福島は汚染が少なかったと言って安心はするな

 2巡目の検査で、ついに甲状腺がんが増加して44人となった。ユーリーが心配していたことが起きている。

 ユーリーは「もう1つ忘れないでほしい」と言った。「ベラルーシ共和国では、放射線汚染の低いところでも甲状腺がんが見つかっている。福島県がI-131の汚染量が低いからと言って、安心しない方がいい」と言うのだ。

 「放射性ヨウ素が刺激となり、長期間、時間をかけてがんになる可能性はある。だから、長期間、検診を続けた方がいい」と言った。

子供の甲状腺がんは転移が多い

 もう1回確認をとった。「甲状腺がん検診で見つかったがんについて、日本では、見つけなくていいがんを見つけたという意見もあるが、どう思うか」と聞いた。

 「子供の甲状腺がんは、リンパ節転移する確率が高いのが特徴。ベラルーシ共和国で手術せず様子を見た例と、手術をした例とでは、子供の寿命は格段に違った。手術すれば、ほとんどの場合、高齢者になるまで健康に生きることができる」

 「見つけなくていいがんを見つけた、なんて言ってはいけない。見つけたがんは必ず手術した方がいい。数年経過を見たこともある。すると、次にする手術は大きな手術になった」

「埋葬の村」と呼ばれる汚染地域

 「だから、見つけたがんはすぐに手術をした方がいい。それが30年間チェルノブイリで甲状腺がんと闘ってきた自分の考えだ」

 こう語ったのだ。

 「福島県だけではなく、周辺の県も検診をした方がいいのか」と聞いたら、「コストの問題だ」という。「お金に余裕があるなら、やるべきだ」というのが彼の考えのようだった。

事故から31年経っても住めない原発から4キロのプリピャチ

 このユーリーの言葉と、重なる意見を言っている日本の専門家がいる。福島県立医大の教授、鈴木眞一氏。

 県立医大で行った手術の72人の子供に、リンパ節転移があった。加えて、甲状腺外浸潤や遠隔転移を入れると、子供の甲状腺がんの92%が、浸潤や転移していたというのだ。

 鈴木教授も、ユーリーと同じ考えだ。検診をやり、早期発見するようにし、見つけたらできるだけ手術をすること。これが大事な点だ。