事が終るとジョンハンはさっさと立ち上がって身なりを整えた。
「どこへ行く?」
ジョシュアは尋ねた。
気付けばジョンハンの服は全く乱れていないのに、自分だけ素っ裸でコールボーイにでもなったような気分だった。
「部屋に帰る」
「今夜はここにいて、ジョンハン。まだ話したいことがある」
「今は話を聞く気分じゃない」
「4年前のことを説明させてくれ。なぜ親に嘘をつく必要があったかを」
「君が説明するまでもない。もう調べはついてる」
「僕を調査したってこと!?」
「そうさ。君の御両親は、お兄さんの死を君の責任にしたんだろ?その時から君は、親の言いなりになってきた。親に人生をコントロールされることを許してきた。そうだろ?」
ジョンハンは一旦間を置いてから先を続けた。
「親の前で俺を擁護できなかったのは、俺への愛がその程度だったからだ。あの時君に対する信頼も愛も全て消えた。君が俺を壊したんだ」
「そんな・・・」
ただ泣くことしかできないジョシュアを置いて、ジョンハンは何も言わず部屋から出て行った。
ジョンハンが出て行った後、ジョシュアは頭まで毛布をかぶって号泣した。
そして兄が死んだ時のことを思い返した。
それはまだLAで暮らしていた17歳の頃だった。
「もうこんな時間で天気も良くないんだから、外出はいけません。それに私とお父さんはこれからWHOのイベントに行くのよ」
元ミスコリアのジョシュアの母親は、当時からチャリティ活動を趣味として定着させていた。
「でも今日はジュンフィの誕生会なんだよ!僕が行かなかったらショック受けるよ。それにもうプレゼントだって用意してる」
ジョシュアはスポンジボブのぬいぐるみを母親に見せた。
「今夜じゃなくて明日渡せばいいでしょ。今夜は嵐が来るからやめなさい」
ジョシュアはムッとした。
「ジョシュア、言うこと聞いて。お母さんがダメと言ったらダメなの。成績が落ちてるんだから家で勉強しなさい。最近友達と遊んでばかりでしょ。それに家にいたっていっつもパソコンとにらめっこ。たまには勉強しなさい」
「もういい!」
ジョシュアは自分の部屋に駆けて行き、ある番号に電話した。
「もしもしバーノン?」
「ジョシュア、今どこ?」
「まだ家。外出しちゃダメだってお母さんに言われた。今日嵐が来るからって」
バーノンはジョシュアにできた初めての彼氏だ。
「なら仕方ないよ。デートはまた今度にしよう」
「でも今日一ヶ月記念だよ」
「そうだね。俺に何かプレゼントがあるんだっけ?」
「そう。今夜あげたい」
「でもお母さんがダメって言うなら仕方ないよ。明日会おう」
「ダメ!親はどうせ出かけるから迎えに来て。車は家の裏に停めればいい」
「本気?本当に嵐が来そうだよ。明日でもいんじゃない?」
「風が強いだけだよ。それに絶対今日プレゼントあげたいんだ。だから親が家出たらまた連絡する」
「わかった・・・。ジョシュアがそこまで言うなら」
バーノンは、ジョシュアより一つ年下の、読書好きのごく普通の少年だった。
ジョシュアはそもそも同い年のムン・ジュンフィと親友だったが、ある日ジュンフィの母親が再婚し、新しくできた義理の弟を紹介された。
それがバーノンだった。
バーノンはその時ボストンクリームドーナツの箱を持っていて、ジョシュアに気前よく箱ごとくれた。
ジョシュアは彼に一目ぼれした。
ジョシュアがボストンクリームドーナツを好きになったのは、バーノンから初めてもらったものがボストンクリームドーナツだったからだ。
その日から3人は一緒に行動するようになった。
互いの家で遊んだり、ショッピングモールや映画にも一緒に行った。
ムン一家は一般的な中流家庭で、バーノンの母親もジュンフィの父親も、どちらとも国家公務員だった。
「バーノン、ふたりが出かけたから迎えに来て」
「風がさっきより強くなってる」
「ただの風だろ。2時間くらいどうってことない」
「わかった・・・。じゃあと15分で行くよ」
窓からバーノンの車を確認するなり、ジョシュアはスポンジボブのぬいぐるみを持って家を飛び出した。
「Hi、ジョシュア」
バーノンは、助手席に乗り込んだジョシュアを笑顔で迎えた。
「Happy anniversary, Vernon!I love you so much!」
ジョシュアはバーノンに抱きついてキスをした。
「I love you, too。今日はすごくいい匂いがするね」
ジョシュアがもっともっとと唇を求めてくるので、バーノンは笑いながら彼を押し戻した。
「キスは後でたっぷりできるだろ。嵐が来る前に早く行こう」
「わかった」
「ところでそれが例の俺へのプレゼント?」
バーノンはジョシュアの手に握られたスポンジボブのぬいぐるみに視線を落とした。
「ううん。これはジュンフィへの誕生日プレゼント」
「え?でもジュンフィの誕生日はまだまだ先だよ」
ジョシュアはペロッと舌を出した。
「もしかして・・・親をだましたの?ひどい息子だな」
「だってそうでもしないと今日君と一緒にいれないじゃん」
「もう二度とそういう嘘はつくなよ。親をだますなんて」
「わかった。ごめん。もう嘘はつかない」