参院決算委員会の最中に東日本大震災が発生し、机の下にもぐる速記者ら。菅直人首相も驚いて周りを見渡した=平成23年3月11日(矢島康弘撮影)

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 米国のジャーナリスト、マイケル・キンズリーは「失言とは政治家が本音を話すこと」と語っている。

 今村雅弘前復興相の「(東日本大震災は)東北で良かった」は本音が出た。「中央は東北をさげすんでいる」と改めて思い知る。

 石原慎太郎元東京都知事の「震災は天罰」発言と似ている。「天罰を受けたのがなぜ石原氏でなく、東北の人なのか」という問いに答えがなく、被災者は東北蔑視の臭いをかぎ取った。

 〈被災地に寄り添い(中略)復興事業を進める〉

 復興庁のホームページにはこうある。その組織のトップは正反対の言葉で被災者を突き放した。

 復興庁ができて5年。この間に大臣が6人代わった。全員が初入閣。「入閣適齢期」を過ぎた議員の「滞貨一掃」で用意された椅子にしか見えない。

 今村氏の後任に吉野正芳衆院議員が充てられた。被災地選挙区の選出で「東北を見下す言動はないだろう」と言われる。だが、彼が平成24年の衆院選で、被災地から離れた比例中国に「国替え」して当選した事実は忘れられない。

 日本は先の大戦で敗れ、体制を軍国主義から民主主義に百八十度転換した。オイルショックでは世界一の省エネ国にモデルチェンジする。日本人は危機に直面すると、国の形を大胆に変えて乗り切ってきた。

 震災ではどうか。東京は相変わらず埋め立て開発に突き進んでいるし、下町の防火対策も進んでいない。

 日本は大震災時代の真っただ中にいる。平成期に起き、気象庁が命名した大地震は14回。これほどの地震活性期は有史以来数えるほどしかない。しかも、活性期は首都直下地震と南海トラフ地震の発生を待たないと終わりを見ない。

 それでも、この国は災害に強い国に生まれ変わろうとしない。お上の防災対策は不十分で、国民の危機意識も高まらない。

 それは震災があっても、中央が国の危機と受け止めていないからだ。阪神大震災で神戸が火の海になっても。東日本大震災で1万8500人が犠牲になっても。中央にとって結局「人ごと」で、復興相の言う通り「あっちの方」の出来事でしかない。この国は東京が痛い目に遭わないと目を覚まさない。

 今回の失言を政治家個人の責任で終わらせてはならない。被災地以外の国民の本音を映し出している。

 東京の人に聞きたい。

 あなたも「東北で良かった」と思っていませんか。(東北特派員 伊藤寿行)