【コラム】塩野七生に送った手紙

 先日、塩野七生(79)の新刊『ギリシア人の物語1』(サルリム社、全3巻予定)が出ました。そうです。『ローマ人の物語』(全15巻)や『十字軍物語』(全3巻)など、迫力あふれる筆致で韓国でもミリオンセラーを記録した作家です。同時に思い浮かぶ、不都合な記憶もあります。2014年に月刊誌『文芸春秋』に寄稿した記事のせいです。

 インドネシアに住んでいたオランダ人女性を強制的に慰安婦にした、いわゆる「スマラン事件」との関連で、塩野七生は突拍子もないことを言いました。白人女性を慰安婦にしたという話が欧米に知られたら致命的なので、政府レベルで対処して回避すべきだという主張でした。既に日本政府が認めて謝罪した事件だったにもかかわらず、です。また、元慰安婦の証言の信ぴょう性についても疑問を呈しました。オランダよりはるかに大きな苦痛を受けた韓国の立場からすると、怒るしかない一件でした。

 3年前の事件ですが、何事もなかったかのように紹介はできませんでした。50年以上もイタリアで暮らしている塩野七生に、電子メールを送りました。もちろん、単に当時の問題についての釈明だけが気になったわけではありません。

 きょうのBooksカバーストーリー、『暴政』の書評でも明らかにしていますが、われわれが歴史を読み、学ぶ理由は、過去の誤りを繰り返すためではなく、そこから解放されるためです。ところが最近、世界各国は「易地思之」(相手の立場になってものを考える)はおろか、それまで持っていた眼力や度量すらなくしつつあるという、拭い難い懸念があります。歴史は各自の視線で眺めるしかない、としてでもです。

 世界の民主主義が後退しているという憂いはかなりあります。塩野七生の『ギリシア人の物語』は、そういう点で、なおのこと気になる著作です。民主主義が誕生した時・場所を訪ねていく旅だからです。中心になるのは、紀元前6世紀の都市国家アテネ。

 加害者と被害者の視線が衝突するとき、全体主義が民主主義を圧迫するとき、われわれはどうすべきでしょうか。紀元前6世紀のアテネ・スパルタと2017年の韓国・日本の間隙はどれほど遠く、あるいは近いのでしょうか。3月22日現在、返信はまだ届いていません。塩野七生の率直な答えが気になります。

魚秀雄(オ・スウン)Booksチーム長
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