubhubとのチャリティオークションを企画し始めた。こうしてStubhubはスポーツや音楽の分野で大きな存在感を示していったのだ。

クリーンなチケット取引を

2007年、Stubhubは3億1000万ドル(約323億円)という破格の金額でeBayに買収された。現在はeBayによって運営されている。

Stubhub創業以前、チケット二次売買は主にCraigslistかeBayで行われていた。

皮肉なことにeBayは単にチケットを取引する場所を提供するだけで売買によるトラブルが多く、チケット2次売買のイメージを悪化させる一端を担っていたといっても過言ではない状態だった。

Stubhubはそんな怪しいイメージを新しい技術や発明で払拭したわけではない。

取引に必要なルールを明確化し、販売元から売買を公式に認めてもらう。業界の抱える問題点に気づきをそれを修正し、チケット売買を本来あるべき姿に戻したとも言えるだろう。この気づきに300億円以上の価値があったことになる。

2012年には英国版がロンチし、日本やヨーロッパへの進出も現在検討中という。世界中のチケット2次売買がクリーンになる日も近いかもしれない。

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