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毎月第4木曜更新!

妊産婦と子どもが気をつけるべき食品

 先日、はちみつを離乳食としてとった乳児が「乳児ボツリヌス症」で死亡するという悲しい事故がありました。母子手帳にも「1歳未満の子ども(乳児)には与えないように」と記載されているのですが、今回の事件で初めて知った人も多いようです。こうした不幸な事故を繰り返さないためにも、はちみつに限らず、妊産婦や子どもの健康を害する恐れのある食品についてまとめてみました。

<妊産婦が気をつけたい食品>
○マグロやカジキなどの大型の魚やクジラ
大きな魚やクジラは海に住む小さな生き物や小型の魚をたくさん食べて育つため、小さな生き物に含まれている水銀が蓄積しています。水銀は細胞分裂が活発な胎児の発育に悪影響を与えやすいため、特に妊娠中はあまりたくさん食べないようにしたいものです。本マグロやメカジキであれば1週間に80g程度、ミナミマグロやマカジキであれば160g程度までが目安です。魚には妊娠中に必要な栄養素が豊富に含まれていますから、小魚と組み合わせて献立を考えるとよいでしょう。

詳しく知りたい方は厚生労働省作成のパンフレットが参考になります。

○生ハムやナチュラルチーズ、スモークサーモン
生ハムやソフトタイプのナチュラルチーズやスモークサーモン、無殺菌の牛乳などから、まれにリステリアという細菌が検出されることがあります。健康な成人では感染の危険はあまりありませんが、妊娠中は感染しやすく、胎児にも重篤な症状がでることがありますので控えたほうが無難な食品です。また、リステリアは私たちの身の回りに普通に存在する細菌ですから、手作りをうたった生ハムやチーズなどでは製造中の衛生管理が不十分であることが多いために汚染の危険性はより高いと考えられます。
また、生で食べるのは危険ですが、リステリアは熱に弱いので、加熱調理をすれば安心して食べることができます。

<妊産婦と子どもの両方が気をつけたい食品>
○昆布やヒジキ
ミネラルが豊富な海藻は妊娠中の女性や子どもにすすめられることの多い食材ですが、食べ過ぎには注意が必要です。昆布にはヨウ素がたくさん含まれているのですが、胎児や小さい子どもはヨウ素の過剰症を発症しやすいため、昆布や昆布ダシの入った料理があまり多くならないように配慮するとよいでしょう。ヒジキは発がん性が指摘されている無機ヒ素の多い食品ですので、使用する場合には水戻しのあと、何度もすすいでから調理をするとよいでしょう。もともとヒジキを好まないのであれば敢えて食べる必要はありません。離乳食からも外したほうが無難です。

<乳児が気をつけたい食品>
○はちみつ
はちみつには、まれにボツリヌス菌の芽胞が混入することがあるのですが、蜂が自然環境に咲く花から採取するものですから、混入を防ぐことは不可能です。「乳児ボツリヌス症」になる危険性があるため、1歳未満の子どもには与えないようにしましょう。
では、なぜ1歳未満だと「乳児ボツリヌス症」になるのでしょうか?
ボツリヌス菌は、主に土や水中などの身近な環境に存在している嫌気性菌で、熱に強い芽胞を形成します。どのくらい熱に強いかというと、120℃以上で4分間以上加熱しないと壊すことができないほど。つまり、家庭での加熱では殺菌できません。このボツリヌス菌の芽胞は、酸素が少ない環境になると増殖する特徴があるため、調理して時間がたった食品の中や保存食品の中で繁殖し「ボツリヌス毒素」という強力な毒を作って食中毒を起こします。これが「ボツリヌス食中毒」ですね。
健康な成人の場合、はちみつに含まれるボツリヌス菌の芽胞を摂っても体内で増殖することはないのですが、乳児特有の腸内環境ではボツリヌス菌が定着しやすいため、腸の中で増殖しボツリヌス毒素を作り出してしまいます。だから「乳児ボツリヌス症」になるというわけです。
はちみつの他にも黒糖やコーンシロップ、井戸水からもボツリヌス菌が検出された事例があるので要注意。また、畑の土の中に存在する菌ですので、土のついた野菜はしっかりと洗ってから調理するようにしましょう。泥が付着した野菜を使ったスープを食べて発症した事例もあります。

<子どもが気をつけたい食品>
○ジャガイモ
ジャガイモの芽だけでなく、緑色になった皮にもソラニンという毒が含まれているので気をつけてください。大人も食べないほうがいいのですが、特に子どもは大人に比べて中毒になりやすいのです。念のため、離乳食にジャガイモを使用するときは皮を厚く剥き、その後も小さいうちは皮ごと食べるような料理は避けたほうが無難でしょう。
なお、弱い光に当たるだけでもソラニンが作られますから、ジャガイモを保存するときは光を完全に防ぐようにしてください。

○ギンナン
子どもにはあまり食べさせたくない食品です。食べ過ぎると、ギンナン中毒だけでなく、ギンナンに含まれる「4-O-メチルピリドキシン」という成分がビタミンB6の働きを邪魔することでビタミンB6の欠乏症状を引き起こす危険性があります。ほとんどは10歳未満の子どもで、中にはたった5、6個程度でも中毒を起こした事例もありますから、小学生までの子どもにはあまり与えないほうがよさそうです。料理の中に1、2個入っている程度なら問題ないでしょう。

このほか、以前書いたのですが、生ものやお弁当などによる食中毒、誤嚥による窒息にも要注意です。連載第8回の「危険な食品ってあるの?」、第1回の「お弁当と食中毒」も読んでみてくださいね。

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著者プロフィール

成田崇信

1975年、東京生まれ。管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学などを経て、現在は社会福祉法人に勤務。ペンネーム・道良寧子(みちよしねこ)名義で、主にインターネット上で食と健康に関する啓蒙活動を行っている。同名義での共著書に『謎解き超科学』(彩図社)がある。

著書

親子の食事

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